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2007年1月号

〓〓〓試写室だより 封切はこれからだ!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓第九号〓〓〓

     映画を見るプロが選ぶ、表ベスト映画&裏ベスト映画
        ∴・∴・∴2007年1月封切り篇∴・∴・∴

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【表ベスト】これぞまぎれもなく、映画を見るプロが選んだ1月の最高作。心して見よ。
【裏ベスト】出来、不出来は二の次、偏愛あり、ヒイキの引き倒しあり、極私的なケッサク選!
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INDEX(得票順/カッコ内は選者/日付は封切り日)
【表ベスト】
1位 ディパーテッド(えいwithフォーン、大森、河原、品田、高橋、西脇、野村、
   まつかわ、みのわ、宮城、森)1月20日
   http://wwws.warnerbros.co.jp/thedeparted/
1位 それでもボクはやってない(稲垣、内海、品田、高崎、田中、永野、まつかわ、
   松島、宮城、森、横森)1月20日
   http://www.soreboku.jp/index.html
3位 エレクション(宇田川、浦崎、江戸木、塩田、品田、高橋、暉峻、まつかわ、森)1月20日
   http://www.eiga.com/official/election/
4位 華麗なる恋の舞台で(内海、浦崎、まつかわ、みのわ)正月第2弾
   http://www.alcine-terran.com/kareinaru/
4位 恋人たちの失われた革命(高崎、暉峻、西脇、松島)1月2日
   http://www.bitters.co.jp/kakumei/
4位 幸せのちから(安藤、江戸木、加藤、永野)1月27日
   http://www.sonypictures.jp/movies/thepursuitofhappyness/index.html
4位 不都合な真実(安藤、稲垣、加藤、みのわ)1月20日
   http://www.futsugou.jp/
8位 グアンタナモ、僕達が見た真実(稲垣、松島、宮崎)1月27日
   http://www.guantanamo.jp/
8位 魂萌え!(浦崎、河原、品田)1月27日
   http://www.tamamoe.com/
8位 マリー・アントワネット(河原、黒田、皆川)1月20日
   http://www.ma-movie.jp/
8位 ラッキーナンバー7(稲垣、内海、江戸木)1月13日
   http://www.lucky-movie.jp/
12位 輝く夜明けに向かって(西脇、松島)1月27日
   http://yoake-movie.jp/
12位 キムチを売る女(塩田、暉峻)1月下旬
   http://www.kaf-s.com/ ※韓国アートフィルム・ショーケース
12位 幸福な食卓(加藤、野村)1月27日
   http://ko-fuku.jp/pc/
12位 どろろ(佐々木、増當)1月27日
   http://www.dororo.jp/
12位 マイ・シネマトグラファー(野村、渡部)1月20日
   http://www.glassymovie.jp/mycinema/
以下17位
●愛の流刑地(塩田)1月13日 http://www.airuke-movie.com/index.html
●悪夢探偵(塩田)1月13日 http://www.akumu-tantei.com/
●ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド(浦崎)1月20日 http://brothers-head.com/
●マジシャンズ(暉峻)1月20日 http://www.magicians.jp/
●幽閉者・テロリスト(松島)正月第2弾 http://www.prisoner-m.com/
●善き人のためのソナタ(河原)正月第2弾 http://www.yokihito.com/
●ルワンダの涙(まつかわ)1月27日 http://www.r-namida.jp/index.html
●ワサップ!(皆川)1月新春第2弾 http://www.finefilms.co.jp/wassup/
○さくらん(秋本) 2月24日 http://www.sakuran-themovie.com/
○Gガール 破壊的な彼女(秋本)2月 http://movies.foxjapan.com/Ggirl/index.html
○世界最速のインディアン(秋本)2月 http://sonypictures.jp/movies/theworldsfastestindian/
○DOA デッド・オア・アライブ(秋本)2月10日 http://www.doa-movie.jp/
<○印は1月封切でないため集計の対象外です)

【裏ベスト】
1位 エレクション(稲垣、佐々木、高崎、永野、松島)1月20日
   http://www.eiga.com/official/election/
1位 ディパーテッド(稲垣、浦崎、江戸木、高村、松島)1月20日
   http://wwws.warnerbros.co.jp/thedeparted/
3位 グアンタナモ、僕達が見た真実(浦崎、西脇、野村、まつかわ)1月27日
   http://www.guantanamo.jp/
3位 マリー・アントワネット(品田、野村、宮城、森)1月20日
   http://www.ma-movie.jp/
5位 サバイバル・ビーチ(加藤、塩田、松島)1月6日
   http://www.biotide-films.com/sb/
5位 それでもボクはやってない(浦崎、塩田、西脇)1月20日
   http://www.soreboku.jp/index.html
5位 ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド(河原、高橋、野村)1月20日
   http://brothers-head.com/
5位 ラッキーナンバー7(安藤、高橋、宮城)1月13日
   http://www.lucky-movie.jp/
9位 愛の流刑地(品田、田中)1月13日
   http://www.airuke-movie.com/index.html
9位 幸福な食卓(塩田、高橋)1月27日
   http://ko-fuku.jp/pc/
9位 不都合な真実(内海、まつかわ)1月20日
   http://www.futsugou.jp/
9位 フリーダムランド(安藤、高橋)1月27日
   http://www.sonypictures.jp/movies/freedomland/index.html
9位 マイ・シネマトグラファー(まつかわ、宮崎)1月20日
   http://www.glassymovie.jp/mycinema/
以下10位
●悪夢探偵(皆川)1月13日 http://www.akumu-tantei.com/
●おばちゃんチップス(森)1月27日 http://www.obachan-chips.com/
●華麗なる恋の舞台で(黒田)正月第2弾 http://www.alcine-terran.com/kareinaru/
●韓国アートフィルム・ショーケース(暉峻)1月下旬 http://www.kaf-s.com/
●キムチを売る女(西脇)1月下旬 http://www.kaf-s.com/
●恋人たちの失われた革命(森)1月2日 http://www.bitters.co.jp/kakumei/
●幸せのちから(横森)1月27日 http://www.sonypictures.jp/movies/thepursuitofhappyness/index.html
●シー・ノー・イーヴル 肉鉤のいけにえ(江戸木)1月6日 http://www.seenoevil.jp/
●刺青 堕ちた女郎蜘蛛(塩田)1月13日 http://www.artport.co.jp/movie/shisei/
●どろろ(大森)1月27日 http://www.dororo.jp/
●僕は妹に恋をする(増當)1月20日 http://www.bokuimo-themovie.com/
●モンスター・ハウス(えいwithフォーン)1月13日 
http://www.sonypictures.jp/movies/monsterhouse/index.html
●幽閉者・テロリスト(宇田川)正月第2弾 http://www.prisoner-m.com/
●ルワンダの涙 (江戸木)1月27日 http://www.r-namida.jp/index.html
○口裂け女(秋本)3月 http://www.kuchisake.com/
○シャーロットのおくりもの(安藤)12月23日 http://www.charlotte-movie.jp/site/index.php
○守護神(秋本)2月10日 http://www.movies.co.jp/guardian/
○墨攻(秋本)2月3日 http://www.bokkou.jp/
<○印は1月封切でないため集計の対象外です)

【総合】
1位『ディパーテッド』
2位『エレクション』
2位『それでもボクはやってない』
4位『グアンタナモ、僕達が見た真実』
4位『マリー・アントワネット』

◆◇◆執筆者プロフィール、近況、著作はHPに掲載◆◇◆
   http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest

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★秋本鉄次さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●世界最速のインディアン
  ●Gガール 破滅的な彼女
  ●DOA デッド・オア・アライブ
  ●さくらん

