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2006年12月号

〓〓〓試写室だより 封切はこれからだ!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓第八号〓〓〓

     映画を見るプロが選ぶ、表ベスト映画&裏ベスト映画
        ∴・∴・∴2006年12月封切り篇∴・∴・∴

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【表ベスト】これぞまぎれもなく、映画を見るプロが選んだ12月の最高作。心して見よ。
【裏ベスト】出来、不出来は二の次、偏愛あり、ヒイキの引き倒しあり、極私的なケッサク選!
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INDEX(得票数順/カッコ内は選者/日付は封切り日)
【表ベスト】
1位 硫黄島からの手紙(秋本、稲垣、浦崎、江戸木、品田、高橋、高村、永野、西脇、
   野村、増當、森)12月9日
   http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
2位 武士の一分(秋本、浦崎、江戸木、品田、暉峻、西脇、増當、宮崎、森)12月1日
   http://www.ichibun.jp/
3位 リトル・ミス・サンシャイン(内海、浦崎、大森、品田、高橋、高村、みのわ、
   宮城)12月23日
   http://movies.foxjapan.com/lms/
4位 愛されるために、ここにいる(浦崎、江戸木、加藤、河原、黒田、まつかわ)12月16日
   http://www.cetera.co.jp/tango/
5位 王の男(塩田、品田、暉峻、皆川、森)12月9日
   http://www.kingsman.jp/
6位 あるいは裏切りという名の犬(河原、西脇、まつかわ)12月16日
   http://www.eiga.com/official/aruinu/
6位 イカとクジラ(高橋、皆川、森)12月2日
   http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/index.html
6位 敬愛なるベートーヴェン(安藤、高橋、宮城)12月9日
   http://www.daiku-movie.com/
6位 007/カジノ・ロワイヤル(秋本、稲垣、江戸木)12月1日
   http://www.sonypictures.jp/movies/casinoroyale/index.html
6位 鉄コン筋クリート(田中、永野、森、横森)12月23日
   http://tekkon.net/site.html
6位 みえない雲(内海、加藤、西脇)12月下旬
   http://www.mienaikumo.jp/
12位 ダーウィンの悪夢(加藤、高橋)12月23日
   http://www.darwin-movie.jp/
12位 フランキー・ワイルドの素晴らしき世界(浦崎、森)12月23日
   http://www.frankie-wilde.com/
12位 プレスリーVSミイラ男(吉田、みのわ)12月16日
   http://www.presley-miira.com/
12位 ヘンダーソン夫人の贈り物(内海、まつかわ)12月中旬予定
   http://www.mrshenderson.jp/
以下16位
●こま撮り映画 こまねこ(吉田)12月9日 http://www.komaneko.com/feature/
●酒井家のしあわせ(高橋)12月23日 http://www.sakaike.jp/
●スキャナー・ダークリー(浦崎)12月9日 http://wwws.warnerbros.co.jp/ascannerdarkly/
●ダニエラという女(稲垣)12月9日 http://www.crest-inter.co.jp/daniela/index2.html
●デート・ウィズ・ドリュー(みのわ)12月16日 http://www.date-with-drew.com/
●長い散歩(吉田)12月16日 http://www.eiga.com/official/nagaisanpo/
○パプリカ(増當)11月25日 http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/index.html
○ざくろ屋敷 ※DVD(山田)http://www.ganime.jp/zakuro/index.html
<○印の2本は12月封切ではないため集計の対象外です>

【裏ベスト】
1位 あるいは裏切りという名の犬(秋本、安藤、内海、品田、高橋)12月16日
   http://www.eiga.com/official/aruinu/
1位 犬神家の一族(浦崎、品田、野村、増當、森)12月16日
   http://www.inugamike.com/
1位 ダーウィンの悪夢(稲垣、江戸木、品田、まつかわ、三留)12月23日
   http://www.darwin-movie.jp/
1位 ダニエラという女(秋本、内海、黒田、山田、※河原/前号参照)12月9日
   http://www.crest-inter.co.jp/daniela/index2.html
5位 イカとクジラ(稲垣、江戸木、品田、宮城)12月2日
   http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/index.html
5位 敬愛なるベートーヴェン(浦崎、河原、西脇、渡部)12月9日
   http://www.daiku-movie.com/
7位 007/カジノ・ロワイヤル(高橋、永野、西脇)12月1日
   http://www.sonypictures.jp/movies/casinoroyale/index.html
8位 王の男(浦崎、野村)12月9日
   http://www.kingsman.jp/
8位 酒井家のしあわせ(安藤、宮崎)12月23日
   http://www.sakaike.jp/
8位 武士の一分(大森、宮城)12月1日
   http://www.ichibun.jp/
8位 プレスリーVSミイラ男(加藤、三留)12月16日
   http://www.presley-miira.com/
以下12位
●愛されるために、ここにいる(稲垣)12月16日 http://www.cetera.co.jp/tango/
●インビジブル2(三留)12月23日 http://www.sonypictures.jp/movies/hollowman2/index.html
●エコエコアザラク R-page-/B-page-(吉田)12月16日 http://www.ekoeko.jp/
●気球クラブ、その後(塩田)12月23日 http://kikyuclub.com/
●シャーロットのおくりもの(横森)12月23日 http://www.charlotte-movie.jp/site/index.php
●人生は、奇跡の詩(高村)12月9日 http://www.movie-eye.com/jinsei/
●スキャナー・ダークリー(高橋)12月9日 http://wwws.warnerbros.co.jp/ascannerdarkly/
●デート・ウィズ・ドリュー(宇田川)12月16日 http://www.date-with-drew.com/
●鉄コン筋クリート(高橋)12月23日 http://tekkon.net/site.html
●とかげの可愛い嘘(皆川)12月16日 http://www.cinemart.co.jp/tokage/
●長い散歩(西脇)12月16日 http://www.eiga.com/official/nagaisanpo/
●みえない雲(まつかわ)12月下旬 http://www.mienaikumo.jp/
●Mr.ソクラテス(内海)12月2日 http://www.cinemart.co.jp/socrates/
●名犬ラッシー(浦崎)12月23日 http://lassie.goo.ne.jp/index_f.html
●LOVE MY LIFE(秋本)12月公開予定 http://www.lovemylife.jp/
●リトル・ミス・サンシャイン12月23日 (江戸木)http://movies.foxjapan.com/lms/
○ありがとう(高崎)http://www.arigato-movie.jp/ 11月25日
○沈黙の傭兵(山田)http://www.chinmoku.jp/ 11月25日
○不都合な真実(まつかわ)http://www.futsugou.jp/ 1月20日
○終りよければすべてよし(山田)未定 http://www.jiyu-kobo.com
<○印の4本は12月封切ではないため集計の対象外です>

【総合】
1位『硫黄島からの手紙』
2位『武士の一分』
3位『リトル・ミス・サンシャイン』
4位『あるいは裏切りという名の犬』
5位『王の男』『敬愛なるベートーヴェン』『イカとクジラ』『ダーウィンの悪夢』

◆◇◆執筆者プロフィール、近況、著作はHPに掲載◆◇◆
   http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest

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★秋本鉄次さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●007/カジノ・ロワイヤル
  ●硫黄島からの手紙
  ●武士の一分

