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2006年11月号

〓〓〓試写室だより 封切はこれからだ!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓第七号〓〓〓

     映画を見るプロが選ぶベスト映画&裏ベスト映画
       ∴・∴・∴2006年11月封切り篇∴・∴・∴

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【ベスト】これぞまぎれもなく、映画を見るプロが選んだ11月の最高作。心して見よ。
【裏ベスト】出来、不出来は二の次、偏愛あり、ヒイキの引き倒しあり、極私的なケッサク選!
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INDEX(人気順/カッコ内は選者/日付は封切り日)
【ベスト】
1位 プラダを着た悪魔(稲垣、宇田川、江戸木、大森、品田、高村、みのわ)
   http://movies.foxjapan.com/devilwearsprada/ 11月18日
1位 麦の穂をゆらす風(稲垣、浦崎、品田、田中、西脇、皆川、宮城)
   http://www.muginoho.jp/ 11月
3位 キング 罪の王(内海、浦崎、黒田、高橋、田中、森)
   http://www.king-movie.jp/ 11月18日
3位 ニキフォル 知られざる天才画家の肖像(浦崎、江戸木、加藤、河原、品田、田中)
   http://www.nikifor-movie.com/ 11月3日
5位 トゥモロー・ワールド(秋本、江戸木、佐々木、高橋)
   http://www.tomorrow-world.com/ 11月18日
6位 エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したか?(浦崎、高橋、野村)
   http://enron-movie.com/ 11月18日
6位 ナチョ・リブレ 覆面の神様(安藤、みのわ、宮崎)
   http://www.nacho-movie.jp/top.html 11月3日
8位 unknown アンノウン(内海、西脇)
   http://www.movie-eye.com/unknown/ 11月3日
8位 映画監督って何だ!(加藤、山田)
   http://www.dgj.or.jp/modules/contents2/ 11月4日
8位 CHAOS カオス(安藤、野村)
   http://www.chaos-movie.jp/ 11月4日
8位 ブロック・パーティー(みのわ、森)
   http://www.blockparty.jp/home.html 11月11日
8位 ユア・マイ・サンシャイン(塩田、西脇)
   http://www.sunshine-movie.jp/ 11月3日
以下13位
●赤い鯨と白い蛇(増當)http://www.asproject.jp/ 11月25日
●ウィンター・ソング(暉峻)http://www.winter-song.jp/ 11月11日
●家門の危機(内海)http://www.kamon-kiki.jp/ 11月18日
●9.11-8.15 日本心中(加藤)http://www.nihonshinju.com/ 11月4日
●氷の微笑2(秋本)http://www.ko-ri2.jp/ 11月11日
●TANNKA 短歌(秋本)http://www.tannka.jp/index.html 11月11日
●テキサス・チェーンソー ビギニング(吉田)http://www.texaschainsaw.jp/top.html 11月11日
●平成の坂田藤十郎(加藤)http://www.azmax-pro.co.jp/kabuki.html#kabukitop1 11月20日
○父親たちの星条旗(浦崎、高崎、増當)http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/ 10月28日
 注)『父親たちの星条旗』は11月封切ではないため集計の対象にはなっていません。

【裏ベスト】
1位 キング 罪の王(河原、品田、西脇、三留、宮崎)
   http://www.king-movie.jp/ 11月18日
2位 unknown アンノウン(秋本、加藤、品田、高橋)
   http://www.movie-eye.com/unknown/ 11月3日
2位 ナチョ・リブレ 覆面の神様(内海、江戸木、品田、森)
   http://www.nacho-movie.jp/top.html 11月3日
4位 CHAOS カオス(加藤、高橋、三留)
   http://www.chaos-movie.jp/ 11月4日
4位 椿山課長の七日間(内海、野村、増當)
   http://www.tsubakiyama.jp/ 11月18日
4位 テキサス・チェーンソー ビギニング(秋本、塩田、西脇)
   http://www.texaschainsaw.jp/top.html 11月11日
4位 ニキフォル 知られざる天才画家の肖像(安藤、野村、三留)
   http://www.nikifor-movie.com/ 11月3日
8位 ウィンター・ソング(宮城、森)
   http://www.winter-song.jp/ 11月11日
以下9位
●ありがとう(内海)http://www.arigato-movie.jp/ 11月25日
●映画監督って何だ!(塩田)http://www.dgj.or.jp/modules/contents2/ 11月4日
●エコール(宇田川)http://www.ecole-movie.jp/ 11月4日
 ↑第六号参照:裏ベスト第3位
●エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したか?(稲垣)http://enron-movie.com/ 11月18日
●9.11-8.15日本心中(皆川)http://www.nihonshinju.com/ 11月4日
●氷の微笑2(加藤)http://www.ko-ri2.jp/ 11月11日
●7月24日通りのクリスマス(大森)http://www.724-christmas.com/index.html 11月3日
●ソウ3(吉田)http://saw-3.jp/ 11月18日
●CHiLDREN チルドレン(品田)http://www.wowow.co.jp/dramaw/children/ 11月4日
●トゥモロー・ワールド(西脇)http://www.tomorrow-world.com/ 11月18日
●ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー(秋本)http://www.glassymovie.jp/naomi/ 11月11日
●HAZARD ハザード(田中)http://www.hazardmovie.com/ 11月11日
●プラダを着た悪魔(黒田)http://movies.foxjapan.com/devilwearsprada/ 11月18日
●麦の穂をゆらす風(江戸木)http://www.muginoho.jp/ 11月
●めぐみ―引き裂かれた家族の30年(浦崎)http://www.megumiyokota.com/ 11月25日
○ダニエラという女(河原)http://www.crest-inter.co.jp/daniela/index2.html 12月
○父親たちの星条旗(高村)http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/ 10月28日
○虹の女神 Rainbow Song(増當)http://rainbowsong.jp/start.html 10月28日
○美の改革者 武智鉄二全集(宇田川)http://www.takechitetsuji.com/ 10月28日
 注)○印の4本は11月封切ではないため集計の対象にはなっていません。

【総合】
1位   『キング 罪の王』
2位   『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』
同列3位 『プラダを着た悪魔』『麦の穂をゆらす風』

◆◇◆執筆者プロフィール、近況、著作はHPに掲載◆◇◆
    http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest

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★秋本鉄次さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●氷の微笑2
  ●TANNKA 短歌
  ●トゥモロー・ワールド

  今月は表も裏も天下御免の傑作! というほどの作品はない。そのドサクサに紛れ
 て、「氷の微笑2」なんぞを滑り込ませてしまった。魔がさしたんです、酔ってて覚え
 ていません、一度悪いことをする感覚を味わいたくて…言い訳はナンボでもたつぞ。も
 う、俺が弁護しなくて誰がする! の裂帛の気構えというか、ファン歴20年の股間…
 じゃなかった、沽券にかけて、毒を食らわばシャロンまで! 今回アイスピック攻撃も
 ノーパン攻撃もないが、五十路手前でこの脱ぎ度はある意味立派。肉は腐る手前が旨
 い! と実感した。ついでにハダカ三昧でいけば、黒谷友香の濡れ場猛打賞の
 「TANNKA」。突っ込みどころ満載でも、この無防備ぶり、ノーガード戦法はかえっ
 て潔い。「トゥモロー~」は洋画の大作SFだが、ハリウッド臭が薄く、アルフォンソ・
 キュアロン臭が強いのが何より。ガキが生まれる生まれないなんてことにはあまり興味
 がないが、ダークなロンドン市街戦の長回し描写はけっこうスリリングだった。