   「世界最速のインディアン」はアンソニー・ホプキンスのオヤジ魂がチャーミング
 な好編だ。狭心症でニトロを手放せなくとも、前立腺障害があろうと、イケイケの行動
 力が魅力のロードムービーでもある。ボクも今後60超えてもバリバリだぜ、と誓いた
 くなる。本来なら“裏”に回すはずの「G」や「DOA」をこっちに据えるあたりがボク
 のアイデンティティー(というほどのもんかよ)。やっぱ、こういう強いねえちゃん映
 画がいちばんヨロシなあ。エロくて強くてそびえ立つようなユマ・サーマンを見てると
 それだけでシアワセになれる。ああ、よじ登りたい、破壊的な彼女に! 空中ファック
 やベッドでガツンガツンやると壁を突き破るシーンが笑える。「DOA」もディボン青
 木なんか無視無視コロコロ、僕の狙いはパツキン2人(きっぱり)。特に美女泥棒のホ
 リー・バランスちゃんに思い切りたたきのめされてみたいニャ~。パチンコ台になりそ
 うな話だけどね。おねえちゃんついでに邦画も「さくらん」を入れた。色街ものを監督
 筆頭に女性チームが描くのが新鮮。この調子で「墨東奇譚」も「洲崎パラダイス」も
 「陽暉楼」も女性がリメークしてみては。夏木マリ、石橋蓮司の女将・楼主コンビがい
 かにもで適役だ。土屋アンナが主演のせいか「下妻物語」吉原版のような印象も。木村
 佳乃もバックで頑張ってた。菅野美穂も昔より色っぽくなった。これがホントの“官能”
 美穂、なんちゃって。座布団一枚取れっ!
 
 【裏ベスト】
  ●守護神
  ●口裂け女
  ●墨攻

  表ベストにしようかと思ったが、内容充実度では“G・DOA”ねえちゃん連合には負
 けるので、あえて裏にした。これで票も分散されてしまうのかね。まっいいか。「守護
 神」はアメリカ映画伝統のベテランからルーキーへの技と精神の伝達を正攻法で描いて
 良かった。酒場のケンカもちゃんとあるし。ケビン・コスナーもだんだん渋くなってき
 た。女優たちもシブく適材適所なのだが、ところで、アシュトン・カッチャー君と一緒
 に入隊したパツキン美女が卒業式にはいなかった。途中で落第したのか、気になって仕
 方がない。誰か教えて! 「口裂け女」は、この題材を最近の事象にちゃんと当てはめ
 てキッチリ作っていて好感が持てた。○○○○が○○○○になっちゃうし。「墨攻」は
 苦手なアンディ・ラウはドーでも良くて、ヒロインの美女剣士ファン・ビンビン嬢にビ
 ンビンきたので。いっそ“表”にして“G・DOA”連合軍に入隊させてもよかったかも。
 あ~、一緒にチャンバラしてえなあ。

 【封切は終わったけれど…】
  すでに12月23日封切りだから旧聞に属するかも知れないが、「酒井家のしあわせ」
 は家族の小さな不協和音を描いて、新人女性監督・呉美保さんの才気を感じる。絵にか
 いたような幸福でも、これでもかの不幸でもなく、その中間のさじ加減が絶妙だった。
 映画初出演の友近の関西圏の専業主婦ぶりが抜群にうまい。中2の少年が紆余曲折の末
 に早くも知る家族の機微、人生の痛み…。
  ところで「愛の流刑地」は賛否両論のようだが、僕は“寺島効果”で支持するけどね。
 あと「刺青 落ちた女郎蜘蛛」も予想以上に良かった。

★安藤智恵子さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●不都合な真実
  ●幸せのちから

  民主主義うんぬんと大風呂敷を広げて無益な戦争を始める人よりも、愛する息子の幸
 福を願って地球温暖化防止に奔走する人の方が、大統領としてよほど優れていたのに。
 ゴアをブッシュに負けさせたのはアメリカ建国以来の大失敗だった。それに追随するし
 か能がない美しい国の民は見た方がいい「不都合な真実」。ホームレスから百万長者に
 なった男の実話と聞いてフン、金さえあれば幸せなのかよ、と思いきや、本当のアメリ
 カン・ドリームを描いて(チャップリンの『キッド』みたいな場面も)感動的な「幸せ
 のちから」。“うまく立ち回って一攫千金”ではなく、“努力が報われる”ことが幸せなんだ。

 【裏ベスト】
  ●シャーロットのおくりもの
  ●フリーダムランド
  ●ラッキーナンバー7

  オープニングのアニメが美しく、ジュリア・ロバーツの(声の)演技に泣かされる
 『シャーロット~』。『フライトプラン』や『フォーガットン』みたいな子供失踪サス
 ペンス『フリーダム~』は、途中で真犯人がわかるし無駄なエピソードも多く、サスペ
 ンスとしてはかなりユルイと思うけど、サミュエル・L・ジャクソンがなんだか妙に魅
 力的で、映画全体が面白いような気になった(笑)。腰にバスタオルを巻いただけの
 ジョシュ・ハートネットに萌えてしまった『ラッキー~』では、ルーシー・リューが初
 めてかわいく見えた。

 【封切は終わったけれど…】
  『硫黄島からの手紙』を見て、90歳を過ぎた祖父が亡くなる前に戦地での体験談を
 ちゃんと聞いておこう、と思った。これと『父親たちの星条旗』を見て、それでも安倍
 政権を支持するという人は、お願いだからもう選挙に行かないでください。
  「もしも、桃井かおりが主婦だったら?」という映画『無花果の顔』。はじめは山田
 花子の標準語に違和感があったけど、いつの間にか気にならなくなって案外、楽しめま
 した。

★稲垣都々世さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ラッキーナンバー7
  ●それでもボクはやってない
  ●不都合な真実
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実

  「ラッキーナンバー7」は脚本のレトリックだけの映画だが、騙されっぱなしの快感
 と、底に流れるエモーションと、ジョシュ・ハートネットの眠そうな目にやられた。
 「それでも~」も「不都合な~」も「グアンタナモ~」も、〈よくわかる○○講座〉を
 娯楽にしてしまう手腕がすごい。特に、マイケル・ウィンターボトムは、いつもながら
 (良くも悪しくも)器用な人だ。

 【裏ベスト】
  ●ディパーテッド
  ●エレクション

  「ディパーテッド」は「インファナル・アフェア」と比べてはいけない。そう肝に銘
 じて見ると悪くない。スコセッシのやりたかったことが見えてくるし、その結果、
 ジャック・ニコルソンが前面に出てきたのもわかる。一番笑ったのはマーク・ウォール
 バーグだった。一方、「エレクション」は凄すぎて笑えない。痛いし、苦しいし、目を
 覆いたくなる。「ザ・ミッション/非情の掟」タイプの大ファンにとっては、ちょっと
 ハードすぎた。

★宇田川幸洋さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●エレクション

  香港の黒社会を、ここまでつっこんで、しかも適切な距離をおいて、決して英雄をつ
 くらずにえがくとは。この本気さは『2』を見ると、もっとはっきりするのだが、もち
 ろんこの1本だけで、ただならぬ充実したアクション映画の興奮に打ちのめされる。
 ジョニー・トー監督のいきおいはスゴイなあ。