  やっぱり007シリーズとともに映画を見てきたんだな、という想いをヒシヒシと感じ
 た新ボンド襲名の第21作であった。“007/ビギニング”みたいな話を、CGに頼らない生
 身のボンドの肉体で綴ってゆく。心配された新ボンド、クレイグ君も顔はMI6というよ
 りKGBっぽい(プーチン大統領似だし)けど、よく動く奮闘ぶりや、ボンドガール相手
 やカジノで宿敵との“読み合い”演技もなかなかのもの。エンドクレジットでやっと“007
 のテーマ”がかかり、イヨッ、ペペンペン、ここから始まる007物語となるのが理に適っ
 ている。イーストウッドの「硫黄島~」は珍しい二部構成の日本編だが、最近の邦画の
 疑問が残る戦争ものよりもはるかに希求力がある力作だ。崇高な愛国心とやらも地獄の
 戦場に投げ出されたら意識も変わることを、硫黄島に飛ばされてきた元パン屋と元憲兵
 による“敵前逃亡”や“生きて虜囚の辱め”に託して描き切る。当時の日本軍の命令系統の乱
 れもさりげなく衝いており、“散るぞ悲しき”の栗林中将やバロン西などの実在の将校の
 描き方も悪くない。007と硫黄島2部作という硬軟両方の脚本をこなすポール・ハギ
 スってすごいね、プロだね。「武士の一分」は山田・藤沢の前2作よりは面白かったの
 で発作的に入れてみた。その動機のほとんどはヒロインの檀れい。ボクの好みのルック
 ス(鼻フェチとしてはあの鼻がいい)。往年の東宝女優、藤山律子に似てるし、という
 と年がバレるか。

 【裏ベスト】
  ●ダニエラという女
  ●あるいは裏切りという名の犬
  ●LOVE MY LIFE

  表ベストにしようかと思った「ダニエラ」と「裏切り犬」。ダニエラはモニカ・ベ
 ルッチの圧倒的肉体山脈、爆乳活火山にひれ伏し、イタリア女に最敬礼する映画であ
 る。「裏切り犬」は邦題もナイス。フイルムノワール最大のテーマ“裏切り”、「いぬ」
 というメルビルの傑作も想起させて座布団一枚! 「LOVE~」は真摯なレスビアン・
 カミングアウト映画で、石田衣良のパパが若干うっとうしいが、吉井怜と今宿麻美の演
 技がナチュラル。レズシーンの美しいヌードも眼福じゃ。

 【封切は終わったけれど…】
  11月の映画では、取り上げそびれたからここで、というのは少なかった。「プラダを
 着た悪魔」は“OL好き”の僕としては血が騒いだ部分もある。アン・ハサウェイも少し成
 長したし、メリル・ストリープはこういう役の方が断然似合う。秋の東京国際映画祭で
 上映された大森一樹監督の「悲しき天使」が知らないうちに下北沢で封切られていた。
 早いところ見なくては。その東京国際映画祭で見た廣木隆一監督の主婦売春テーマの
 「M」がかなりインパクト強かった。ヒロインの日韓ハーフの女優・美元嬢は往年のロ
 マンポルノの小川節子に似た美女でソソられるなあ。公開は来年で劇場も時期も決まっ
 ていないが、応援したいところ、と“封切りはまだ先だけど”ネタになってしまった。

★安藤智恵子さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●敬愛なるベートーヴェン

  耳の聞こえないベートーベンに、客席から見えないようにタイミングの指示を出す、
 女性コピイスト(写譜係)。ふたりの指揮がぴったり合わさったところへ「歓喜の歌」
 の大合唱……これって“魂のセックス”だよ、涙が出た。ただ「敬愛なる」という日本語
 はおかしくないか?

 【裏ベスト】
  ●酒井家のしあわせ
  ●あるいは裏切りという名の犬

  最近のコント芸人の中ではピカイチの演技力をもつ友近が、ばっちり期待に応えてく
 れた。濱田マリもオバチャン演技がうまい。「あるいは~」は、刑事ドラマだがギャン
 グ映画っぽくて、面白いんだけど、もうひとつグッとこなかった。主人公の刑事と老娼
 婦との、愛情でも友情でもない、オトナな関係がかっこいい。

 【封切は終わったけれど…】
  『ブラック・ダリア』のヒラリー・スワンクは最高! ミスキャストという意見が多
 いようだけど、それは普通の美女を求めるからよ。あれはフツーじゃだめなので、ヒラ
 リーが正解なのだ。『父親たちの星条旗』は感慨が深すぎて、ちょっとここには書き切
 れない。

★稲垣都々世さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●007/カジノ・ロワイヤル
  ●硫黄島からの手紙
  ●ダニエラという女

  ショーン・コネリーとジョージ・レーゼンビー(!)しか愛せなかったが、ダニエ
 ル・クレイグのジェームズ・ボンドはこれまでと違う新しい男――屈折して、皮肉屋
 で、ときに非情で、ときに愛に溺れる男――として面白い。脚本の方向性はいいが、ま
 とめきれずにとっちらかってしまって、本来は【裏ベスト】なのだが。「父親たちの星
 条旗」を時間の関係で挙げられなかったので「硫黄島からの手紙」を。見ていないがい
 いに決まっている。

 【裏ベスト】
  ●イカとクジラ
  ●ダーウィンの悪夢
  ●愛されるために、ここにいる

  「イカとクジラ」は台詞や会話のリズムや間など、面白いところはあるが、テーマに
 新鮮味がないから、もっとスタイルを際立たせないと飽きる。「ダーウィンの悪夢」は
 とても面白いドキュメンタリーだが、このように深刻で切実なテーマだと、ドキュ・ド
 ラマとしての作りが、いくら真実に基づいて作られていても、気になる。本来、ドキュ
 メンタリーとドラマの境界線などないのはわかっているが、気になる。面白かったから
 余計に。

★宇田川幸洋さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  東京国際映画祭もおわって、普通に試写室がよいをしているが、なぜか12月公開のも
 のをあまり見ていない。『硫黄島からの手紙』も、ちかく見るつもりだが(きょうも試
 写があったのだが、つい東京フィルメックスに行ってしまった)まだ見ていない。これ
 で年末をのりきれるのか。カンケイないか。

 【裏ベスト】
 ●デート・ウィズ・ドリュー

  『E.T.』のときからのドルー・バリモア・ファンという青年が、人間は、知りあいの
 知りあいの知りあい……を6段階たどっていけば、だれとでもつながっているという説
 (これ、一時はやったよね。何理論というんだっけ?)をたのみに、ドルー・バリモア
 にコネをつけてデートしようと大望をいだき、その過程をDVで記録した。「探偵ナイト
 スクープ」の依頼人と探偵とディレクターを全部ひとりでやってるようなもの。立原探
 偵がやったら、もっといい味が出たでしょう。
  題名が、彼女の名前を「ドリュー」にしているのは、しかたないけど、ぼくとしては
 残念。これでまた、この表記の固定化がすすむ。Drewを「ドリュー」とかくことに、な
 んでみなさん疑問をもたないのか。この映画のなかで何十回となく発音されている
 し、"True Drew"と韻をふんだりもしている。これは「トリュー・ドリュー」なのか。