 【裏ベスト】
  ●テキサス・チェーンソー ビギニング
  ●unknown アンノウン
  ●ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー

  いわゆる“ビギニングもの”(そんなジャンルあるんか?)の中では、かなりの出来と
 みた「テキサス~」。ホラー・シリーズの派生作品の中でも上等で、ちゃんとパート1
 への橋渡しも無理がない。辻褄合わせの苦労が忍ばれる。正しいビギニングものだ。黒
 髪、パツキンとねえちゃんもちゃんと取り揃え、ゲログロ描写も抜かりなし。それにし
 てもR・リー・アーメイのおっさんはこういう深南部特産の超保守ミリタリーオヤジを
 演じさせると右に出る者ナシだね。「アンノウン」も小ぶりながら出来の良い“記憶喪
 失”クライム・サスペンス。「ナオミ・ワッツ~」は成功しても“ドツボ”“不幸”と呼ばれ
 る不思議な女優の原点を虚実皮膜の中に魅せる。ガツンガツンと風呂場ファック、まく
 り上げての便器座りもナマっぽい。こういうねえちゃんのジャーマネをやっても面白い
 かな(ただし短期間)と思った。

 【封切は終わったけれど…】
  10月の紹介遅れ作品の目玉はやっぱ「父親たちの星条旗」でしょ。苛烈な戦闘シーン
 や捏造された英雄たちの悲劇を通じて、イーストウッドは『いまさら名誉も勲章もいら
 ん。英雄扱いも必要ない。ささやかに生きて行くだけの誇りと待遇さえあれば』と自分
 の実人生を振り返るように語るのだ。『“戦争を知っている”というバカ者に限って戦場
 に行っていない奴が多い』という冒頭のセリフにはガツンときた。一転して「スネー
 ク・フライト」はバカバカしくて面白いノーテンキ娯楽映画の見本だが、バカを真剣に
 やってるサミュエル・L・ジャクソンは偉い。腹を抱えながら楽しんだぞ。見る前、絶
 対つまらない予感、と思って見た「虹の女神」が意外とよかった。「幸福のスイッチ」
 とともに“10月上野樹里強化月間”の賜物か。おかげで、テレビの「のだめカンタービ
 レ」まで見る始末。彼女、演技うまいよ。素顔は生意気らしいけど。いいじゃん。秋吉
 久美子だって、桃井かおりだって、南野陽子だって、若いときにゃそう言われたんだか
 ら。女優やるならそれぐらいがちょうどヨロシ。

★安藤智恵子さん(ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様
  ●CHAOS カオス

  メキシコ版「タイガーマスク」みたいな『ナチョ・リブレ』。主演のジャック・ブラ
 ックもそうだけど、共演しているメキシコ人俳優のルックスがもう反則! コメディを
 やるために生まれてきたとしか思えない顔、体。出てくるだけで笑えます。キャスティ
 ング担当者はエライ! 『カオス』はラスト近くの畳み掛けるようなドンデン返しが痛
 快至極。脚本、映像、音楽、役者すべてよかったが、特にウェズリー・スナイプス……
 あまりにもかっこよくって、目がハート型になっちゃいました。

 【裏ベスト】
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像

  女装した男性を女優が演じるのは今や珍しくもないが、この映画の主演女優は一寸の
 隙もなく男になりきっている。どこからどう見ても男にしか見えない。これは必見、と
 にかくすごい。今っぽく言うと、フツーにヤバイです。

 【封切は終わったけれど…】
  『映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』。本格ハリウッド・ホラ
 ー・タッチの作り込まれた映像に魅了され(ホラー不感症の私が映像に恐怖を感じたの
 は『オーメン』以来たぶん初めて)、観客に感動を与えることを拒否するかのようなオ
 チに呆然…。ムトウユージ監督は、日本人離れしたナンセンス・コメディアンだと思
 う。11月24日にDVD発売予定。

★稲垣都々世さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●麦の穂をゆらす風
  ●プラダを着た悪魔

  結構たくさん見ているのに、忘れたい映画ばかり。この2本のおかげで救われた。ケ
 ン・ローチはいつだって素晴らしい。個人的には「レイニング・ストーンズ」「ナビゲ
 ーター」系の方が好きだし、「大地と自由」より優れているかどうかはわからないが、
 心打たれる。一方、「プラダ……」はハリウッド映画の楽しさを堪能させてくれた。メ
 リル・ストリープの身体の絞り方に“さすが女優”と感嘆し、あの徹底した嫌味に心底
 笑った。

 【裏ベスト】
  ●エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?

  経済には疎くてニュースを聞いたときはちんぷんかんぷんだったが、この映画の適切
 にしてわかりやすい解説によって少しわかった気になった。ただでさえ目に見えない金
 のやりとり、粉飾会計がテーマだから、映像集めが大変だったろうが、興味をつなぐ内
 容といくつかのスクープ的な映像とテープの音声で何とかしのぐ。カリフォルニアの停
 電との関係には驚いた。だが、結局「やっぱりよくわかんない」ことに気づいて“裏”に
 する。

★宇田川幸洋さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●プラダを着た悪魔

  今月は、いつにもまして試写を見ていないので、10月28日公開ではあるが、前回に
 まにあうように試写をやっていなかったため、きっとみなさん今回に入れているであろ
 う『父親たちの星条旗』も、まだ見ていないのです。
  『プラダを着た悪魔』は、ファッションもまた勝負のネタになることを発見したとこ
 ろがおもしろい。いまでこそ少年まんがの勝負ものの主要ジャンルになっている料理ま
 んがが、ビッグ錠の「料理人味平」で発明されたときに似たおもしろみといおうか。
 もっとも、これがそのままジャンルを形成したりはしないだろうけど、でもメリル・ス
 トリープのもとに、アン・ハサウェイにかわる“新弟子”がやってくる続篇なんて、見て
 みたいデス。

 【裏ベスト】
  ●美の改革者 武智鉄二全集 ※10月28日公開
  ●エコール ※前回に引き続き

  <武智鉄二全集>は10月28日からだが、入れさせてもらう。ぼくはこれまで武智鉄
 二の映画は、愛染恭子主演のほうの『白日夢』('81)しか見たことがなかった。最初
 の『白日夢』('64)や、「映倫」というものが、いまでいえば流行語大賞になるくら
 い話題になった『黒い雪』('65)のときは、まだ中学生だったし――といっても、成
 人指定の映画を見にいかなかったわけではないのだが、武智作品を当時は特に見たいと
 は思わなかったようだ。この人が、'87年の『白日夢2』にいたるまで12本もの監督作
 品をのこしていたことも知らなくて、おどろいた。そのうち、今回上映される10本をビ
 デオで見せてもらって、なんだかハマった。最後まで全然うまくならないところに感心
 した。自分がえがきたいことさええがければ、映画的なうまいへたなんて、まったく関
 心外のようだ。ある意味、無邪気。映画へのこういう対しかたもあるのだ。
  『エコール』は封切日がズレたので、一応入れておきました。