 【裏ベスト】
  ●幽閉者 テロリスト

  あの足立正生が、日本映画界に復帰するとは。こんなに遠くまで行って、また元気に
 帰ってきた人もめずらしいのではないか。だが、日本にいるわれわれは、映画作家、足
 立正生が、あるときとても遠くの異界に行ってしまったと感じているが、おそらく、本
 人の意識とは、それはへだたりのある感じかたなんだろうなあ、ということを、3年ま
 えに出版された、インタビュー形式(聞き手=平沢剛)の自伝「映画/革命」(河出書
 房新社)を、この作品を見たあとに読んで、思った。いろんな意味で、そこにはおどろ
 くほどの一貫性があるのだった。この作品(ビデオ撮影、ビデオ映写)は、わりとうま
 く、きれいにまとめるくせができてしまったかに思える最近の日本映画のながれのまっ
 たく外にあって、うまさよりやりたいこと、思考を優先する威勢のよさが、きわめて刺
 戟的である。

 【封切は終わったけれど…】
   『プレスリーVSミイラ男』。先月号で、あげていた人も多かったが、渋谷シネセ
 ゾンに2日目(日曜)に見にいって、やっぱりおもしろかった。ドン・コスカレッリ監
 督、健在。『ファンタズム』('79)で20代前半でデビューしたころにくらべると、
 ちょっとオジサンぽくなったかなという気はするが(題材のせいか)でも、このバカバ
 カしさはうれしい。プレスリーが歩行器にたよって歩き、JFKが車椅子という、主役の
 老人ふたりのうごきにあわせたかのような映画自体のゆっくりしたペースも、アメリカ
 映画にはめずらしい。これは2002年の作品で、最後に「次回作は『プレスリーVSノ
 スフェラトゥ』。乞うご期待!」みたいなことが書いてあったが、できたのだろうか。
 冗談かも知れないが、できてたら、それも見たいなあ。

★内海陽子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●華麗なる恋の舞台で
  ●ラッキーナンバー7

  痴漢の疑いをかけられたときには周囲の善意や理解力をあてにしてはいけない、
 しょっぱなから頭をつかえと警告するスリラー『それでもボクはやってない』。演技に
 生きる者は恋に溺れてはならない、新人女優に情けは禁物、全身全霊でトリックをしか
 けろと言い放つサスペンス『華麗なる恋の舞台で』。殺人は手間ひまかけてスマート
 に、さらには人情を忘れずにとウィンクするアクション『ラッキーナンバー7』。どれ
 も上出来の戦争映画のようだ。

 【裏ベスト】
 ●不都合な真実

  わたしがアメリカ人だったらかつての大統領候補ゴアに一票を投じたに違いない。温
 暖化による地球の危機について諄諄と説くその声、話し方、身振り、手振りは内容への
 疑問を抱かせない。演説のプロとはこういうものかと納得。いまはただ示されたデータ
 が偏っていないことを祈る。

★浦崎浩實さん(激評家/映画評・劇評)―――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●華麗なる恋の舞台で
  ●エレクション
  ●ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド
  ●魂萌え!

  実は11、12月は私用、雑用、多用に振り回され、東京を留守にしていたことも響い
 て、ろくに映画・芝居を観ていない。上記4作に数作加えたのが、1月公開分を見たす
 べて。申し訳なし。「華麗なる~」は主演女優が小まいし、大詰めの舞台での意趣返し
 がわざとらしく惜しいが、まずは楽しい映画。「魂萌え!」は三田佳子に!


 【裏ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実
  ●ディパーテッド

  実は、これ、裏ではなく、本誌〆切後に12月中に間違いなく見る期待大の、私の周
 囲でも大評判・中評判作品。ベストで上げられない罪滅ぼしに“裏”にした次第。

 【封切は終わったけれど…】
  実は、師走恒例の文化・記録映画のまとめ試写(キネマ旬報ベストテンと毎日映画コ
 ンクール)で素晴らしい作品を観た。「今、有明海は… 消えゆく漁労習俗の記録」
 (イワプロ)、「広がれアサザの夢‐百年後にトキが舞う霞ヶ浦を」(群像社など)、
 「五重塔はなぜ倒れないか」(日映企画)。私は海や墓地(ヴァレリーをなぞったわけ
 ではないです)が画面に出ると、それだけで感激してしまうのだが、「今、有明海は」
 はほぼ全篇、海の上の撮影で有明海の漁労文化に圧倒された。たかだか水草のアサザが
 霞ヶ浦を破滅から救う「広がれ~」の感銘。両作とも、画質がクラシック(?)でクリ
 アすぎないところもテーマに奥ゆかしさを添えている。自信を持ってご鑑賞を勧めます。
 一般公開されるかどうか。

★えいwithフォーンさん(シネマブロガーズ)―――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ディパーテッド

 ──これって香港映画のリメイクでしょ? 初参加でそんなのをベストに選んじゃって
 いいの? 
 「いいのいいの。100分そこそこのオリジナルを150分もの超大作に仕上げ、しかも一
 瞬たりとも飽きさせずに最後まで見せきるなんて芸当は、そんじょそこらの監督には無
 理。さすが御大マーティン・スコセッシだ。rambler(ブログ「USAのんびり亭」)さ
 んの言葉を借りれば、『すでにきちんとした設計図(脚本)ができているため、その上
 に安心して力のあるスタッフ&役者たちを乗せて存分に個性を引き出すことに集中でき
 る』というわけだ」
 ──いわゆるリメイクでも熟練監督の手にかかれば、こういう傑作も生まれると言うい
 い見本ってわけだね。

 【裏ベスト】
  ●モンスター・ハウス

 ──この冬はアニメが多いよね。少し飽き飽きしない? 
 「まあ、そう言わないって。一見、同じようなフルCGアニメに見えても、新たなシス
 テムの導入によって、それぞれがその世界にあった作風を生み出しているんだ。この映
 画の場合、キャラの質感はクレイアニメ風。しかもストップモーション・アニメーショ
 ンのような動きを見せるんだから、ノスタルジックな感慨も誘ってくれる。中身は、タ
 イトルどおり人を飲み込むお化け屋敷のお話。でもその奥には残酷なまでの愛の物語が
 横たわっている。大人が観ても十分に楽しめると思うよ」

 【封切は終わったけれど…】
  『リトル・ミス・サンシャイン』。
 ──あれっ。『硫黄島からの手紙』じゃニャいの?
 「あれは別格。あえてぼくが入れる必要もないし…。この映画『リトル・ミス・サン
 シャイン』はロードムービーの醍醐味が凝縮。6人の家族が乗るミニバスもまるで意志
 を持っているかのよう。7人目の家族として、涙が出るほど笑わせてくれる。主演女優
 のアビゲイル・ブレスリンいわく『映画のテーマは、不完全な家族だって完璧な家族と
 同じくらい愛し合えるってことなのよ』」
 ──まだわずか6歳なのにそこまで言えちゃうんだ。監督もこれなら演出しやすいよね。

★江戸木純さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)エレクション
  ●2位)ラッキーナンバー7
  ●3位)幸せのちから

  1位)ジョニー・トーの風格漂う横綱相撲的演出と芸達者な香港演技陣の濃厚な芝居
 を堪能する銃撃戦皆無の現代香港版「仁義なき戦い」。黒社会のルーツが焼き討ちに
 あった少林寺の僧だったという歴史とうんちくも面白い。2位)は意外な拾い物。練り
 に練られた抜群の脚本と魅力的な演技派オールスター・キャストの豪華競演、そしてバ
 ランスの取れた大人の演出で楽しませる傑作犯罪サスペンス。3位)はウィル・スミス
 が実の息子と演じるアメリカン・ドリーム。イタリア注目の新鋭監督の抜擢が見事成功
 し、ハリウッド臭さのほとんどないネオリアリズモの伝統を感じさせる佳作に仕上がった。