 【封切は終わったけれど…】
  11月25日公開の『コワイ女』。3人の監督によるオムニバス・ホラーだが、鈴木卓
 爾監督による第2話「鋼―はがね―」が断然おもしろく、36分の短篇だが、これだけで
 十分に見る価値がある。下半身はミニスカートで色っぽいが、上半身はコーヒー豆がは
 いっていたような、あらい布のふくろにおおわれて不気味そのもの。ふくろのなかでは
 ギチギチと機械の音が聞こえてくるよう。これがヒロイン、その名も鋼。おとなしい自
 動車修理工の青年(柄本佑)が、この鋼にすっかり見そめられてしまい、恐怖と狂気に
 みちた愛のメルヘンがはじまる。この鋼の造形、彩度をおとしたモノクロのような画面
 (HD撮影)のなかの、さみしい修理工場や、鋼とその兄(香川照之)の住むこわれか
 けたような家のたたずまいが、うならせる。なにか、まんがが原作のような気がしてし
 まうのだが、オリジナルである。
  この鋼のキャラをスピンオフして、井口昇監督が1分×11話の「鋼ちゃん」という
 ショート・エピソード集をつくっている。ケータイのサイトで見られるということだ
 が、ぼくは11月24日の東京国際シネシティ・フェスティバル2006の上映を見にいくつ
 もり。

★内海陽子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●リトル・ミス・サンシャイン
  ●みえない雲
  ●ヘンダーソン夫人の贈り物

  「リトル・ミス・サンシャイン」は、やっかいな家族を抱えた主婦・トニ・コレット
 の努力が実を結ぶロードムービー。アラン・アーキンが孫娘に仕込んだダンスが一家を
 結束させる様子に胸熱くなる。「みえない雲」は陰鬱な社会派悲劇と思いきや、“被
 曝”に引き裂かれた男女の「ロミオとジュリエット」風恋愛劇であり、丸坊主のヒロイン
 がとても可憐。「ヘンダーソン夫人の贈り物」はジュディ・デンチとボブ・ホスキンス
 の掛け合いだけでも見る価値がある。

 【裏ベスト】
  ●Mr.ソクラテス
  ●ダニエラという女
  ●あるいは裏切りという名の犬

  「Mr.ソクラテス」は、たとえば松田優作主演“遊戯シリーズ”を連想させる、脇役に注
 目すべき元気なアクション。続編を作れば作るほど面白くなりそうな可能性がある。
 「ダニエラという女」のモニカ・ベルッチの量感たっぷりなボディの威力には、女のわ
 たしもひれ伏したいような気持ちになる。「あるいは裏切りという名の犬」は、ミレー
 ヌ・ドモンジョの崩れ落ちる寸前のような肉体を庇おうとする男たちの、義理堅いロマ
 ンティシズムが愛らしい。

★浦崎浩實さん(激評家/映画評・劇評)―――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●愛されるために、ここにいる
  ●武士の一分
  ●硫黄島からの手紙
  ●スキャナー・ダークリー
  ●フランキー・ワイルドの素晴らしき世界
  ●リトル・ミス・サンシャイン

  さすが正月。面白い作品一杯です。「愛されるために~」は心理の微妙な経過を丹念
 に織り込んだオトナの映画。「硫黄島~」は「父親たちの~」より落ちるものの、日本
 人にはむしろ、こちらが必見。(日本の)軍人たちがいかに戦争アマチュアで、戦術以
 外のことで心は虚ろだったかという悲しい真実をいやというほど思い知らせる。

 【裏ベスト】
  ●王の男
  ●敬愛なるベートーヴェン
  ●名犬ラッシー
  ●犬神家の一族

   “バック”でまとめた。甥カールへのベートーベンの溺愛はかねて評伝作家の好餌で、
 「敬愛~」のそこいらの仄めかしと、「王の男」共々“バックが肝心”として裏ベスト
 (ダジャレか!)。12月はリメイクが4作あり、いうなればバック・トゥ・ザ・パスト!
 「ラッシー」は社会性が盛り込まれて時の経過が聡明に働いた好例。

 【封切は終わったけれど…】
  特に無いので、代わりに悪口みたいなことを! ミステリマガジン誌連載中(今年9
 月号から)の石上三登志「日本映画のミステリライターズ」は、着眼卓抜なれど、ご当
 人の興奮ゆえかポイントは明瞭でない。ま、人さまの悪文をあげつらえる分際ではあり
 ませんが。

★江戸木純さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)硫黄島からの手紙
  ●2位)愛されるために、ここにいる
  ●3位)007/カジノ・ロワイヤル
  ●4位)武士の一分

  1位)は日米二部作の合わせ技でやはり今年ベストの作品。日米双方の論理というこ
 とだけでなく、過去、現在、未来まで見据えた戦争と平和と人間について描く究極の戦
 争映画。さらに今回は現代っ子も感情移入できる巧みな構成で全日本人号泣必至の国民
 映画となっている。もちろん、日本軍の戦いがここまで熾烈かつまっとうに描かれたこ
 とはかつてなかった。『男たちの大和』や『出口のない海』が描くべきで描けなかった
 ものがここにはある。2位)は、地味ながら的確な人間描写と本物の演技力、そして見
 事なタンゴの名曲で中年男の悲哀を見事に描ききった驚異の傑作。この洞察の深い大人
 の映画を見ると『Shall we ダンス?』も子供のお遊びに思えてしまう。3位)は、シ
 リーズ最高傑作は『女王陛下の007』と疑わない私にとっては大変嬉しいシリーズ屈指
 の快作。難点もいろいろあるし、それが今の観客のニーズに合っているかは定かではな
 いが大人のエンタテインメントとしての原点回帰は成功し、2時間半満腹に楽しませて
 くれた。4位)は、中盤からぐっと良くなる俳優・木村拓哉もさることながら、脇役・
 笹野高史が素晴らしい山田洋次のここ3本の時代劇の中では間違いなく最高作。

 【裏ベスト】
  ●1位)イカとクジラ
  ●2位)ダーウィンの悪夢
  ●3位)リトル・ミス・サンシャイン

  1位)は、よく出来た脚本と芝居の出来る俳優がいれば金は無くても映画は作れると
 いうお手本。日本のインディペンデントが目指すべきなのに皆無なタイプの映画。2
 位)は背筋の寒くなるような世界の真実を明かすドキュメンタリーの傑作だが、この題
 材ならもっと下品にもっと強烈に描けばさらに世界に衝撃を与えられたハズ。志は高い
 が、ちょっと真面目すぎる。3位)は、誇り高い負け組一家の旅を軽快に描いた好感度
 の高いウェルメイド快作だが、ファレリー兄弟やベン・ステイラー作品のような毒は薄
 味で笑いもクスクス程度。だから評判のいい作品なのだが、この題材ならもっと面白く
 なるはず。

 【封切は終わったけれど…】
  『アイ・アム』。大阪ヨーロッパ映画祭で上映されたポーランド映画。孤児院を脱走
 した少年の自立と成長を圧倒的に深みのある光と影の映像美(撮影は『トリスタンとイ
 ゾルデ』のアーサー・リーンハルト)とマイケル・ナイマンの琴線に触れる音楽で描く
 傑作にして、幼児虐待やいじめが世界的な社会問題化しつつある今見るべき映画。

★大森さわこさん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●リトル・ミス・サンシャイン

  ちょっとニューシネマ風のロードムービー。それにジョナサン・デミ風味も少々
 (「羊たちの沈黙」を撮る前の)。軽さと風刺と温かさのミックス・ケーキ。
  デコボコ家族の愛すべき再生の物語。どことなくポップな音楽感覚もイイ(そこが昔
 のデミっぽい)。へんに作りこまない作風に手作りのお菓子みたいな良さがあります。
 ニーチェを愛読するひきこもり青年役のポール・ダノ、ちょっと気になる若手男優にな
 るかもです。
  ところで、ジャ・ジャンクー監督の待望の新作「三峡好人」を東京フィルメックスで
 見ました。感動です! 正式公開は来年ですが、応援したい1本です。