 【封切は終わったけれど…】
  『バス男』。今月の封切の『ナチョ・リブレ 覆面の神様』を見たあと、同じジャ
 レッド・ヘス監督の出世作で、日本ではビデオで公開になった『バス男』を見てみた
 ら、こっちのほうが断然おもしろい。『ナチョ・リブレ』は、ジャック・ブラック主演
 のハリウッド映画に、自主映画あがりの新人が抜擢されたというかたちだが、資質が殺
 されているところが多い。笑いの質が根本的にちがうのだ。

★内海陽子さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●キング 罪の王
  ●unknown アンノウン
  ●家門の危機

  「キング 罪の王」の背徳性に心酔。「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンにもまし
 てガエル・ガルシア・ベルナルは危険で美しい。「アンノウン」の男たちの混乱は上等
 のサスペンスを醸す。ハードボイルドの決まりをきちんと押さえたエンディングに唸
 る。シモネタが足を引っ張るかと思えた「家門の危機」は中盤から調子を上げ、マフィ
 アの女ボス、キム・スミが圧倒的な貫禄で押さえ込む。彼女は「スーパースター☆カム
 ・サヨン」でも母親役を好演。

 【裏ベスト】
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様
  ●椿山課長の七日間
  ●ありがとう

  リングで戦う種目を選ぶ際、二枚目俳優はボクシングを選ぶようだが、粋な俳優はプ
 ロレスを選ぶ。「ナチョ・リブレ」は、ジャック・ブラックの粋を証明。ラストシー
 ン、和久井映見に「握手してください」と言う西田敏行のおとぼけがまことに愉快な
 「椿山課長の七日間」。彼は女優を引き立てる。阪神大震災を描く前半と、男の敗者復
 活戦を描く後半をくっつけた「ありがとう」は、赤井英和の愛敬が圧倒的。三俳優それ
 ぞれの美学に好感を覚える。

★浦崎浩實さん(激評家/映画評・劇評)――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●父親たちの星条旗 ※10月28日封切り
  ●麦の穂をゆらす風
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
  ●エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?
  ●キング 罪の王

  アタマ2作は米英の2大監督が、戦争する人類の悲しみを最良の知性で描いて感銘深
 い。エンロン社の不正に最初に声を上げたのは、同社の女性社員と経済誌「フォーブ
 ス」の女性記者だった。保身人間は概ね男性ばかりという悲しさ。「ニキフォル」は未
 知の画家を教え、「キング 罪の王」は人類の原罪を愉快(?)に描いている。

 【裏ベスト】
  ●めぐみ―引き裂かれた家族の30年

  実はあまり期待しないで観たのだが、意外や、ヘンなたとえだが、“忠臣蔵”みたいな
 面白さ(も適切な評言ではないが)を味わった。つまり、内容をあらかた知っていて
 も、何度でも鑑賞(!)にたえる勁さみたいなものが題材にあるのだった。

 【封切は終わったけれど…】
  「愛妻日記」シリーズ全6作。たぶん、今月リリースされると思うのだが、全6作
 中、「ホワイトルーム」「愛妻日記」「童心」「饗宴」はお見逃しなく。妻と夫の“性生
 活の知恵”が切なく且つ大胆に、加えて映画的に描かれる。未婚の男性諸君、これを見て
 怖気づかないよーに。

★江戸木純さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)トゥモロー・ワールド
  ●2位)ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
  ●3位)プラダを着た悪魔

  1)は随所に飛び込んでくる衝撃のテロや内戦シーンの連続がリアルな終末感を醸し
 出す人類滅亡SFの力作。地味ながら一本筋の通った希望とメッセージが作品の中心を貫
 いていて重量級の見応え。2)は異形の天才に関わってしまった凡才の哀しみと喜びが
 切なくも軽快に芸術の本質を浮かび上がらせる珠玉の名編。老画家を演じる今年86歳に
 なるポーランドのベテラン女優クリスティーナ・フェルドマンの驚愕の演技だけでも見
 る価値あり。3)は音楽の使い方が雑で演出にスマートさが欠けるものの、ファッショ
 ン誌業界という題材の面白さとメリル・ストリープの怪演で平均点以上に楽しませる出
 版関係者必見のワーキング・コメディ。

 【裏ベスト】
  ●1位)ナチョ・リブレ 覆面の神様
  ●2位)麦の穂をゆらす風

  1)はジャック・ブラックの怪演は楽しく笑える部分も多く、彼のレスラー姿だけで
 充分おいしいのだが、毒も風刺も薄く想像していた破天荒さはなし。演出がどの方向性
 を目指しているのか不明で全体的に中途半端な印象は否めない。2)は巨匠ローチなら
 ではの正攻法で骨太な演出と問題意識に唸らされるいわゆるいい映画。だが、やくざの
 抗争と同じでありがちなアイルランド独立派たちの内部抗争は正直なところもう描きつ
 くされた題材。あまりに生真面目でヒネリのない作りに「はい先生、もうわかりまし
 た」と言うしかなかった。

 【封切は終わったけれど…】
  『父親たちの星条旗』。これでもかという怒涛の戦闘シーンのリアルさと執拗さで見
 る者に戦争の愚かさを実感させ、プロパガンダに利用される個人の姿に戦争の理不尽さ
 と空しさを思い知らせる、さすがイーストウッドな究極の反戦映画。『硫黄島からの手
 紙』が待ち遠しい。
  『ナイロビの蜂』DVDの特典映像。未使用シーンは「カットして当然」というものが
 ほとんどだが、この映画の場合は未使用シーンや寸劇の全長版が入っていたらもっと凄
 い映画になっていたという場面がたくさんあって驚いた。3時間くらいのディレクター
 ズ・カット版を作って欲しいと思った。

★大森さわこさん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●プラダを着た悪魔

  まだ、現場に復帰できていなくて(試写にあまり行けず)……。この映画も、すごい
 わけではなく、演出はチョイ甘いけど、単純に楽しかったです。
  NYファッションは目にうるわしいし、それにメリル・ストリープの“悪魔”の上司ぶり
 もいいですね。(かつては苦手な女優でしたが)彼女の最近のふっきれ方は、すばらし
 い! 女性向きのおしゃれなハリウッド娯楽作。たまにはいいですねー。同じFOXが製
 作した「ワーキング・ガール」の現代版でしょうか(アメリカで、今度、テレビ・シリ
 ーズになるとか)。

 【裏ベスト】
  ●7月24日通りのクリスマス

  長崎は西の果てにある町。冬は海からの潮風がきつく感じる。ちょっと埃っぽい場所
 で、路面電車や石畳の坂道があって、とびきりおいしい皿うどんが食べられる。そんな
 町が好きです(かつて、ここでの就職を考えたことも……)。この映画では、そんな町
 が、明るく、ロマンティックな場所に見えます。長崎にすごーく、行きたくなりました。