 【裏ベスト】
  ●1位)ディパーテッド
  ●2位)ルワンダの涙
  ●3位)シー・ノー・イーブル 肉鉤のいけにえ

  1位)はアメリカが舞台だとどうしても物語に説得力がなくなってしまうなど難点も
 多々あるものの、スコセッシのパワフルな演出とディカプリオの熱演は十分見る価値あ
 り。2位)は、「ホテル・ルワンダ」より出来はだいぶ緩いのだが、物語そのものに救
 いがない分、涙腺刺激度はこちらの方がかなり上。ジョン・ハートが久々に見せる力の
 こもった芝居は必見。3位)は、ハードコアの鬼才が、WWEのヒール“ケイン”を主役
 に撮った残虐ホラー。ホラー映画としての出来は決して良くないが、ケインの豪快バカ
 ・キャラは面白い。シリーズ化して育てるべき逸材。

 【封切は終わったけれど…】
  『最凶女装計画』。今アメリカで最もバカな映画を撮るウェイアンズ兄弟のしょうも
 ないギャグが炸裂する全米大ヒットの劇場未公開作。1年以上も前に発売されていたが
 見逃していた。ようやく見たらこれが爆笑、爆笑の痛快作。お話はドジな黒人刑事コン
 ビが、白人セレブ姉妹誘拐犯を捕らえるべく姉妹に変装するドタバタ・ナンセンス。こ
 の陽気なバカぶりは『ジャッカス』系のいじめっ子不良白人による病的な笑いより断然
 上だと思う。

★大森さわこさん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ディパーテッド

  ご存知、「インファナル・アフェア」のアメリカ版。オリジナルのファンには、今ひ
 とつの評判ですが、私はエンタテインメントとして楽しめました。
  主演のマット・デイモンとレオナルド・ディカプリオは、どこか雰囲気が似ていて、
 まるでネガとポジのような関係(わざと似た服で出てくる場面もあり)。ふたりは同じ
 女性も愛し、どこか神話的?(ケインとアベル?)。
  でも、ボス役、ニコルソンのひとり舞台かもしれませんね、結局は。
  音楽は全体的に地味ですが、R・ストーンズの「ギミー・シェルター」の登場など、
 やっぱり、ロックファンのスコセッシらしい気もします。

 【裏ベスト】
  ●どろろ

  「害虫」、「カナリア」、「どろろ」と見ていくと、塩田明彦監督は、“心は孤児”の
 迷子たちにこだわっているのかも、と思いました。親に対して複雑な思いを抱く若い男
 女が、失った過去と向き合うための旅に出る。この新作の設定、よく考えると「カナリ
 ア」に似ていますね。
  前の2作は特に好きではありませんが、こういう流れで見ると、新作での親子の葛藤
 が興味深く思えます。
 
 【封切は終わったけれど…】
  『犬神家の一族』。オーソドックスな構成の<昭和のミステリー>に妙に心がなごみ
 ます。何年か前に、市川崑監督に取材した時、色紙にサインをいただきました。そこに
 は「光と影」と書かれています。
  そして、「犬神家」のプレスに、監督のこんなコメントがあります――「映画は所
 詮、光と影だと思います。光と影がドラマなのです。その光と影は、尽き果てることの
 ない永遠のものだと思います」。光と影。改めて美しい言葉だな、と思いました。

★加藤久徳さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●幸せのちから
  ●幸福な食卓
  ●不都合な真実

  眉目秀麗な日本人一家の家庭再生を心地良く描いた『幸福な食卓』に、ウットリと身
 を浸す一方で、人生の垢を全身に滲ませた黒人一家の恥部を露骨に描いた『幸せのちか
 ら』に嫌というほど翻弄させられた。ウィル・スミス主演の『幸せのちから』は“事実
 をもとにした立身出世物”なのだが、人には言えない、言うべきでない恥ずかしい部分
 を前面に掲げている分、“暴露”に近い。文章では書けても、はて、ここまで映像にして
 もいいのかね?
  試写室では「感動した!」と絶賛する知人もいたが、本当に貧しさというものを経験
 した人から見れば、本気で褒められる代物なのだろうか。フィクションとして描くなら、
 殺人や詐欺、恐喝をやってもかまわないが、なにしろマジなトゥルー・ストーリー。惨
 めすぎる。『飢餓海峡』や『チャップリンの黄金狂時代』が好きな僕も辛かった。
  『不都合な真実』は、地球に生きるものとして、観るのが責務のような必見作。地球
 温暖化に関心があるないは別にして、皆で観て考えるにはうってつけの環境PR映画の
 逸品だ。とはいえ、男っぷりのいいアル・ゴア元合衆国副大統領のスポークスマンぶり
 が、説教臭い作品を飽きさせない。キャラの魅力はこんなところでも発揮されるものな
 のだろう。

 【裏ベスト】
  ●サバイバル・ビーチ

  裏ベストの『サバイバル・ビーチ』は、監督の山田広野が何者であるかを知っていれ
 ば、腹は立たない。逆に言えば、何も知らない人にはお薦め出来ないということだ。
 いずれにしろ、広野流無声映画を山ほど作ってきた御仁。上手になったもんだと感心し
 たね。

★河原晶子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●善き人のためのソナタ
 【準ベストとして】
  ●マリー・アントワネット
  ●ディパーテッド
  ●魂萌え!

  「善き人のためのソナタ」。東ドイツ全体主義の恐怖は、現在も何処かの国々で続い
 ているようです。監視する役人と監視される芸術家という2人の人間のドラマが圧倒的
 に胸に迫ります。ラストが秀逸! こういう映画のためにこそ、涙があるのです。
  「マリー・アントワネット」のポップなキャンディ・カラーの世界に漂う静かなペシ
 ミズムに心魅かれました。「ディパーテッド」のディカプリオ&デイモンは、オリジナ
 ル版「インファナル・アフェア」のトニー・レオン&アンディー・ラウの40代の男の
 色香に及びません。「魂萌え!」で59才の主婦の魂(からだ)の中に籠ってみた阪本
 監督の心の揺れを男性たちがどう感じるのか興味があります。

 【裏ベスト】
  ●ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド

  甘美で毒気を放つカルト映画が久々に登場! 美形の結合体双生児のロック・ミュー
 ジシャンにセックス・ピストルズのジョニー・ロットン&シド・ヴィシャス、それに
 ミック&キースやジョン&ポールが重なります。映画監督彼自身としてケン・ラッセル
 の姿も……。

★黒田邦雄さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●マリー・アントワネット

  その昔、気絶するほど悩ましいって歌があったけど、この少女王国は私のようなオジ
 サンにとってまさにそれでした。私の世代では、「あんみつ姫」ですもんね。セレブの
 家庭で伸び伸び育ったであろうソフィア・コッポラの(はすっぱ)お嬢さまセンスが、
 最大にいかされています。この映画を観たあとでは、「下妻物語」も「嫌われ松子の一
 生」もビンボー臭くて…。

 【裏ベスト】
  ●華麗なる恋の舞台で

  アネット・ベニング演じる大女優は、息子ほども歳の離れたイケメンと恋に落ち、捨
 てられる。青年の新しいお相手は、自分の座を狙っている新進女優。「イヴの総て」に
 通じるバック・ステージものだが、大女優の一発逆転必殺技がスゴイ! 新進女優を演
 じるジュリエット・スティーヴンソンは、いまもっとも注目されているイギリスの舞台
 女優。ベニングも力が入るはずだ。

 【封切は終わったけれど…】
  「007/カジノ・ロワイヤル」。フランシス・ベイコンの恋人を演じた時から注目し
 ていたダニエル・グレイグが、まさかボンド役に抜擢されるとは。結果は…、ショー
 ン・コネリー以来の適役じゃないですか。何よりイギリスの匂いがするのがいい。タフ
 だけでなくおぼこい感じもあって、ジュディ・デンチのMが夢中になるのも無理はな
 い。この映画のボンドガールはデンチでは?