 【裏ベスト】
  ●武士の一分

  本当は表ベストに入る正統派なんでしょうが、スター映画としてこちらに入れます。
 テレビのキムタクとは違う、映画スターとしての木村拓哉を見せたい、という監督の試
 みは成功では? きれいな顔の男が視力を失い、最後は(ちょっと汚れた)盲目の剣士
 として命を賭ける。そんな設定がおもしろいかも。

 【封切は終わったけれど…】
  12月発売のDVDでは、「プルートで朝食を」。キリアン・マーフィの色っぽい美人
 (?)役、最高! 今年の最優秀主演女優賞だったりして……。ありえない話をムード
 たっぷりに見せる(魅せる?)ニール・ジョーダン。こんな監督、そうはいませんねー。

★加藤久徳さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)愛されるために、ここにいる  
  ●2位)ダーウィンの悪夢
  ●3位)みえない雲

 【裏ベスト】
  ●プレスリーVSミイラ男

  至極、真っ当なベスト3のコメントは今回はお預け。とにかくお薦め品です。しかし、
 裏ベスト1として今月ピックアップした『プレスリーVSミイラ男』もお薦め品だ。と言
 うより必見。
  単なるおバカ映画の珍品に思えるだろうが、ドン・コスカレッリの演出は“真っ当”
 だ。秀作と言っていい。今も根強いプレスリー生存説から材をとったキワ物には違いな
 いが、プレスリーファンならずとも見るべきだ。見終って胸が熱くなったね。
  プレスリーを演じる怪優ブルース・キャンベルの役作りは見事。気になる部分をあげ
 るなら、本物プレスリーの映画の演技より、劇中のキャンベルの方が演技が上手いとい
 うところか。

★河原晶子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●愛されるために、ここにいる
  ●あるいは裏切りという名の犬

  タンゴが主題の映画には、本能的に魅かれます。「愛されるためにここにいる」の50
 代男性と結婚間近かの女性のシャイなカップルが、まるで身近かな人々のように感じら
 れて……
  「あるいは裏切りという名の犬」のG・ドパルデューとD・オートゥイユ。フランス
 の大好きな男優2人の競演に男の色香が漂よいます。

 【裏ベスト】
  ●敬愛なるベートーヴェン
  ●ダニエラという女(前号参照)

  こんなにもセクシーなベートーヴェン像ははじめてです。エド・ハリスの知性と野性
 がこの映画のすべてでしょう。いつもながらアニエスカ・ホランド監督の男優選びのセ
 ンスに共感です。

★黒田邦雄さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●愛されるために、ここにいる

  私が思っているフランス映画とはこれ! 人生の負け組となった中年男がダンス教室
 で若い女と知り合って…という展開は「Shall we ダンス?」風だが、感触はぜんぜん違
 う。ジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌールの「ヘッドライト」コンビで観た
 いような恋物語。たまりません!

 【裏ベスト】
  ●ダニエラという女

  こちらもさえない中年男が主役。宝くじで大金を手にした男が、カネさえあれば絶世
 の美女も我が物に出来ると勘違いする話で、男はフランス人、美女はイタリア人という
 のがミソ。「愛されるために、ここにいる」の主人公がこの女に惚れたら、同じような
 事態になったかも。つまり、両作品ともフランス男のロマンチシズムがテーマなんですな。

 【封切は終わったけれど…】
  ヌーヴェル・ヴァーグはリアルタイムで観ていたのに、この作品のこともジャック・
 ロジエ監督のことも知らなかった。日本では劇場公開されなかったからだが、トリュ
 フォーやゴダールが絶賛していたとか。DVDで鑑賞したが、いかにもヌーヴェル・
 ヴァーグ好みの青春映画で面白かった。

★塩田時敏さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●王の男

  これまでにも何度も映画化されてきた燕山君(ヨンサングン)の韓国時代劇だろうと
 大して期待もしなかったが、しなかったぶん目からウロコの面白さではあった。完全に
 芸人側から描かれた芸のスペクタクル。あ、イ・ジュンギ的ゲイのスペクタクルとも言
 えるか。暴君・燕山君の芸への執着は歴史的事実で、北の映画好きな金正日といい、我
 が国の小泉“感動した”純一郎といい、ダメな政治家は皆エンタメ好きというのが良く分
 る(笑)。

 【裏ベスト】
  ●気球クラブ、その後

  裏ベストには、もっと他の作品もあると思うが、しかし、封切リストの一覧を見て
 も、私でさえ聞いた事もない作品名が一杯ある。「こまどり姉妹がやってくる ヤア!
 ヤア!ヤア!」とか「愛と笑いの夜」とか、何だこれは(笑)。正直、封切作品が多す
 ぎますね、今の日本の映画界は。でも、我々がこういう事を言っててはいけない。傑作
 はゴミの山からしか生まれないのだから。園子温の本作は、その山に咲いた青臭いけど
 清々しい一本。

★品田雄吉さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●リトル・ミス・サンシャイン
  ●硫黄島からの手紙
  ●武士の一分
  ●王の男

  「リトル・ミス・サンシャイン」はクセがあったりドクがあったりする登場人物の
 キャラクターが面白いし、押さないと動かない車とか、トランクの中の死体とか、なか
 なかのぶっ飛び方。女の子が実によかったです。私は母を演じたトニ・コレットのファ
 ンです。「硫黄島からの手紙」は、アメリカの話を撮ったら、その真逆の側も撮らねば
 ならぬ、とするクリント・イーストウッドの誠実さに感心しました。「武士の一分」は
 しっかりできています。笹野高史がよろしい。桃井かおりも3枚目すれすれのところで
 うまくやっている。キムタクは無論、悪くない。ただ、敵討ち風対決が3作目となって
 ややパターン化してきました。「王の男」は韓国時代劇の優雅さを感じました。

 【裏ベスト】
  ●イカとクジラ
  ●犬神家の一族
  ●ダーウィンの悪夢
  ●あるいは裏切りという名の犬

  「イカとクジラ」はアメリカ中流の神経症的日常がおかしい。アメリカ人は救い難い
 な、とも思う。「犬神家の一族」は、90歳を超えた崑さんの馬力に敬服したが、富司純
 子の大芝居が浮いて見えた。「ダーウィンの悪夢」で環境破壊の恐ろしさを知る。「あ
 るいは裏切りという名の犬」は面白くなりそうだが、演出に芸と味が不足しているよう
 に感じ、昔のジャック・ベッケルの映画を懐かしく思い出したりしました。

★ジャンクハンター吉田さん(編集ライター)―――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)プレスリーVSミイラ男
  ●2位)こま撮り映画 こまねこ
  ●3位)長い散歩

  『ファンタズム』シリーズのドン・コスカレリ監督の映画が久々に日本のスクリーン
 で観れることにまず感謝。作品自体は随分前に作られていたのだが、未公開でもこっち
 へ入ってこないだろうと思っていたから嬉し過ぎ! バカ臭い内容よりもブルース・
 キャンベルがエルヴィスを演じるところに惹かれるんだけね。原作を読んでみたくなっ
 た。『こまねこ』はこのショートを観たいがためにシネマライズで映画を観てたから
 こっちも感無量!

 【裏ベスト】
  ●エコエコアザラク R-page-/B-page-

  Jホラーが下火になってきている最中『エコエコ~』を再び復活させる意図はわから
 ないけど(泣き路線を好み過ぎて、ホラーを毛嫌いする媒体側が増えてきたのが盛り上
 がりを沈下させた最大の要因!?)、筆者的には好きなシリーズだけに厳しく観てしまう。
 演出的箇所を突っ込むと空虚な感じの絵が多々あり、丁寧な作りにはみえなかった。が、
 おはスタ出身の近野成美が存在感を出しながら堂々と主役を張っていたのだけが唯一の
 救い!