 【封切は終わったけれど…】
  「嫌われ松子の一生」。「7月24日通りのクリスマス」と「嫌われ松子の一生」で、
 愛すべきドジなヒロイン役を好演した中谷美紀。DVD化される「松子」の方は、ちょい
 ケン・ラッセル風味も入ってました。いろんな要素がテンコモリで、多面的な見方がで
 きる映画です。

★加藤久徳さん(映画ライター)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
  ●2位)映画監督って何だ!
  ●3位)9.11-8.15 日本心中
  ●+1)平成の坂田藤十郎

  ベスト3+1に共通するのは記録性。事実、みなドキュメンタリーの枠に入る。
  1位)は完全なドラマだが、タッチは“真実のドキュメンタリー”。劇映画を見ている
 とは思えない迫真力があった。
  2位)は、著作権が認められない日本の映画監督たちの実情を世の映画ファンに知っ
 てもらうために、映画監督協会加盟の監督たちが作った初のプロパガンダ映画。人間と
 して、社会人として、文化人として、おそらく“映画監督”が持てる技や資質の総てを傾
 注して作った日本最初の映画かもしれない。
  3位)は、作り手(あるいは宣伝マン)たちは、“時空を超えてさまよう魂のドキュメ
 ンタリー”とPRしているが、要は対談映画である。世界や国を憂う人たちの1対1の話
 し合いを描いた2時間25分のトーク・セッション。人生を変える気のない人にはお薦め
 できない。
  +1)の『平成の坂田藤十郎』は、三世・中村鴈治郎が平成17年に231年ぶりに大名
 跡・坂田藤十郎を襲名するまでの10年間を追った歌舞伎ドキュメント。僕は歌舞伎ファ
 ンでないから、本作は映画狂の目で見た。またそんな目で見るほうが楽しめるのであ
 る。映画狂にとって、藤十郎は今でも中村扇雀なのだから。

 【裏ベスト】
  ●1位)氷の微笑2
  ●2位)CHAOS カオス
  ●3位)unknown アンノウン

  3作ともアンサンブル・キャストの魅力で楽しめる。1位)の売り物はシャロン・ス
 トーンの肢体かもしれないが、やっぱり“恐いもの見たさ”でしかないな(笑)。
  2位)での注目は、イーストウッドがメガフォンの話題作『父親たちの星条旗』に主
 演しているライアン・フィリップが、例によってボーイッシュな雰囲気で出ているこ
 と。続けて見ても違和感はないので、これは薦められる。

★河原晶子さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像

  アンリ・ルソー、あるいはシャガールの絵画のような素朴な寓意性を描いたポーラン
 ドの画家ニキフォルをはじめて知りました。彼をなんと86才のヴェテラン女優が演じて
 いるのに驚きました。「クリムト」とは対照的な、シンプルで美しい映画です。

 【裏ベスト】
  ●キング 罪の王
  ●ダニエラという女 ※12月封切

  パゾリーニの「テオレマ」のヴァリエーションとも解釈される「キング 罪の王」。
 W・ハート演じる“原理主義者”的アメリカの父親像とガエル・ガルシア・ベルナルのラ
 テン的悪童の構図がもうひとつ絡みあわないのが残念です。
  「ダニエラという女」でベルトラン・ブリエは相変わらずひねりの効いた性愛論を展
 開しています。

★黒田邦雄さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●キング 罪の王

  映画に演劇に大活躍のガエル・ガルシア・ベルナルだが、隣の兄ちゃんタイプと侮っ
 ていたことがとんでもない間違いだったことに気付かされる今日この頃。「キング 罪
 の王」で彼が演じるのは、腹違いの妹と交わり、その兄を殺し、神父である実の父親ま
 でも…。悪魔のような美青年を悠々と演じ、アラン・ドロン、テレンス・スタンプ、ヘ
 ルムート・バーガーに迫るとは!

 【裏ベスト】
  ●プラダを着た悪魔

  今は某若者ブランドにシフトして節約中の私だが、少し前までは高価なイタリア・ブ
 ランドに夢中だった。つまりブランド好きでありまして、ブランド業界の内幕を描いた
 この映画は大いに楽しめた。メリル・ストリープがスッピンを見せるシーンに感心して
 いたら、某女性映画評論家に“あれは素顔に見せるメイクよ”と教えられた。

 【封切は終わったけれど…】
  正月公開の「エレクション」を観て、今さらながらジョニー・トゥ監督の凄さに度肝
 を抜かれた。この暴力描写はもはやオペラ! というわけで、ジョニー・トゥの作品を
 予習しておきましょう。「ザ・ミッション/非情の掟」「PTU」あたりが…。

★佐々木淳さん(エディター&ライター)――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●トゥモロー・ワールド

  前半の車中で繰り広げられるクライヴ・オーウェンとジュリアン・ムーアの微笑まし
 いやりとりから~そのワンショットのシーンの終わりまでに、20年間の空白を埋める元
 夫婦の瞬間が全て込められていて思わず心を奪われた。もちろん映画の後半に至ってど
 んどん緊張感の増すシーンが続くのだが、それでも頭の中にこびりついて離れないの
 は、あのシーンなのだ。実はこの映画、宣伝イメージは映画本編の内容からはだいぶか
 け離れていると思う。となると普段は文句のひとつもいいたくなるのだが、今回は予想
 と全くかけ離れていたからこそ、得られた衝撃も大きかったといえるのかも。SF大作を
 観ようと思ってニコニコ劇場へ出かけていったアナタは、とんでもない「未来の修羅
 場」を目撃する。たまには宣伝に騙されて映画を観るのも、いいかもしれない、と思っ
 たり。

 【封切は終わったけれど…】
  新作ではないけれど、久しぶりに増村保造監督のデビュー作にして傑作『くちづけ』
 を新文芸坐のスクリーンで再見。実は10月は偶然にもCS局で野添ひとみ特集<『おも
 かげの歌』(53)『地獄の花束』(54)『いとしい恋人たち』(57)『婦警日誌より 
 婦人科医の告白』(57)>をやっていたので、時ならぬ“野添ひとみ月間”になってしま
 いました。彼女のファンになったのは、この『くちづけ』と吉村公三郎監督の『地上』
 を観てからだったのですが、今回、さまざまな役柄の彼女に触れて、やはり稀有な美し
 さをもった女優だなと再認識。未見の方はDVDでぜひとも。

★塩田時敏さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ユア・マイ・サンシャイン

  これを“汚れた純愛映画”と呼びたい。これぞ泣かせだけではない、赤裸々な本音をさ
 らす韓国映画の真骨頂。キーワードはHIV(エイズ)、タバン・コーヒーガール(風俗
 嬢)、そして嫁不足の農村の男の純情。監督が老人のセックスを描いた「死んでもい
 い」の鬼才、に成程ナットク。

 【裏ベスト】
  ●テキサス・チェーンソー ビギニング
  ●映画監督って何だ!