★佐々木淳さん(エディター&ライター)――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●どろろ

  もともとファンの多い未完の原作、アニメがあるゆえ、どうアレンジしたって否定的な
 声が聞こえてくるとは分かっている…とばかりに、大胆に“どろろ”の設定を大人に変えた
 のは悪くなかった。声のない百鬼丸とどろろの会話をどう描くのか、と思っていたら、セ
 リフはそのままに、“静”の百鬼丸と“動”のどろろの鮮やかな対比で<絵>としての対話を
 も成立させて、それが映画の心地良い緊張感につながっていたからだ。その意味では役者
 2人=妻夫木と柴咲の生のドキュメントのような面白みもある。原作の世界観と比較し
 て、もっとこうなっていたら? という欲もなくはないけれど、2時間18分は短いと感
 じた。

 【裏ベスト】
  ●エレクション

  ジョニー・トウならもっとやってくれるはず、と思った人も少なくないだろう。それほ
 ど、この監督にかける期待は大きい。正直、『ザ・ミッション』や『PTU』なんかに比べ
 ると、この1作目のインパクトはやや小さい。おとなしい(でも、この抑制の効き具合も
 また不気味でイイんだけど)。それでも「裏」でベストにしてしまうのは、『エレクショ
 ン2』を観てしまったからであって、「2」を観ると、この導入篇「1」の“抑制の意図
 するところ”が分かるのだ。じゃあDVDでいいかと言われるとまた違うような気がする。
 スクリーンという同じフレーム、同じテンションで見てこそ、来るべき「2」が倍面白く
 なる、と思うのだが。大傑作「2」への先行投資と思って是非!

★塩田時敏さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●愛の流刑地
  ●悪夢探偵
  ●エレクション
  ●キムチを売る女

  「愛の流刑地」は、まさに逆・阿部定、もう一つの「愛のコリーダ」と言っていい作
 品だった。他のTV出身の監督と違って、鶴橋康夫監督は本気である。寺島しのぶも豊
 川悦司もいい。
  「悪夢探偵」はいつになくメジャー仕様の塚本晋也監督映画だが、テイストはまんま
 「鉄男」で、安心するやら、のけぞるやら、嬉しいやら。眠い眠いとhitomiの身もだえ
 表情がエロカワだぜ。

 【裏ベスト】
  ●幸福な食卓
  ●刺青 堕ちた女郎蜘蛛
  ●サバイバル・ビーチ
  ●それでもボクはやってない

  超久々の登場となる周防正行監督の「それでもボクはやってない」は、なるほど面白
 い作品だ。2時間半を一気に観せきる裁判劇。しかし、やはり裁判劇。才人・周防とい
 えども、結局会話の劇に収斂せざるを得ないのか。惜しい。判決ふうに言いわたすな
 ら、この映画“有罪!! 執行猶予2年!!”。期限内に必ず次回作に着手すべし、だ。山田
 広野の「サバイバル・ビーチ」。くっだらねぇ(笑)。これがホントの裏ベスト、観る
 べし。

★品田雄吉さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●魂萌え!
  ●エレクション
  ●ディパーテッド

  「それでもボクはやってない」を見て、電車などを利用する日本の男性はほんとうに
 たいへんだと痛感させられました。濡れ衣でもほとんど無罪にならないというのですか
 ら。周防監督の映画は楽しいと思い込んでいた私にとって、この映画は周防監督の素顔
 を見たような気がしました。「魂萌え!」は中年女性の心理的彷徨感といったものに打
 たれました。風吹ジュン、三田佳子がともに甲乙つけがたいほどいい。三田の福島弁に
 感心し、たまたま彼女に会ったので、福島弁がよかった! と言ったら、あれは私のア
 イデアで、阪本監督に進言して福島弁にしたのよ、と語っていました。「エレクショ
 ン」は正統香港ノワールと言いたいテーストがいい。「ディパーテッド」は悪くない豪
 華な刑事アクションでしたが、オリジナルのような雰囲気と味わいはありませんでした。

 【裏ベスト】
  ●愛の流刑地
  ●マリー・アントワネット

  「愛の流刑地」はドラマとしては感心しませんでしたが、寺島しのぶの生き生きとし
 た性的魅力がいいと思いました。寺島が出ていないこの映画を想像すれば、よくわかる
 でしょう。長谷川京子がひどかった。「マリー・アントワネット」は、豪華絢爛の少女
 コミックみたい。こんなにお金をかけられるなんて、ソフィア・コッポラにとっていい
 のだろうか?

 【封切は終わったけれど…】
  「硫黄島の手紙」はクリント・イーストウッドの誠実さに感動しました。単に戦争映
 画としてでなく、ドラマとして第一級の到達を見せた作品です。渡辺謙はきっちり、こ
 の作品を支えています。
  「鉄コン筋クリート」が素晴らしかったです。精密で力に溢れる作画、加えて溢れか
 える暴力性。やくざと警察が同じに見えるなんていうのも鋭い。うれしい収穫でした。

★高崎俊夫さん(編集者)――――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●恋人たちの失われた革命
  ●それでもボクはやってない

  フィリップ・ガレルには『キネ旬』でインタビューをしましたが、同じパリの五月革
 命を撮ったベルトルッチの『ドリーマーズ』を徹底しておちょくっていたのが可笑し
 かった。紙面の都合で、そのあたりを詳しく紹介できなかったのが残念。いっぽうで、
 自殺した友人ジャン・ユスターシュや師匠であるゴダールには未だに複雑なコンプレッ
 クスを抱いていることがひしひしと伝わってきました。『恋人たち――』は『ママと娼
 婦』と『中国女』の呪縛の記憶から逃れようとして産み落とされた映画のように思えます。

 【裏ベスト】
  ●エレクション

  東京フェルメックスで『エレクション2』を見て、さらなる興奮を覚えました。単な
 る続篇ではなく、まったく新たな地平に突き抜けてしまったところが凄いと思います。
 ジョニー・トーは、ざわざわするような暴力描写だけでなく、ぬきさしならない宿命観
 を背負った者たちの悲劇を悠揚迫らぬトーンで描ける稀有な才能の持ち主ではないかと
 思います。スコセッシの『ディパーテッド』は未見ですが、この二部作もハリウッドで
 リメイクされたりして。

 【封切は終わったけれど…】
  今出ている文春の「TITLE」のDVD特集で「小林信彦が選ぶワンコイン(500円)
 DVD」というテーマでインタビューをしました。低価格でも馬鹿にできない珍品が沢
 山出ているのです。小林さんが選んだ中でプレストン・スタージェスの『モーガンズ・
 クリークの奇跡』は私もお薦め。田舎町で陽気な娘ベティ・ハットンが泥酔して何人も
 の兵士と寝てしまい、父親知らずの妊娠騒動が起こって、大混乱のうちにトンデモナイ
 結末へ――。こんな不謹慎でアモラルな爆笑喜劇を戦時下で作ってしまったスタージェ
 スは本当にエライ!