 【封切りは終わったけれど…】
  地方ではまだやっている劇場もチラホラみられる全国順次ロードショー中の『幸福の
 スイッチ』。ジュリーこと沢田研二の熟した演技がとても好感持てるわ、実際のプライ
 ベートでも恐らくナマイキそうな上野樹里の好演が仕事と家族を巧みにクロスオーバー
 させる。本上まなみの落ち着いた演技よりも、上野のワガママっぷりが素の感じがして
 完成度高い。家族の絆をテーマにした作品は多いけども、ウィットに富んだ丁寧な作り
 に心潤わされる。

★高崎俊夫さん(編集者)――――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●硫黄島からの手紙

  仕事に忙殺され、ほとんど試写にいけず、かろうじて観られたのがこれ。『父親たち
 の星条旗』と較べると、言葉の問題もあろうが、日本の役者たちの演技に対する指導に
 は甘さが目立つ。しかし、それでも、皇軍としてのジレンマを痛切にあぶりだしている
 あたりは、さすが。

 【裏ベスト】
  ●ありがとう ※11月25日封切

  万田邦敏監督は、前作『UNLOVED』でも増村保造ばりのディスカッションドラマを
 構築し、確かな力量を見せつけたが、阪神淡路大震災復興をテーマにした本作でも、正
 攻法の演出でぐいぐい見る者を引き込む。とくに後半のプロゴルファー試験の盛り上げ
 方は往年のハリウッド映画の骨法を遵守した見事な仕上がり。薬師丸ひろ子がひさびさ
 にチャーミングに撮られていたのが嬉しい。

 【封切は終わったけれど…】
  フィルムセンターの「オーストラリア映画祭」で観た『ジェダ』に深い感銘を受け
 た。1950年代に、こんなカラー作品が作られていたとは! 本物のアボリジーニたち
 が主演し、彼等の神話的な習俗や日常があざやかにとらえられているのが興味深い。そ
 して、通過儀礼としての<ウォークアバウト>の世界をじっくり描いている点でも、ニ
 コラス・ローグの名作『美しき冒険旅行』の遥かな先駆ともいうべき傑作だと思う。

★高橋諭治さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●敬愛なるベートーヴェン
  ●硫黄島からの手紙
  ●リトル・ミス・サンシャイン
  ●イカとクジラ
  ●ダーウィンの悪夢
  ●酒井家のしあわせ

  ミニシアター系中心に、派手さはないものの充実作が揃ったお正月シーズン。いち押
 しの『敬愛なるベートーヴェン』は、甘ったるいラブ・ストーリーや伝記ドラマを飛び
 越え、深い“魂”の領域に踏み込んだ傑作。同じエド・ハリスと組んだ未公開作『奇蹟の
 詩 サード・ミラクル』も素晴らしかったアニエスカ・ホランド監督の冷徹な演出に
 「さすが!」と唸る。試写が大盛況の『リトル・ミス・サンシャイン』は誰もが楽しめ
 るロードムービー形式のコメディだが、痛烈な社会風刺にもニヤリ。新人女性監督によ
 る『酒井家のしあわせ』は小粒ながら、映画ならではの微妙なニュアンスや間合いでし
 ばしばハッとさせ、お涙頂戴に陥らないひねりも利かせた好編。あれっ、気がつけば
 『イカとクジラ』も含め、家族コメディが3本も入ってますね。

 【裏ベスト】
  ●007/カジノ・ロワイヤル
  ●スキャナー・ダークリー
  ●あるいは裏切りという名の犬
  ●鉄コン筋クリート

  新ボンドのお披露目作『007/カジノ・ロワイヤル』は上々の出来栄えだが、『女王
 陛下の007』的な“番外編”の色合いが濃い。筆者のようなシリーズの保守的なファンは、
 「このストイックなテイストがこの先も続いたらちょっと困るなぁ」なんて思ったりも
 する。ソニー配給になったとたん、さっそくボンドがVAIOを使うというのもちょっと
 ……。デジタル・ペイントのユニークな技法を実践した『スキャナー・ダークリー』
 は、ストーリー展開が緩くて起伏にも乏しい。途中で何度か睡魔に襲われかけたが、そ
 の朦朧とした感覚が不思議とディック原作の奇妙なストーリーにマッチしている。
 『ある犬』はジャン・ピエール・メルヴィルの域には遙か及ばないが、ハードボイルド
 に徹した警察内の人間模様が魅力の本格フレンチノワール。ずばりジェラール・ドパル
 デューの迷いのない“悪役”ぶりが見ものです。ロバート・デ・ニーロがハリウッド・リ
 メイク企画を進めているとか。

★高村英次さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●リトル・ミス・サンシャイン
  ●硫黄島からの手紙

  『幸せのポートレート』『プラダを着た悪魔』と心の琴線に触れる映画はみなフォッ
 クス作品だった印象が強い06年だが、その最後を飾る『リトル・マイ・サンシャイン』
 も◎。崩壊家族の面々がミニバスでの旅行の過程で、絆を再生させる。テーマはありが
 ちだが、語り口がユニークで巧い。太り気味の少女と家族が弾けるコンテストでの乱痴
 気ダンシングが、勝ち組至上主義の考え方をブッ飛ばして、最高に気持ちいい。逆に
 『硫黄島からの手紙』は最高に気が滅入る作品。しかし投降した日本兵の捕虜を「世話
 するのが面倒だ」という理由だけで射殺する米兵を描いた点だけでも、イーストウッド
 は尊敬するに値する。

 【裏ベスト】
  ●人生は、奇跡の詩

  このロベルト・ベニーニ製作・監督・脚本・主演作は、裏ベストというよりはワース
 ト作品って感じだが、「なぜワーストか?」はベニーニのコレまでの作風や女房の女優
 ニコレッタ・ブラスキを共演者とするオノロケぶりから推測していただくとしよう。だ
 が劇中、『続・荒野のガンマン』が引用される箇所があり、ここが楽しい。脂ぎった
 イーライ・ウォーラックが気のふれたように叫ぶ、あの愉快なシーンが出てきますゾ。

 【封切は終わったけれど…】
  イーストウッドのように役者でよし監督でよしという御仁は、日本にもいる。例えば
 大映で娯楽路線を撮り続けた島耕二監督。若き俳優時代は二枚目で鳴らし、監督に転進
 してからも戦前・戦中に名作を発表。島監督の知られざる傑作に『総会屋錦城 勝負師
 とその娘』があり、先日見る機会を得た小生は、引き締まったドラマ構成とシックで深
 度の深い映像に圧倒された。孤老の総会屋・志村喬と老獪な株屋・山本礼三郎の対決、
 と聞けば映画ファンならすぐに『酔いどれ天使』『野良犬』を想起して身震いするハ
 ズ。それにつけても素晴らしいのは「総会屋はダニだ」という台詞と、ダニであるべき
 欲得にまみれた総会屋の中に、あるひとつの良心がポッと出現する一瞬が見事に描かれ
 ている点。ホリエモンやなんとかファンドの金満エリートさんに是非見せたい作品です。

★田中千世子さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●鉄コン筋クリート

  最初から最後まで興奮するアニメーション映画だ。ゴテゴテしてエキゾチックな町の
 造形がとてもいい。築地本願寺をデザインした伊藤忠太の世界のよう。その町を飛翔す
 る悪ガキが最高。