  「テキサス・チェーンソー ビギニング」はヒロインのディオラ・ベアードに
 ハートマーク×2っ。アメリカン・ホラーに久々のエロ美女出現だ。「ホステル」とい
 い、このところアメリカン・ホラーに復調の兆しあり。「映画監督って何だ!」も意外
 な監督たちの役者ぶりが楽しい。

★品田雄吉さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●麦の穂をゆらす風
  ●プラダを着た悪魔
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像

  「麦の穂をゆらす風」はケン・ローチがまるでアイルランド人のように怒っている秀
 作です。描写の直截的な力強さと厳しさ。感動しました。「プラダを着た悪魔」はいか
 にもアメリカ的なヒリヒリするような感覚と速度で見せます。メリル・ストリープがう
 まい。アン・ハサウェイも負けずによくやってる。「ニキフォル」は不思議な魅力を感
 じさせる映画。天才画家を演じるのが女性だというのに驚きました。

 【裏ベスト】
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様
  ●キング 罪の王
  ●unknown アンノウン
  ●CHiLDREN チルドレン

  「ナチョ・リブレ」はジャック・ブラックがごひいきなので。彼が出ているだけで楽
 しい。「キング 罪の王」は神や信仰に対する挑戦なのでしょうか。「unknown」は
 アイデアが面白い。「CHiLDREN」はヘンな面白さがありました。多分、現実とは違う
 と言われそうですが。

★ジャンクハンター吉田さん(有限会社クルーズ代表取締役)――――――――――――

 【ベスト】
  ●テキサス・チェーンソー ザ・ビギニング

  本作は些か前作の説明的描写指数が高過ぎるも、リー・アーメイ御大の実際に戦火を
 くぐり抜けてきたアドリブチック!?なカッコイイ名台詞のオンパレードに痺れるはず! 
 新鋭ではお色気担当のディオラ・ベアードが注目株。米国ではカルチャー誌のグラビア
 を飾ったり、先日発売されたばかりのTVゲーム版『スカーフェイス』では「ブロウジョ
 ブ!」を連呼するビッチな役のアテレコをしていたりとソバカスがチャームポイントな
 粋な女優!

 【裏ベスト】
  ●ソウ3

  パート1&2の辻褄合わせと揶揄する人もいるが、回りくどく手の込んだ脚本にもっ
 と注目するべき。命の尊さをヴィジュアルで痛々しいほどに表現するテンポの良さは変
 わらず、登場人物全員がサディスティックなまでに絶望的度合いが増しているのは本作
 がファイナルになることを示しているからであろう。『ブロブ』の頃からショウニー・
 スミスのファンだったバウズマン監督は、本作で彼女を軸に極悪なキャラで展開させた
 かったそうな。

 【封切は終わったけれど…】
  もうすぐクリスマスということで、去年全米で公開されたけども日本では未公開のま
 まになっているライオンズゲートの作品『Santa's Slay』をオススメしたい。プロレス
 ラー兼アクターのビル・ゴールドバーグがサンタクロース(サタンと自らを呼ぶが設定
 では一応本物のサンタクロースで空から登場するバカバカしさ!)に扮してクリスマス
 を祝う連中を殺しまくるコメディーホラー。プロデューサーがブレット・ラトナーなの
 で納得。

★高崎俊夫さん(編集者)―――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●父親たちの星条旗 ※10月28日封切り

  またしてもイーストウッドの力業に打ちのめされた。凄絶な戦闘描写は、当然ながら
 『プライベート・ライアン』のオハマ・ビーチ上陸シーンを連想させるが、英雄礼讃に
 帰結してしまうスピルバーグとは志がまったく違う。帰郷した兵士たちを待ち受けるア
 イロニカルな悲劇は、花粉症のため、戦線に行けなかった気弱な男が田舎町で英雄に仕
 立て上げられる、プレストン・スタージェスの爆笑喜劇『凱旋の英雄萬歳』(あまりに
 不謹慎なので戦時下、上映禁止になった問題作)が下敷きになっていると思う。

 【封りは終わったけれど…】
  最近、書店の500円廉価版DVDコーナーで発見したアイダ・ルピノ監督の『二重結婚
 者』が素晴らしい。『ハイ・シエラ』の名花アイダ・ルピノはフィルム・ノワールを
 撮った名監督としても知られているが、日本では一本も公開されていないので貴重で
 す。オフュルスの『魅せられて』やヒッチコックの『レベッカ』を想起させるニューロ
 ティックな女性映画の秀作で、アラン・ルドルフの隠れた傑作『探偵より愛をこめて』
 の元ネタはこれだった!

★高橋諭治さん(映画ライター)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●トゥモロー・ワールド
  ●キング 罪の王
  ●エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したか?

  『トゥモロー・ワールド』製作費120億円というふれ込みのSF超大作なのだが、その
 巨費の大半を凄まじい戦闘シーンのリアリズム実現のために費やしたのではないかと思
 われる“衝撃”作。このうえなくシンプルな希望を描ききろうとするアルフォンソ・キュ
 アロン監督の執念に心底圧倒された。『キング 罪の王』は近親相姦絡みのキワどいス
 トーリーに加え、妖しい気配を醸し出す水辺のショットなど映像表現にも見るべき点が
 多い。世界有数の巨大企業の幹部どものやりたい放題の悪行の数々を検証した『エンロ
 ン』を見ると、ホリエモンのちっぽけさがよくわかります。

 【裏ベスト】
  ●unknown アンノウン
  ●CHAOS カオス

  今月はアメリカ製の犯罪ミステリー2本が【裏ベスト】入り。『unknown アンノ
 ウン』は、トリッキーな極限状況を正攻法の演出で撮ったところに好感が持てる。フ
 ラッシュバックの使い方がやや都合良すぎるが、撮影現場ではずらりと揃った曲者俳優
 たちが一触即発の演技バトルを繰り広げたとか。そのあたりの舞台裏は、筆者が取材し
 た劇場パンフの監督インタビューでぜひどうぞ。ジェイソン・ステイサムVSウェズリー
 ・スナイプスの怪優対決ムービー『CHAOS カオス』は、新人刑事役ライアン・フィ
 リップの若さに似合わぬ渋い好演が見もの。ただし“意外な結末”は、勘のいい人なら予
 想できるかも。日本映画や韓流ばかりでなく、こうした地味なアメリカ映画を今後もコ
 ツコツと公開してほしいものです。

 【封切は終わったけれど…】
  前号の〆切後に試写が回り出した『父親たちの星条旗』をすかさず観賞。回想また回
 想の複雑なストーリー展開で、タイトルが暗示するテーマが終盤に浮かび上がってくる
 構成になっていた。イーストウッド映画としては彼自身が出演していないこともあって
 少々“面白み”には欠けるが、さすがに重厚で見応え十分の一作。

★高村英次さん(映画ライター)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●プラダを着た悪魔

  主演のアン・ハサウェイが素晴らしい。というか軽薄美人(失礼!)然に見える彼女
 でなければ出来ない役だ。超高慢なファッション誌の編集長(メリル・ストリープが適
 役)のしごきに耐えて、彼女の片腕に育っていく成長物語だが、生き馬の目を抜く業界
 の熾烈さ&イヤらしさを流暢に描いて笑わせ、最後はホロリ。芋娘がセレブになってい
 く際のアンの意外な演技力に驚くと共に、ヒロインに感情移入させてしまう演出の手際
 が見事。必見!