★高橋諭治さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●エレクション
  ●ディパーテッド

  今月は迷わず、香港&ハリウッドのバイオレントな裏社会もの2作品! いや正直、
 いろいろ欠点も多い『ディパーテッド』は“裏”に回そうかと一瞬思ったが、緻密な『イ
 ンファナル・アフェア』とはまったく異質のこの映画の荒々しさに、どうしようもなく
 胸がざわめいてしまいました。『エレクション』はなかなか人物関係が掴めず困った
 が、そもそも善悪も敵味方も曖昧な群像ドラマなのでむべなるかな。「リアリズムに徹
 した」と言いつつ、映像的にも精神的にもジョニー・トー監督らしい“美学”炸裂の一作
 で、異様な殺気みなぎる傑作でした。

 【裏ベスト】
  ●幸福な食卓
  ●ラッキーナンバー7
  ●フリーダムランド
  ●ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド

  『フリーダムランド』は宣伝的にサスペンス売りされているようですが、実はかなり
 ヘヴィーな社会派人間ドラマ。ジュリアン・ムーアの何かに憑かれたような熱演に
 (少々うんざりしつつも)引き込まれ、その先に浮かび上がってくる暗く重い真実に心
 動かされる。『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』は、賛否分かれそうなフェイク・ド
 キュメンタリーの手法が筆者には吉と出た。グラムとパンクの端境期に刹那的な光を
 放った結合性双生児の“はかなさ”が、うまく醸し出されていたと思います。『幸福な食
 卓』は、ラストに延々と流れるミスチルがなければ“表”入りしたのに。いや、ミスチル
 の曲自体に罪はないんですが。

 【封切は終わったけれど…】
  東京フィルメックスで上映された『エレクション2』。これまた痺れる傑作。しかし
 『1』が今月公開されるのに、続編は配給未定とか。2本まとめて買い付けると高いん
 ですかね。『1』の勝ち残り組のその後の非情な運命が描かれ、現代の香港マフィアと
 中国本土の経済との繋がりにも切り込んだ野心作。「海賊版DVDの販売網を生かして、
 中国全土で物流事業を進める」なんて中国当局がギョッとしそうなキワどいセリフも飛
 び出す。いずれDVDなどで観られる機会があればぜひ!

★高村英次さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●なし

  挙げようと思っていた『墨攻』が2月公開になったので、試写で観れた1月公開作品
 はなし。

 【裏ベスト】
  ●ディパーテッド

  『インファナル・アフェア』のリメイクの本作、オリジナル同様に素早い場面展開&
 平行描写を採用していて、はっきり言って判りづらい。主演のデイモンとディカプリオ
 が似ている点も難解さに拍車をかけている。BGMのガナるロックも耳障り。ひたすら
 スケール感で勝負しているようなイメージ。巨匠スコセッシの落日を確認したいファン
 は是非。

 【封切は終わったけれど…】
  ヒッチコックの作品の中で一番好きな、我が親愛なるスリラー『ファミリー・プロッ
 ト』を購入し、何年ぶりかで視聴。俳優陣は地味、スクリーン・プロセスはややアナク
 ロ、見せ場も薄い、と公開当時さんざん叩かれたけれども、観れば観るほど面白いし、
 巧い! そしてなによりチャーミング! 登場人物に血が通っている、ヒッチ作品で極
 めて稀な1本である。メイキングで主演のひとり、ブルース・ダーンが「映画のラスト
 でバーバラ・ハリスがウィンクした後に、カメラをセットの袖にパンさせて《監督が
 ウィンクする》ってのはどうでしょう?」とヒッチコックに進言したというエピソード
 が面白い。監督じっと考えて「ノー」と却下。「でもソレをやったら、もっと遺作に相
 応しかったかも」とダーン。大監督の遺作は名作ならず、が常識だが、『ファミリー・
 プロット』はその数少ない例外だ。

★田中千世子さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない

  日本の裁判制度はこれでいいのか! こうしてはいられない。という気持にさせる優
 れた硬派映画だ。周防監督推薦図書―「刑事裁判の心」を読むと一層映画の作り方の緻
 密さに感心する。

 【裏ベスト】
  ●愛の流刑地

  寺島しのぶがとてもいい。この女優の情念の迸りは、すぐれて映画的だと思う。溝口
 健二や成瀬巳喜男の映画に似合う女優だ。

 【封切は終わったけれど…】
  12月公開の『硫黄島からの手紙』と『ライアンを探せ!』

★暉峻創三さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●エレクション
  ●キムチを売る女
  ●恋人たちの失われた革命
  ●マジシャンズ

  邦題、英題とは裏腹に中国語題を「黒社会」という『エレクション』は、集団を主題
 に物語を語っていくジョニー・トー的説話術の妙がさらに研ぎ澄まされて開花。これに
 続いて撮られた陰惨を極める『エレクション2』の日本公開も望む。

 【裏ベスト】
  ●韓国アートフィルム・ショーケース

  少々規則外のノミネートで恐縮ですが、上記『キムチを売る女』を皮切りに始まるシ
 リーズ上映<韓国アートフィルム・ショーケース>に要注目。KOFIC(韓国映画振興
 委員会)が自ら日本に乗り込んで直接配給するこの企画は、続いて登場する『不機嫌な
 男たち』『許されざるもの』『映画館の恋』もあわせ、まるで日本の韓流紹介の偏りを
 告発するかのような凄みに溢れている。

★永野寿彦さん(シネマ・イラストライター)―――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●幸せのちから

  『それボク』はやっぱすごかった。今までの作品とはひと味違う、力技と男気に溢れ
 る硬派な社会派映画。とはいえ、専門用語を一切説明しないにもかかわらず、”ニッポ
 ンの裁判制度”に翻弄される加瀬亮演じる主人公と一緒に裁判へと観る者を引き込んで
 いくうまさは、さすが周防監督。”主人公巻き込まれ体験型”という意味では、しっかり
 周防映画なところもファンにはうれしい。『幸せのちから』のW・スミス親子の、ドン
 底体験型ドラマとリアル演技にも感動させられました。

 【裏ベスト】
  ●エレクション

  またまたやってくれたぜジョニー・トー。ヤバイくらいに全編緊張感でピリピリして
 いる映画。特に、何をやらかすか分からないレオン・カーファイのキレっぷりは凄すぎ
 る。その緊張感がショッキングに途切れる瞬間も必見です。噂名高き『2』にも期待を
 込めて!

 【封切りは終わったけれど】
  ボンドそのものには程遠いが、ボンドになるために必死に奮闘するダニエル・クレイ 
 グという意味で大納得の『007/カジノ・ロワイヤル』。のっけの”ヤマカシ”追撃戦か
 ら炸裂しまくりの肉弾アクションはもちろん、カジノ勝負中のケガをしながらもそれに
 冷静に対応するさりげない姿など、ボンドという人物によりそった描写でプロのエー
 ジェントっぷりを魅せてくれる快作です。燃えます!

★西脇英夫さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)ディパーテッド
  ●2位)恋人たちの失われた革命
  ●3位)輝く夜明けに向かって

  1位)は、香港映画を巧みにハリウッド映画にリメイクしたフィルムノアールの成功
 作。中味は同じなのに、全く別の作品に観えるところが面白い。とにかく俳優のアレン
 ジがいい。2位)は、日本のその時にも通じる、60年代後半から70年代にかけての学
 生運動の様子と、その後の挫折を描いてなんとも懐かしい。3時間が夢のように過ぎて
 いく。フランス映画ならではのアンニュイな雰囲気がいい。3位)は、南アのアパルト
 ヘイトへの黒人たちの抵抗の姿をとらえ、こちらは2位)とは真逆の、熱い革命を生々
 しく描いている。俳優たちの演技が凄い。