★暉峻創三さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●武士の一分
  ●王の男

  殿様に毒見役で仕える男を描いた『武士の一分』、王様に芸人として仕える男を描い
 た『王の男』。どちらもその時代を題材とした既成ジャンルに埋没することのない新し
 いアプローチが光る。

 【封切は終わったけれど…】
  『ありがとう』。仙頭武則製作・特撮監督・脚本(共同)による本作をどの程度“万田
 邦敏監督作品”と見なしていいのかには留保が必要だが、ここには万田監督次回作『接
 吻』が途轍もない傑作に仕上がってることを予感させる瞬間が随所に転がっている。

★永野寿彦さん(シネマ・イラストライター)―――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●鉄コン筋クリート
  ●硫黄島からの手紙

  『鉄コン筋クリート』の、原作そのままの移植感がとにかく驚異的。実際の絵柄は松
 本大洋というよりも、『マインドゲーム』の“天才”湯浅政明タッチ踏襲の“動き命”アニ
 メートなのだが、これが驚くくらいに松本大洋の世界とマッチしている。見ているだけ
 で心動かされる傑作です。イーストウッドの“日本映画”『硫黄島からの手紙』はその本
 気っぷりはもちろん、どことなく岡本喜八戦争映画に通ずる雰囲気にも感動してしまい
 ました。

 【裏ベスト】
  ●007/カジノ・ロワイヤル

  完成する前からなんやかんやと言われていた作品でしたが、フタを開ければなかなか
 評判の良い007=ボンド最新作。実はまだ未見なのですが、原作が原点ということに合
 わせて、原点帰りを狙っているであろうことに期待。やっぱ007はやめられません!

 【封切は終わったけれど…】
  『硫黄島からの手紙』と一緒に絶対に観ておいてほしいクリント・イーストウッド監
 督の『父親たちの星条旗』。もうすでに前号で絶賛されているので詳しくは書かないけ
 れど、『硫黄島からの手紙』とイメージがリンクするカットに込められた思いを感じ取
 るためにも再見してほしい傑作です。

★西脇英夫さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)武士の一分
  ●2位)硫黄島からの手紙
  ●3位)あるいは裏切りという名の犬
  ●4位)みえない雲

  1位)は、文句なく今年の日本映画のベストワン。キムタクの名演には驚嘆。監督の
 演技の引出し方の巧さなのか、とにかく引き込まれる熱演ぶりだ。2位)は、さすが人
 格者イーストウッドの、これみよがしやけれん味のない誠実な演出が光る。3位)はフ
 ランス製の「インファナル・アフェア」だ。というより香港製のほうがフランスのフィ
 ルム・ノアールをそっくり取り入れたということかもしれない。粋でクールで、これこ
 そ映画美の極みという作品。4位)は、メッセージ性の強い作品だが、それにもかかわ
 らず、静かな語り口に感動させられる。原発を持つ国民はすべて見るべし。

 【裏ベスト】
  ●1位)敬愛なるベートーヴェン
  ●2位)長い散歩
  ●3位)007/カジノ・ロワイヤル

  1位)は、クラシックフアンでなくても十分楽しめるドラマ性の優れた作品で、脚
 本、演出、演技すべてが完璧。2位)は、日本映画らしい優しさと、厳しさにあふれた
 佳作。どこがいいというのではなく、たんたんとしていながら、静かな感動が伝わって
 くる。俳優が監督したとは思えない円熟度を示している。3位)は、シリーズ中最もシ
 リアスで現実性をおびた、かつてのイギリスのスパイ映画を思わせる出来で、派手さを
 期待するとガッカリ。成功作とはいえないが、こういう007があってもいいかも。

★野村正昭さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●硫黄島からの手紙

  イーストウッド監督「硫黄島」二部作は、「木更津キャッツアイ」の「1回表/裏」
 のように、お互いを補完しあう構造なのかと思っていましたが(そうした部分もあるけ
 れど)日米双方のほぼ切り離された描写に、作者たちの意図を感じさせられました。ま
 るで日本映画みたいだし。ただ、後半の修羅場で、無神経な映画評論家が、バカ笑いを
 していたのには猛烈に腹が立った。GUDONなのは映画以上に映画評論家という観客だ!

 【裏ベスト】
  ●犬神家の一族
  ●王の男

  「犬神家の一族」は、殆ど前作と同じ――ある部分ではカット割りも、音楽も――で
 驚かされました。こんなことやってもいいのかなあ。まあセルフリメイクだし。ただ、
 ラストシーンにはジーンとさせられました。「王の男」は、平田満とKABA.ちゃんと杉
 本哲太みたいな男たちが右往左往しているみたいだなあと途中から妄想させられまし
 た。韓国と日本の男優に対する美意識のちがいを実感させられたという点では、とても
 興味深い。

★増當竜也さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●硫黄島からの手紙
  ●武士の一分
  ●パプリカ ※公開中

  『硫黄島からの手紙』思えば戦争映画をきっかけに映画好きになり、今やこんな仕事
 までしている身としては、(音楽を除いて)ほぼ完璧な戦争映画でした。アメリカ映画
 でも日本映画でもないイーストウッドの映画としかいいようのない傑作、映画史上に残
 る名作です。35日も持ちこたえた男たちの讃歌ではなく、35日しか持ちこたえられな
 かった男たちの悲劇とその原因が見事に描かれており、栗林中将の責任までさりげなく
 訴えているあたりもすごい。キャストそれぞれの好演その他、記し始めたらきりがあり
 ません。『武士の一分』は山田洋次時代劇三部作で一番好み。木村拓哉の頑張りにも頭
 が下がりました。『パプリカ』はもはや終わってしまうことのみが欠点といいたくなる
 ほど、夢と現実の交錯に魅せられました。林原めぐみの声も最高。やっぱアニメは声優
 がやるのが一番。

 【裏ベスト】
  ●犬神家の一族

  ほぼ同じ脚本、同じ構図にカット割り、しかし微妙に照明の当て方などを変えたり、
 かつてと違う今の役者の演技の間合いなどで、こうも前作と印象が変わるものかという
 驚き。メジャーによる実験映画という表現がぴったりです。出来云々を超えて、ラスト
 は市川=石坂の金田一映画ファンとして感無量のものがありました。

 【封切は終わったけれど……】
  『硫黄島からの手紙』を観て以来、他の映画を観る気が起きず(見逃し作品を数本
 DVDレンタルで観たものの、成果は今のところなし)、久々TVゲームに没頭。今は
 RPG『グローランサーV』をやっていますが、このシリーズ、お話が現代社会の政情を
 彷彿させるファンタジーとなっていて面白く、うるし原智志によるキャラクターデザイ
 ンも美しく、全作アニメ映画にならないかなあと思うほど。ただ今回の『V』は、ゲー
 ムとしてはシステムが大幅に変更されていて、やりづらいのが難であります。

★まつかわゆまさん(シネマアナリスト)―――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●あるいは裏切りという名の犬
  ●愛されるために、ここにいる
  ●ヘンダーソン夫人の贈り物

  フランス映画らしからぬ緻密さを持つミステリー・サスペンスにしてフランス映画で
 なければのムウドを持つ「…裏切りという…」。フランス映画ならではの語り口の「愛
 され…」。この二本に今月はやられました。それからさ、「ヘンダーソン夫人の贈物」
 も12月公開だよね。演劇ファンとして、反戦映画ファンとして、母親として、好きな作
 品です。