 【裏ベスト】
  ●父親たちの星条旗 ※10月28日封切り

  当然ベストに入れるべきですが、公開中なので裏ベストに。複雑な原作をさらに複雑
 にしたシナリオ(構成)も良くないし、戦争映画として新機軸を打ち出してるわけでも
 ない。だが泰然自若としたイーストウッドのスタイルは微塵も揺らいでいない。海辺で
 遊ぶ兵士たちの姿を小さく小さく映したラストカットは、まるでウィリアム・ワイラー
 の『大いなる西部』(ケンカのシーン)のように胸を打つ。かつて英雄に祭り上げられ
 たインディオ兵が曠野をさ迷い歩く、その棄民の姿がいつまでも胸に残る。北朝鮮が核
 実験するこんな時代に、まぎれもない体制批判を展開するイーストウッドに頭が下がる
 思いだ。

 【封切は終わったけれど…】
  コメディ映画が好き、といったって、長いこと邦画の喜劇で笑った記憶がない。そう
 なると旧作しかないのだが、川島雄三という鬼才のその名も『喜劇・とんかつ一代』を
 今ごろ見ました。あー、なんて言うんでしょうか、「笑うってなこういう事だな」って
 くらい笑いました。いちいち説明してる余裕はないですが、森繁久彌・フランキー堺・
 三木のり平・山茶花究って人たちがノリ出すと、とんでもない事になる。今、そうした
 喜劇人っています?

★田中千世子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●麦の穂をゆらす風
  ●キング 王の罪
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像

  妥協を一切しないケン・ローチ。「麦の穂をゆらす風」で一番の敵はアイルランドを
 支配するイギリスより、戦いの武器調達のために資金源の金融業者と癒着したり、制服
 を着て正規軍になったつもりで独立の心を忘れた<仲間>なのかもしれない

 【裏ベスト】
  ●HAZARD ハザード

  園子温監督は作りたいものを作るんだ!という熱気があるから好きだ。

★暉峻創三さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ウィンター・ソング

  UFO旗揚げの時代から、“今、どんな映画をどんなマーケットに向けて作ればいい
 か”に香港で最も敏感だったのがピーター・チャン監督だ。そんな彼が久方ぶりに手がけ
 た本格長編『ウィンター・ソング』も、その鋭利な時代感覚で中国テイストに満ちた
 ミュージカルに挑戦、新しい香港映画のあり方を示した。

★西脇英夫さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)麦の穂をゆらす風
  ●2位)unknown アンノウン
  ●3位)ユア・マイ・サンシャイン

  1位)は、大好きなケン・ローチ作品の中でも、これまでになくドラマチックで感動
 的。ローチが描き続けてきたアイルランドの抵抗と革命の不幸な歴史がよくわかる。
 2位)は、通好みのジグソー・パズル・スタイル・サスペンスの佳作。観客に「どう
 だ、解けるか」と挑戦してくるどんでん返しの連続で、最後まで目が離せない。3位)
 は、すでに前にも紹介したが、大嫌いな難病悲恋物だが、さすがに韓国映画、説得力あ
 る語り口で、ついに泣かされてしまった。ただし、このジャンルはもうけっこう。

 【裏ベスト】
  ●テキサス・チェーンソー ビギニング
  ●キング 罪の王
  ●トゥモロー・ワールド

  1位)は、このジャンルのものでの最高傑作。ここまでやるかといいたくなるほどの
 徹底ぶりと、おちゃらけギャグを一切はさまない大まじめぶり、そして何よりカメラと
 セットが素晴らしい。2位)は、やや古風だが、ギリシャ悲劇のようなよくできた脚本
 と、カッチリとした演出がいまどき珍しい作品。このテの映画が好きな人にはたまらな
 いだろう。3位)は、壮大な失敗作。テーマも演出も悪くないのだが、どこか舌足らず
 で、迫力不足。もう少しやりようがあってのではないかと、かえって考えさせられる作
 品だ。

 【封切は終わったけれど…】
  テレビの放映で「24 シーズンIV」を見たが、少しもボルテージが落ちないのはさす
 が。脚本を書くための、いい勉強になる。「ロスト」や「プリズンブレイク」に比べて
 も、やはりこちらに軍配が上がる。

★野村正昭さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●CHAOS カオス
  ●エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?

  「CHAOS カオス」は、これぞ拾い物とでも呼ぶべき快作で、スパイク・リーの鼻
 持ちならない愚作「インサイド・マン」と似たような設定なれど、それを遥かに凌ぐ出
 来栄え。まあ途中で、あの人がああなると後半の察しはつくけれど、それでも面白い! 
 「エンロン」は一本調子なところが、やや気になりますが、日本のライブドアはじめ利
 潤追求しか頭にないバブル企業の行く末を描いて、なかなか興味深い佳作でした。

 【裏ベスト】
  ●椿山課長の七日間
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像

  「地下鉄(メトロ)に乗って」は近年稀に見る不快な作品でしたが、同じ浅田原作で
 いえば、こちらの方がややマシか。思うに浅田次郎の小説は感傷をこれでもかと過剰に
 押しつけられ気色の悪いこと甚だしいが、伊東美咲の大根芝居を正当化するには最上の
 設定かもしれない。ちなみにいかに大根呼ばわりされても、私は伊東美咲のファンで
 す。「ニキフォル」は退屈な伝記映画かと思いきや、老女優の男性への化けっぷりには
 大いに感心させられたので。

★増當竜也さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●父親たちの星条旗 ※10月28日封切
  ●赤い鯨と白い蛇

  クリント・イーストウッドならではの去りゆくアンチ・ヒーローの美学『父親たちの
 星条旗』は、実はアメリカの大茶番劇という面で製作者スピルバーグによる愛すべき大
 失敗作(私にとっては一番大好きな)『1941』と思想がよく似ていると思います。
 『赤い鯨と白い蛇』はベストとまでは言いませんが、75歳監督の映画デビューという
 初々しさ、5世代の女優だけの映画という挑戦性に惹かれました。

 【裏ベスト】
  ●虹の女神 Rainbow Song ※10月28日封切
  ●椿山課長の七日間

  8ミリ映画をモチーフにした『虹の女神』は、昔8ミリを少々かじっていた者として
 は“コダック娘”という章立てでもうノックアウトされ、もはや冷静な批評など不可能な
 ほどトリップしてしまいました。『椿山課長の七日間』はお美しい伊東美咲さまと西田
 敏行が同一人物というギャップが楽しく、最後まで気持ちよく楽しめました。それにし
 ても余貴美子は(今更言うことでもないでしょうけど)やっぱりすごい、上手い。

 【封切は終わったけれど…】
  映画じゃないのですが、9月、TVアニメのDVDを観まくる仕事で70枚ほど一気に
 観て、久々おたく気分を満喫。『エウレカセブン』『BLOOD+』『蟲師』など意欲作
 が多いのに驚きました。萌え系アニメもいざ観るとなかなか頑張った作りになってい
 て、今のアニメスタッフの心意気に改めて感服。でもやっぱり一番面白いのは佐藤順一
 監督の『ケロロ軍曹』と『ARIA』です。