 【裏ベスト】
  ●1位)グアンタナモ、僕達が見た真実
  ●2位)キムチを売る女
  ●3位)それでもボクはやってない

  1位)は、表ベストにも入れたい力作。アフガン紛争におけるアメリカの強引にし
 て、無謀なやり方がいやというほどわかる。映画だからこその描写が胸に迫ってくる。
 2位)は、韓国映画の水準の高さを示すアートフルな作品。なんとも表現しようのな
 い、けだるくて攻撃的な日常描写が心を刺激する。とにかくいとおしい映画だ。3位)
 は、待っていただけに期待も大きかった。語り口が巧く、期待が裏切られることはな
 かったが、物語に発展性がなく、観終って、「だから何なの」と問いかけたくなる
 問題作。

★野村正昭さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ディパーテッド
  ●マイ・シネマトグラファー
  ●幸福な食卓

  香港映画「インファナル・アフェア」三部作に、あんまりのれなかった観客としては
 (IIは面白かったです)、スコセッシ流リメイクで、ようやく物語の流れが把握できた
 ようです。今さら何だよってなものでしょうが。ところで普通に想像すれば、ジャッ
 ク・ニコルスンの役はロバート・デ・ニーロが、マーティン・シーンの役はハーヴェ
 イ・カイテルが演じるのが従来のスコセッシ映画なんでしょうが、そこを意図的にずら
 したあたりが今回のポイント!? 二人ともスコセッシ映画初出演だというし。ディカプ
 リオとマット・デイモン、ふたりの映画スターとしての華のなさを効果的に使っている
 ところも面白い。ふたりとも案外よく似てるし。思えば最近のスコセッシ作品が魅力的
 でなかったのは、出演者たちがパッとしなかった(「ギャング・オブ・ニューヨーク」
 なんか無惨だったし)せいだというのが、よく分かったし、そうした弱点をリメイクの
 枠の中で、ひねり倒しているところに感心しました。「マイ・シネマトグラファー」は
 「夜の大捜査線」「アメリカン・グラフィティ」の名カメラマン、ハスケル・ウェクス
 ラーを息子が捉えたドキュメンタリーですが、途中から親父が我慢できなくなり、あれ
 これ演出の指図をはじめるのが爆笑モノ。反体制ひとすじの父親に反抗して、息子が体
 制べったりになってしまうのも笑える。何しろ大統領と一緒にエアフォース・ワンに
 乗って記念写真を撮ってしまうのを自慢する件りは、いやはや何とも。「幸福な食卓」
 は「幸福のスイッチ」「酒井家のしあわせ」と題名を書いていくだけでも脱力してくる
 ような作品群と似たような題名なので全然期待していなかったが、意外な拾い物でした。

 【裏ベスト】
  ●マリー・アントワネット
  ●ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実

  「マリー・アントワネット」は、バカ娘を甘やかし放題にして湯水のように贅沢な製
 作費を使わせてしまったコッポラ・ファミリーの集大成的作品ではないかと考えて。あ
 らゆる意味で中途半端なキルスティン・ダンストのヒロインといい、象徴的な映画です
 なあ。某国映画祭でブーイングの嵐だったというのも当然の報いでしょう。「ブラザー
 ズ・オブ・ザ・ヘッド」は、冒頭に一瞬出てくるケン・ラッセル監督が懐かしくて。そ
 ろそろ80才に近いと聞いてビックリしましたが、お元気そうで何より。「グアンタナ
 モ 僕達が見た真実」は、題材の強さに加えて、ウィンターボトム作品では珍しく、こ
 ちらの心の琴線にふれる仕上がりになっていた。共同監督のせいなのかなあ。

★増當竜也さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●どろろ

  正直観る前は不安でしたが、原作とは異なる舞台設定が映画独自の世界観としてきち
 んと機能し、見せ場もふんだんで、CGも許容範囲の出来。2時間20分弱を駆け抜ける
 快作でした。ツマブキ君の百鬼丸はなかなかかっこよく、また父親役の中井貴一が貫禄
 の好演。

 【裏ベスト】
  ●僕は妹に恋をする

  近親相姦というドロドロした要素は一切ない代わりに、決して許されない愛の顛末と
 いう少女漫画原作ならではの要素を、キャラの感情表現で繊細に追ったあたりが好感持
 てました。個人的に大ファンの小松彩夏ちゃんがライバル役を健気に演じていて、実に
 素晴らしく、可愛い。彼女を観るだけでも必見。表ベストのほうに入れてもよかったかな。

 【封切は終わったけれど…】
  ギリギリ封切り最終日に観た『トゥモロー・ワールド』には打ちのめされました。
 SFというよりもほとんど現代社会の世相批判映画として見事に屹立.。赤ん坊の泣き声
 だけで戦闘を止めることのできる奇跡に、作り手の未来への意志を感じました。

★まつかわゆまさん(シネマアナリスト)―――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●ディパーテッド
  ●華麗なる恋の舞台で
  ●エレクション
  ●それでもボクはやってない
  ●ルワンダの涙

  香港映画では役者もお客さんも"正義"や"モラル"の恣意性を楽しんでしまうからス
 ターは悪役と善玉どちらも演じるものと思われている。その前提でなりたったオリジナ
 ルを"正義"と"モラル"の国アメリカでリメイクするとき、やはりネックは"スター"だっ
 た。『ディパーテッド』のレオは善玉~というにおいが消せず、あれじゃすぐばれるっ
 て。でも、アイリッシュ・ギャングとアイリッシュの多い警官が拮抗する町としてボス
 トンを選び、アメリカ映画らしい読み替えをしたのは面白い。ニューヨークを離れたス
 コセッシもいいもんだね。
  『それでも僕はやってない』は傑作でした。社会派映画ですよ。とても親しみやすい
 ハウツウ裁判映画、と見せて、実はすごいことを言い切った。
 「裁判で無罪を出すということは国家権力に反抗するということ」「裁判が救ってくれ
 るなんて思ってはいけない」
 ということは、政府の主導で作り国民をしばったり一定の方向に向けようとする法律は
 裁判で争っても絶対負けることになっているのだから、そういう法律はできる前に作ら
 せないようにモノ申していかないといけない。と言いたいんだね。これは、すごい。
 『ルワンダの涙』もタブーを言い切った映画で、えらいっと思った。BBCの白人の女
 性記者が言う
 「ボスニアで白人女性の死体を見ると"これが私の母だったら"と涙が出るの。でもここ
 ルワンダでどんな死体を見てもそれはただのアフリカ人の死体なのよ」
 よくぞ書いた、と思う。

 【裏ベスト】
  ●不都合な真実
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実
  ●マイ・シネマトグラファー

  ドキュメンタリー尽くしで。アフガン攻撃からイラク戦争へと泥沼化するブッシュの
 対テロ戦争と、ブッシュの京都議定書無視による地球温暖化促進にNOと突きつける二
 本。中間選挙の応援にはなったので、次は大統領選にむけて何かぶちかましてほしいも
 の。名カメラマン、ハスケル・ウェクスラーを息子が撮ったドキュメンタリーはなんか
 共感することが多くて泣けました。個人的に。でも、息子のへたれ具合を見て思ったの
 は「よかった、親と同じ映画監督にならなくて」でした。

 【封切は終わったけれど…】
  封切りが終わったではないけれど、「あなたにならいえる秘密のこと」「フリーダム
 ランド」「マリー・アントワネット」も面白かったです。

★松島利行さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●恋人たちの失われた革命
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実
  ●輝く夜明けに向かって
  ●それでもボクはやってない
  ●幽閉者 テロリスト

  足立正生の『幽閉者』は、わかりやすく言えば岡本公三を田口トモロヲが演じたもの
 だが、春先に公開予定のパレスチナ映画『パラダイス・ナウ』が同じくカミカゼ・ボ
 マーを描いていてもどこかメロドラマになっているのに比べて、足立作品には熱い思い
 が溢れて直截である。そこがいい。M.ウィンターボトム共同監督の『グアンタナモ』
 も迷わず反米に徹している。両作品ともなおかつサスペンスフルで面白い。