 【裏ベスト】
  ●ダーウィンの悪夢
  ●みえない雲
  ●不都合な真実 ※1月20日封切

  社会派好きとしてはお客さんを食い合わないことを望みます。事実にとことこん語ら
 せる「ダーウィン」の手法、流れを作って事実を配置しあきさせないためのユーモアも
 加えつつ観客を楽しませ導く「不都合」の手法。好みはわかれるかもしれないけれど、
 どちらも観客に訴えたいという志の強さは同じ。そこが大切。「みえない」は青少年に
 核問題を自分のこととして感じてもらおうという真摯さに好感。

 【封切は終わったけれど……】
  先月かけなかったので。「麦の穂をゆらす風」。「大地と自由」をやはりお膝元でや
 んなきゃというローチ。この世代の人はイデオロギーに夢を見て裏切られたという感情
 があるのだと思う。けれど人文主義は持ち続ける。ひとびとが本当に幸せになるために
 はどうすればいいのかを消去法で考えていく人なのではないかと思う。

★三留まゆみ(イラストライター)――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ごめんなさい。今月も【表ベスト】はお休みです。限りなく近いところで『デート・
 ウィズ・ドリュー』。ああ、こういう映画(ドキュメンタリー)もありだなって、うれ
 しくなりました。映画って、きっとだれにでもつくれるんだと思います。要は気力と体
 力。それから「なにがなんでも!」の思い込み。カメラ(それもいちばん高価なやつ)
 を保証期間の30日間、徹底的に使って返品=返金(なので機材費はゼロ)という発想
 が、なんてったって素晴らしいです。インディーズ映画はこうでなくてはね。

 【裏ベスト】
  ●ダーウィンの悪夢
  ●インビジブル2
  ●プレスリーVSミイラ男

  小学生のころ、給食のメニューに「おひょうのフリッター」というのがあって、子供
 心にあやしいものを感じていたのですが、大人になって小樽の水産資料館(?)で実物
 に遭遇。巨大なヒラメでした(回転寿司のエンガワもこれらしい)。ってなことを思い
 出していや~な気持ちになった『ダーウィンの悪夢』。半端なホラーよりよっぽど怖い。
 去年、山形で観てからずっと悪夢のようにまとわりついています。ヴァーホーヴェンと
 いうよりは、カーペンターの『透明人間』に近い『インビジ2』。スレーターってすご
 いな(前作のベーコンもそうだったけど)。裸もいとわずどころか、透明もいとわずの
 役者(バカ)根性。好き。『プレスリー』はいつまでも変わらずにいてくれるだれより
 も素敵なドンに愛を込めて。

  【封切りは終わったけれど】
  『コワイ女』第2話「鋼―はがね―」。鈴木卓爾ってヘンな人だと思ってたけど、
 やっぱ筋金入りでした。ずた袋のヒロイン、鋼ちゃんにもう夢中です。兄貴が香川照
 之ってところがまたいい。二人でお風呂に入ってるシーン(声だけだけど)なんて、も
 う胸がぞわぞわです。スピンオフ『鋼ちゃん』(1話1分=全11話)も東映チャンネル
 +東映携帯サイトでオンエア中(井口“猫目”昇監督)です。

★皆川ちかさん(ライター)―――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●イカとクジラ
  ●王の男

  「イカとクジラ」ダメ人間な親たちを裁く視点にしていないのは、他人事ではなくて
 自分事の物語だからなんでしょうね。ラストシーンは、ちょっと『バナナブレッドのプ
 ディング』っぽいです。

 【裏ベスト】
  ●とかげの可愛い嘘

  カン・ヘジョンはイノセンスなんだかカマトトなんだか微妙な芸風に突入しましたね。

 【封切は終わったけれど……】
  「悪魔とダニエル・ジョンストン」:キリスト原理主義者の家に生まれて母親に反発
 して「アウトサイダー」を自認していたダニエルが、キリスト教的な神の悪魔に取り付
 かれて40代になっても親と同居。これが実話なんだから、現実は残酷だ。映画に登場す
 るのは全てダニエルを理解する人たち。ダニエルはみんなに守られている。ダニエルは
 いつも笑っている。うーん、彼の初恋の人ローリーも出すべきだったんじゃないかな。 

★みのわあつおさん(ポップ・カルチャー評論家)―――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●プレスリーVSミイラ男
  ●デート・ウィズ・ドリュー
  ●リトル・ミス・サンシャイン

  まず、ブルース・キャンベル主演作にはハズレなし! 『デート~』は、主人公? 
 の男のキャラが最高によくて、観終わるとすごくハッピーな気分になる。『リトル~』
 は、ゲイの学者役のスティーブ・カレルの芸域の広さ。このスティーブといい、最新作
 『ストレンジャー・ザン・フィクション』のウィル・フェレルといい、フラットパック
 の一派は、シリアス演技へのトライが流行?

★宮城正樹さん(映画&音楽の批評・分析家)―――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)敬愛なるベートーヴェン
  ●2位)リトル・ミス・サンシャイン

  ハンガリー・ロケで19世紀オーストリアを描いたUK映画の1位。クラシックの音楽
 映画だが、久々に音楽に集中した1作だ。20分以上にわたる、カンニングする指揮者に
 よる演奏シーンが壮観。2位は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』的をロード・ムー
 ビー仕様で作った家族映画の傑作。途中で1人死ぬが『怒りの葡萄』や邦画『家族』の
 ような悲愴感がないのは上質のコメディだからだろう。子役女優が兄をそっと慰める場
 面にしびれた!

 【裏ベスト】
  ●1位)イカとクジラ
  ●2位)武士の一分

  1位はヌーベル・バーグへの敬意に思わせておいて、79年『クレイマー、クレイ
 マー』80年『普通の人々』などオスカー作品賞への返信というか「俺ならこう撮った
 ぞ」ってとこを自意識的に示した86年NY舞台の家族崩壊ドラマ。『リトル・ミス…』
 の裏版と言える。キムタク流座頭市演技の新鮮さに加え、蚊や風なんかの細部のリアリ
 ティーへのこだわりが巧みな2位。完璧過ぎて引っ掛かりがなく「出来過ぎたるは猶及
 ばざるが如し」の感も。

 【封切は終わったけれど…】
  大阪で只今公開中の2本。ユルユル度高しの『キャッチボール屋』。野球の初歩の
 キャッチボールで描く野球愛映画で、癒し系で捉えた日本版『フィールド・オブ・ド
 リームス』だ。ヒリヒリ度高しのヴィスコンティの遺作=完全復元&無修正版『イノセ
 ント』を再見。自殺映画『鬼火』より暗~く、それでもって59年『危険な関係』より変
 態系の夫婦ドラマ。ジャンカルロ・ジャンニーニのUP多めで、きつくて怖い瞳はある種
 ホラーチックで鳥肌もん。

★宮崎祐治さん(イラストレーター)―――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●武士の一分

  地味な正月映画ばかりのなか、これは話題性も内容も完璧な、ベストワン。ラストに
 クレジットが上昇してくるタイミングで象徴されているが、すべてがシンプルなのに完
 成度は圧倒的に高い。こういう傑作に悪口をいう人には、「もう少し、素直に映画を観
 てください」と言いたくなる。

 【裏ベスト】
  ●酒井家のしあわせ

  スクリプター出身の女性監督という情報に関係なく、男たちは格好悪く、女たちは逞
 しいのがリアルに感じられた。自分も父親を早く亡くしているせいか、こういう父親も
 のには、どうも弱い。予告編は見せ過ぎの気がした。

★森直人さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●イカとクジラ
  ●鉄コン筋クリート
  ●武士の一分
  ●フランキー・ワイルドの素晴らしき世界
  ●王の男
  ●硫黄島からの手紙