★三留まゆみさん(イラストライター)―――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●なし

  初参加だというのに、のっけからすみません。先月だったら『ブラック・ダリア』
 『デビルズ・リジェクト~マーダー・ライド・ショー2~』『ホステル』『16ブロッ
 ク』と輝かしいばかりの作品が並んだのですが、今月は不発気味。みのわさんお薦めの
 『デート・ウィズ・ドリュー』を楽しみにしてます。

 【裏ベスト】
  ●ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
  ●CHAOS カオス
  ●キング 罪の王

  「ポーランド人ってヘン」と、2月にワルシャワに行ったときにも思いましたが、
 『ニキフォル』も相当にヘンで素敵です。純然たる絵描きにして変人ニキフォルを現役
 最高齢の女優にやらせちゃうという発想もすごい。エンド・クレジットの室内(駅
 舎?)から外へと伸びている線路の絵が忘れられません。『CHAOS カオス』、こう
 いう作品になんの予備知識もなく出会うとうれしくなります。観終わってみれば、かな
 りつくり込んだ設定ですが、それを感じさせずにたんたんと進むところがまたいい。
 J・ステイサムのイカした中年ぶり、夢見るころを卒業しつつあるR・フィリップスの
 負けん気、W・スナイプスの“運動会”的な使い方もよろしい。『キング 罪の王』のガ
 エル・ガルシア・ベルナルはまるで『地獄の逃避行』のマーティン・シーンでした。こ
 んなにすごい役者だとは思わなかった。

 【封切は終わったけれど…】
  『猫目小僧』『ニューヨーク・ドール』『プルートで朝食を』『トランス・アメリ
 カ』『リブ・フリーキー!ダイ・フリーキー!』『2番目の恋』『悪魔とダニエル・
 ジョンストン』『グエムル 漢江の怪物』『幸福のスイッチ』『スネーク・フライト』
 『ブラック・ダリア』。そして『デビルズ・リジェクト~マーダー・ライダ・ショー
 2~』! ごめんなさい。半年分になってしまいました。『デビルズ・リジェクト』は
 1970年代映画小僧全員号泣の大傑作! アメリカン・ニューシネマの匂いがぷんぷん。
 映像もストーリーも役者もサントラ(!)も最高っす。『スネーク・フライト』はその
 発想もさることながら、本気でやっちゃったことが素晴らしい。『ユナイテッド93』を
 観た人は絶対にこの映画を観なければいけません。それがバランスってもんです。

★皆川ちかさん(ライター)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●麦の穂をゆらす風

  慣れ親しんだ日常としての暴力を淡々かつへヴィに描いて、大抵のホラー映画より怖
 いです。

 【裏ベスト】
  ●9.11-8.15 日本心中

  重信メイの迫力に目が釘付けになりました。

 【封切は終わったけれど…】
  「虹の女神 Rainbow Song」:大学の映画サークルのお話という時点でかなり胸に
 迫るものがあるうえに、同世代の男子女子の会話・感情のやりとりがリアルすぎて、気
 絶しそうになりました。本質的にはペシミスティックな話なので、やさぐれ意識のある
 人におすすめしたいですね。

★みのわあつおさん(ポップ・カルチャー評論家)――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様
  ●ブロック・パーティー
  ●プラダを着た悪魔

  『ナチョ~』は、『バス男』のジャレッド・ヘスが、ハリウッドイズムにも毒され
 ず、独特のコメディ演出をたっぷり披露。インディペンデント出身の監督の鑑のような
 奴だ。『ブロック~』の場合、主演のデヴィッド・チャペルを「シャペル」と表記する
 のは辞めてくれないか! そのチャペルのスタンダップ芸の全開ぶりと、旬の男カニエ
 ・ウエストのライブがうれしい。『プラダ~』は、コメディ演技がヘタクソなメリル・
 ストリープが、ブラックユーモアの演技ならイケると証明しているところが、おもしろ
 い。

★宮城正樹さん(映画&音楽の批評・分析家)――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●麦の穂をゆらす風

  ベネチア最高賞『マイケル・コリンズ』に『アンジェラの灰』など、アイルランドを
 描く傑作への無意識のアンサーを感じさせる、イギリス出身ケン・ローチ監督の本年度
 カンヌ最高賞受賞作。色遣いが渋く、自然な撮影を主にしたことでセピアやブルーに微
 妙な色が加味し、これまで僕が観たことのない色彩を生んだ。J・フォードのイギリス
 を舞台にしたモノクロ映画『わが谷は緑なりき』がもしカラーだったら、こんな色に
 なっていたかも。

 【裏ベスト】
  ●ウィンターソング

  映画メイキング映画を物語の構成に据えた、ピーター・チャン描く金城武流香港恋愛
 映画。その映画内映画がミュージカルというのは、トーキー製作をミュージカルで包む
 『雨に唄えば』のちょうど反対バージョンで面白かった。個人的には「大柄が多いハリ
 ウッドでは小柄が目立つ」なんて言うチャン・ツィイーへの風刺や、監督役の次作が
 『サウンド・オブ・ミュージック』風のオープニングになるとかの、セリフによるイ
 メージ引用が楽しい。

 【封切は終わったけれど…】
  西日本での公開はこれからの、本誌で既に評判を呼んだこの2本。選手よりサポー
 ターに焦点を当てた『2番目のキス』は、歴史的逆転の試合に立ち会えず嘆き悲しむ主
 人公の姿など虎キチの僕は深く感情移入できた。その熱さと逆に静かな女性映画
 『チャーミング・ガール』は、アイドル映画のようなタイトルがミスマッチ感を呼ぶア
 ンチ・ヒロイン映画。TVのセリフを字幕で流したり感情を抑制した無表情に近い演技ほ
 か説明より描写に徹した。

★宮崎祐治さん(イラストレーター)――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様

  ジャック・ブラックの、異常な自信と、狂気に溢れる目に引きつけられる。失敗して
 一瞬怯むが、すぐに忘れたようにまたマイペースにもっていく。その勢いで、今度のル
 チャ・リブレのレスラー役にも魅せられてしまった。今、一番私が好きな俳優。

 【裏ベスト】
  ●キング 罪の王

  導入は、何か不安な感覚で引っ張っていかれる。徐々に怖さがみえてきて、終にはア
 メリカ南部の偽善が露わになる。ガエル・ガルシア・ベルナルは静かに「タクシー・ド
 ライバー」のデ・ニーロ張りの狂気のひとを演じている。パゾリーニのギリシア神話も
 のを思い出させる快作。きっと、ヒットしないだろうけれど。

★森直人さん(ライター)―――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ブロック・パーティー
  ●キング 罪の王

  今月は鑑賞本数自体が少なかったようです。反省…。『ブロック・パーティー』は、
 フージーズの再結成初ライブ映像に涙。

 【裏ベスト】
  ●ウィンター・ソング
  ●ナチョ・リブレ 覆面の神様

  期待してた監督の新作の、微妙な出来のもの2本(笑)。両方好きですけども。

★山田宏一さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●映画監督って何だ!