  『イカとクジラ』。大人なんて別に大人ではない。子供は世界の複雑さに直面してう
 ろたえながらも、日々を生き抜いていかねばならない。うまいとこ突いた傑作だなあ。
 『武士~』と『フランキー~』。視力の問題は、映画ライターには切実です……。

 【裏ベスト】
  ●犬神家の一族

  「映画って不思議」、と改めて思う。
 
 【封切は終わったけれど…】
  『プラダを着た悪魔』は傑作でしたね! 『デスノート the Last name』にも
 大満足。

★山田宏一さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ざくろ屋敷

  深田晃司監督作品。東映アニメーションによる「画(が)ニメ」というDVDシリーズ
 の一編ですが(幻冬舎より発売)、できれば大きなスクリーンで見たい作品。48分とい
 う上映時間は興行にはむずかしそうですが、作品がじつにすばらしいので、映画館でも
 上映されそうです。
  「画ニメ」とは「アーティストが描いた〈画〉を軸に、〈言葉〉〈音楽〉を融合させ、
 作品の可能性を最大限に引き出す新感覚映像コンテンツ」で、『ざくろ屋敷』は深澤研
 の美しいテンペラ画による静謐な、しかし、ときには生きる歓びのようにまぶしいくら
 いの明るい光にあふれ、ときには死の恐怖にように深く暗い闇に包まれたイメージを、
 かぼそく、ひそやかなナレーションと対話で、そしてさりげなくぜいたくに多彩なメロ
 ディーをちりばめて、珠玉の詩画集のように仕上げた傑作です。

 【裏ベスト】
  ●ダニエラという女
  ●沈黙の傭兵
  ●終りよければすべてよし

  モニカ・ベルッチの全裸のたくましい背中とでっかい尻の誘惑に卒倒死する男も出る
 というコメディー(ベルトラン・ブリエ監督作品)、このオヤジちょっと太りすぎかと
 思われるものの神業セガール拳が炸裂する“沈黙”シリーズの最新作(スティーヴン・セ
 ガール製作総指揮、ドン・E・ファンルロイ監督作品)、『ウンベルト・D』から遠く
 離れて今日的な豊かな(としか言いようがない)老齢化社会の介護と福祉のハッピー版
 楢山節考(羽田澄子監督作品)……

  【封切は終わったけれど…】
  「信長の棺」。三村晴彦監督作品。テレビ映画ですが(11月5日のテレビ朝日「日曜
 洋画劇場特別企画」として放映された)、久しぶりに三村晴彦タッチ(安易なCG多用の
 アクションなどにたよらず、禁欲的なまでに抑制された古典的な演出)の時代劇あるい
 はむしろ歴史映画のたのしさを堪能しました。

★横森文さん(ライター&役者)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●鉄コン筋クリート

  松本大洋のあの傑作をアニメ化するなんて厳しいだろう! とタカをくくって見に
 いって仰天。やっぱり日本のアニメのクオリティの高さはハンパじゃないとちょっと実
 感。ここのところの米3DCGアニメのいかにもCGらしさを強調した演出にもウンザリし
 ていたのもあり、久々に爽快なアニメの演出を見せてもらった。二宮和也の声優のうま
 さは想像できたが、蒼井優のシロへのなりきりぶりが素晴らしく、その辺も評価したい
 ポイントに。

 【裏ベスト】
  ●シャーロットのおくりもの

  正直、裏じゃなくて普通のベストに入れても良かったのだが、今回は1本ずつと決め
 ていたので、裏に回してみた。もともと幼少の頃にアニメ版を見て大好きだった作品だ
 が、クモのシャーロットが実写版になった時にどうなるのかものすごく不安だった。し
 かし、ちゃんと不気味だけどリスペクトできるクモになっていてひと安心。家畜の現実
 (ブタからベーコンへの繋ぎは最高)を踏まえつつ、絵空事のファンタジーに終わらせ
 ない感動作。
 
 【封切は終わったけれど…】
  『虹の女神 RAINBOW SONGS』。学生時代に微妙なつきあい方をしていた女性の
 突然の死。そこから彼女とのつきあい方を回想していく形で始まる本作は、芝居のリア
 リティさにマジで打ちのめされた作品。全員の気負わない台詞回しも完璧ならば、それ
 を気をてらわず、でもユーモアも取り入れて見せる映像も心地良い。なおかつ時間経過
 を思い切り良くスパンスパンと飛ばしていく疾走感も見事で、なんで当たらなかったの
 かマジで不思議。本当にいい作品だったのに…。

★渡部実さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――――

 【裏ベスト】
  ●敬愛なるベートーヴェン

  ベートーベンの第9交響曲にまつわるドラマをアニエスカ・ホランド監督が映画化す
 るというので期待しました。ホランド監督は初期の映画には少年を描き、次第にラン
 ボーやヴェルレーヌなどの芸術家を描きはじめ、今回もそのような趣向であると思いま
 すが、出来栄えは半々というところでした。全編にベートーベンの音楽が流れ、監督は
 ベートーベンの音楽を充分に好意的に受け入れていることは分かるのですが、かっての
 「ヨーロッパヨーロッパ 僕を愛したふたつの国」(90年)「オリヴィエ オリヴィエ」
 (92年)に見られたポーランドの監督らしいデモーニッシュな魅力が希薄で、むしろホ
 ランド監督は女として中年男のベートーベンに興味を抱いていたのではないかと思われ
 るほどです。今までの楽聖のイメージを払拭している内容で、新たなベートーベン像を
 期待する人にはお薦めの映画かもしれません。第9交響曲といえば、私は高校時代に初
 めて実演を聞きました。当夜の指揮者は若杉弘の予定であったのが、彼が急病でキャン
 セルをしました。その代わりに壇上に上がった指揮者が近衛秀麿でした。1960年代の
 末期でしたので、近衛秀麿も長老ではありましたが、演奏はゆったりとしたテンポでと
 ても華麗な印象を受けたことを覚えています。

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┣編集後記┫

◆「キング 王の罪」(メディア・スーツ配給)の新聞広告、ご覧になりました? ガエ
ル・ガルシア・ベルナルのスチールのところに、けっこうでっかく王冠のカタが切り抜か
れ〈第1位!!〉の文字。その上には〈映画評論家が選ぶ11月公開作品〉とあり、最後に
〈メールマガジン「試写室だより」調べ〉とあります。
“映画評論家が選ぶ11月公開作品 第1位!! メールマガジン「試写室だより」調べ”
本メルマガを映画の広告に使っていただけたなんて、なんという光栄なことでしょうか。
今後とも、購読していただける読者の皆様、ご執筆いただける映画評論家の皆様、封切の
情報をいただける映画会社の皆様のご支援に報いたく、ますます注目されるメルマガを目
指し、精進して参ります。ご声援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。(れがあるF)

◆『父親たちの星条旗』を見ました。魂レベルで上等な人間ほど、現実レベルでは惨めな
負け犬になってしまう。先住民の兵隊さんに思いっきり感情移入です。「誰がなんと言お
うと、あなたの方が人間として勝っているんだよ」なんて言ったところで、何の慰めにな
るでしょう……ところで、映画の冒頭で流れる曲、歌っているのはイーストウッド本人で
すよね? 第2弾『硫黄島からの手紙』は今回、総合第1位を獲得。しかも裏ベストには
1票も入ってなく、すべて表ベスト。まさにぶっちぎりです!(れがあるU)

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■発行日:2006年11月30日
■発行者:れがある http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest
■定 価:315円(税込)
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