  日本映画監督協会創立70周年記念映画として200人におよぶ監督たちがスタッフ・
 キャストとして参加、映画の著作権は監督にあるのだというメッセージを高らかにう
 たった「世界初の監督劇」。伊藤俊也監督作品。
  映画長屋に住む小栗康平監督ふんする浪人・管徳右衛門と阪本順治監督が女形になっ
 て演じる花魁・脚本太夫のあいだに生まれた子供(作品)を若松孝二監督ふんする悪徳
 大家・著作軒二十九が用心棒を連れて奪いにくるという第一部の「時代劇」篇は、映画
 史上名高い(にもかかわらず知られざる)1929年の「国際独立映画人会議」(あるい
 は「国際アヴァンギャルド映画会議」)という国際映画祭の発端になった集いで、ソ連
 のセルゲイ・M・エイゼンシュテインとドイツのハンス・リヒターの脚本・監督、エ
 ドゥアルド・ティッセの撮影で、「商業映画」の城砦の頂上の塔に閉じこめられた「映
 画芸術」を「独立映画」が果敢に救い出すという「自由な映画づくりの精神」をうたい
 あげた『ラ・サラズの嵐』(会議を主催したマンドロー夫人のスイスの城ラ・サラズで
 撮られた)という幻の名作を想起させます。鎧に身を固めた「商業映画」にふんしたの
 はハンガリー(次いでイギリス)の映画史家・脚本家のベラ・バラージュとロンドン大
 学英文学教授で映画評論家のジャック・アイザック、フィルムの鎖につながれた「映画
 芸術」を演じたのはフランスの女性評論家ジャニーヌ・ブイッスヌーズ、そして「独立
 映画」の役には映写機の馬にまたがって槍を構えたエイゼンシュテイン監督、ダルタ
 ニャンの扮装をしたフランスの映画評論家レオン・ムーシナック、タイプライターを機
 関銃にして掩護射撃するフランスの映画研究誌「ラ・ルヴュ・デュ・シネマ」の編集長
 ジャン=ジョルジュ・オリオール、といった布陣であったという。
  『映画監督って何だ!』の第二部は「再現劇」、第三部は「インタビュー」、第四部
 は「ドキュメント」という構成なのですが、映画の後半の著作権をめぐる法廷劇は若手
 の映画監督たちが驚嘆すべき名演、いずれも見事な名優ぶりで圧巻。自分の映画を撮っ
 ているときに下手くそな俳優たちにどんなにイライラしていることだろうと思ってしま
 います。

 【裏ベスト】
  話題の『武士の一分』も『父親たちの星条旗』も超満員の試写会で見たのですが(か
 たやキムタクが最高、こなたピュリッツアー賞受賞の国旗掲揚のアイデアが最高、とい
 うだけで)……むしろ必読の興味深い5册の映画の本をせめて題名だけでも挙げておき
 たいと思います。
 1)「レッドパージ・ハリウッド――赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝」
   (上島春彦著、作品社)
 2)「トリュフォーの映画術」(アンヌ・ジラン編、和泉涼一・二瓶恵訳、水声社)
 3)「映画の呼吸 澤井信一郎の監督作法」(澤井信一郎/鈴木一誌著、ワイズ出版)
 4)「ヴィスコンティを求めて」(柳澤一博著、東京学参)
 5)「映画館と観客の文化史」(加藤幹郎著、中公新書)

 【封切は終わったけれど…】
  たしかに、封切りは終わったけれど、「キネマ旬報」に寺脇研氏が日本映画『UDON』
 について「これを<映画>と呼ばねばならぬとは。」と呆れ返っていたのが印象的でし
 た。『UDON』だけの問題ではないのでは? むしろアタマにGを付けたいようなもの
 も……。
  同じ「キネマ旬報」の「立川志らくのシネマ徒然草」という連載に、落語家の立川談
 志についてのドキュメンタリーを撮ったら原一男監督が作家の井上光晴を撮った『全身
 小説家』より「凄いもの」が出来ると思うとあり、じつに同感、TOKYO-MXテレビの
 「言いたい放だい」という番組だけでも(とくにそのなかの「想い出の映画」コーナー
 は談志師匠独壇場の狂乱の映画談義です)、「全身落語家」の面目躍如で、圧倒されます。

★渡部実さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【封切は終わったけれど…】
  『ありがとう―「奈緒ちゃん」自立への25年―』(9月30日~10月13日ポレポレ東
 中野で上映されました)。
  劇映画で同じ題名の映画がありますが、この『ありがとう―「奈緒ちゃん」自立への 
 25年―』は、ある家族の歩みを描いた長編ドキュメンタリー映画です。奈緒ちゃんと
 いう知的ハンディをもって生まれてきた女の子が32歳まで成長した姿を家族の肖像と
 して記録した作品です。映画は何ものも強く主張するのではなく、奈緒ちゃんを育てた 
 家族の日常生活が淡々と描かれ、暖かい温もりが伝わってくる実に印象深い映画でし
 た。全編にわたってArnold von Bruck作曲のAve Maria(歌唱・フレーベル少年合唱
 団)が流れますが、これが何とも澄んだ響きで音楽の素晴らしさを感じました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣編集後記┫

◆「いつもしなやかで魅力的な映画を発表されてきた松川八洲雄監督のご冥福をお祈り致
します」──今号の渡部実さんのプロフィールです(ホームページでご覧ください)。わ
ずか4年前の2002年度キネマ旬報 文化映画ベストテンで第1位となった『神々のふるさ
と 出雲神楽』他、数々のドキュメンタリー作品を残された松川監督の娘さんは、わがメ
ルマガにもご参加いただいている まつかわゆまさん です。まつかわさんの前号のプロ
フィールは、次のものでした。「ただいま介護まっ最中。妊娠・出産・育児から復帰した
ライターはいても、介護から復帰できたライターは少ない。がんばります。10月7日ア
テネフランセの山形ドキュメンタリー映画祭イン東京で父 松川八洲雄の作品「不安な質
問」(1979)と新作「熊野古道」(2006)の上映があります。どうにか病院から連れて
行こうと画策中」。松川監督は、観客の前に車椅子で登場なさったそうです(その4日後
に亡くなったとうかがいました)! まことに勝手なことを申しますが、映画人として幸福
な瞬間であったことを想像いたします。松川監督の作品を拝見したことはありませんが、
ぜひ「しなやかで魅力的な映画」に出会う日を楽しみに、ご冥福をお祈り申し上げます。
そして次号での、まつかわゆまさんのメルマガご復帰も!  (れがあるF)

◆第四号のベスト2位『太陽』と、前回ベスト2位の『サンキュー・スモーキング』を、
映画館で見ました。どちらも知的なユーモアに満ちていて(作風はまったく違いますが)
監督や製作者たちの“志”の高さが感じられました。この2つの映画には、今の日本に暮ら
す我々にとって、大いに耳を傾けるべきメッセージがあると思います。さて次はいよいよ
『父親たちの星条旗』を見に行くぞー!   (れがあるU)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
■発行日:2006年10月30日
■発行者:れがある http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest
■定 価:315円(税込)
■このメールマガジンに掲載された文章の転載・転送は禁止されています
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