 【裏ベスト】
  ●ディパーテッド
  ●エレクション
  ●サバイバル・ビーチ

  『サバイバル・ビーチ』の山田広野は意外に真面目な青年のようだ。女性にウブなの
 だろうか。純情な異色作。ジョニー・トウの『エレクション』は勃起ではなく選挙だっ
 た。M.スコセッシの『ディパーテッド』もそれに見まがう強烈なヤクザ映画だが、人
 種問題で保守的なボストンを浮かび上がらせて、黄色人種の松坂投手のレッドソックス
 入団を牽制しているようにも思えた。

 【封切は終わったけれど…】
  『グアンタナモ』同様に06年2月のベルリン映画祭で見たイラン映画『オフサイ
 ド』は、実にチャーミング。フィルメックス映画祭で上映。ドイツでのW杯サッカー出
 場を目指すイランチームを応援したいテヘラン娘たちは男装してスタジアムに向かう
 が、警備の兵隊に次々と拘束される。日本チームのサポーターには女が一杯なのにと彼
 女らは嘆く。サッカー場には女性トイレもない。回教圏社会がいろいろとわかる。

★皆川ちかさん(ライター)―――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●マリー・アントワネット
  ●ワサップ!

  「マリー・アントワネット」:『ベルバラ』でおなじみのベルサイユ宮殿は絢爛豪華
 で冷たそうで、暮らしにくさがよく出てます。日本版のコピーに集約されたソフィア・
 コッポラ監督の西洋、そしてアメリカ中心の物事の見方は、「ロスト・イン~」からさ
 らにエスカレートしていますね。

 【裏ベスト】
  ●悪夢探偵

  高橋葉介の『夢幻紳士』みたいな松田龍平は、素肌に黒のパーカーコートで、立って
 るだけでマンガの佇まい。しかし本編は、「エルム街の悪夢」+『ジョジョの奇妙な冒
 険』(第3部デス・サーティーンの回)のような……。目の下の消えない隈が美しい
 hitomiさん!

 【封切は終わったけれど…】
  「HAZARD ハザード」:NYを舞台にしているけれど、90年代前半の日本の生き
 辛さ、その時代への園子温監督の憤怒・蔑みがびんびんに飛んできて、バブル崩壊後の
 日本(具体的には東京)を疑似体験したようです。どうやっても平坦にならざるを得な
 いオダジョーの“ギャングスタ”感覚は、岡崎京子のマンガともつながっている。2006
 年は園子温の年! なのでした。

★みのわあつおさん(ポップ・カルチャー評論家)―――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●1位)ディパーテッド
  ●2位)不都合な真実
  ●3位)華麗なる恋の舞台で

  『ディパーテッド』は、香港版との比較より、スコセッシの『ミーン・ストリート』
 などのストリート・ギャング・ムービーの流れと解釈した方が正解。『不都合な真実』
 は、アル・ゴアのトーク・パフォーマンスのうまさに驚いた。スタンダップ・コメディ
 にも挑戦すれば? 『華麗なる恋の舞台で』は、さすがフリアーズ! イジワルな中年
 女優が、小娘の姑息な新人女優への復讐劇になり、痛快。

★宮城正樹さん(映画&音楽の批評・分析家)―――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●ディパーテッド

  裁判映画で初めて痴漢を採り上げた『それボク』。冤罪『真昼の暗黒』、医療ミス
 『白い巨塔』、嘱託殺人『半落ち』『愛の流刑地』とかのドラマ映えする素材ではない
 のに、映画的臨場感と緊張感が…。『十二人の怒れる男』ばりのロジックでも魅せる。
 香港作品を『暗黒街の顔役』から続く伝統的なアメリカン・ギャング映画のノリでリメ
 イクした『デーテ』。撃たれて死ぬシーンが続々登場するが、中でもジャック・ニコル
 ソンが一番渋くてヤラれた!

 【裏ベスト】
  ●ラッキーナンバー7
  ●マリー・アントワネット

  俯瞰、フラッシュ、脱色、殺され役からの斜め1人称カットほか切り返しの早い映像
 展開でスピーディーに見せる犯罪映画『7』は構成がお見事。どんでん返しは『オデッ
 サ・ファイル』を思い出した。集団自殺、束の間の出会いと別れに続きソフィア・コッ
 ポラの今回の「負の美学」は「失脚・追放」らしき『マリアン』。テクノ、ダンス・
 ポップ、ロックを使う時代考証破壊系は『ムーラン・ルージュ』に通じる。日の出、朝
 焼けシーンが美しい。

 【封切は終わったけれど…】
  75歳以上の巨匠監督の2作。ベルイマンのスウェディッシュ映画『サラバンド』。こ
 れまで多かった近親憎悪映画だが、ホントの引退作は救いがあってさわやかだ。大阪は
 元旦よりシネ・ヌーヴォで公開。イーストウッド『硫黄島からの手紙』は、『ひめゆり
 の塔』など邦画戦争ものと『地上より永遠に』など欧米産戦争映画のミキシングを試み
 た傑作。脱色系の半ばモノクロかと思わせる暗い色調に炎、朝日を鮮やかな色でのせる
 技巧派ぶりも披露。

★宮崎祐治さん(イラストレーター)―――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●グアンタナモ、僕達が見た真実

  いやはや、すごい。まるで今そこにある戦場の真っ只中をくぐりぬけたような映画体
 験。ウィンターボトム監督、「イン・ディス・ワールド」でみせたドキュメンタリーと
 再現ドラマを混ぜる手法で、さらにこの世界の大変な現状を露わにしている(共同監督
 マット・ホワイトクロス)。アイシテルとかツキアッテなんて言っている今の日本映画
 が恥かしくなる。

 【裏ベスト】
  ●マイ・シネマトグラファー

  反体制反骨のカメラマン、ハスケル・ウェクスラーを描くドキュメンタリーだけれ
 ど、これを息子が演出したことで、家族の人間関係の妙も加わってさらに面白くなって
 いる。カメラを向けられた父親が「お前の撮りたいのは人間か、背景か」と監督を怒る
 シーンなど映画撮影の本質もちゃんとついている。久々のジェーン・フォンダが語る
 「帰郷」のエピソードも興味深い。映画にかかわるすべての人に観てほしい。

★森直人さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない
  ●ディパーテッド
  ●エレクション

  堂々たる3本。周防作品は今月突出した印象がありました。リメイクなのにマイスタ
 イルを無理なく貫いたスコセッシ御大にも感動。ジョニー・トーは、現代ノワールの第
 一人者になったかも。

 【裏ベスト】
  ●マリー・アントワネット
  ●恋人たちの失われた革命
  ●おばちゃんチップス

  微妙な感想を持ちつつも結局肯定してしまう3本。「おばちゃん~」のmisono嬢の
 達者な演技には驚愕! 早くも2007年度の新人賞候補?

 【封切は終わったけれど…】
  DVDスルーの『アメリカン・ドリームズ』(監督:ポール・ウェイツ/主演:
 ヒュー・グラント)は、アルトマン(合掌)的な精神あふれる佳作に仕上がってます。
 あと『NANA2』は、前作より良かったかも。

★山田宏一さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  米大統領にもなりかねないほど偉くなってしまったクリント・イーストウッド監督の
 『硫黄島』2部作のかげに、すべての映画が形無しといった感じ。まったく世も末だ!
 ドン・シーゲルとセルジオ・レオーネを、そして西部劇を葬り去って、なお、厚かまし
 くも、才にまかせて、「良心的」戦争映画/ヒューマニズム映画などつくって泰然自
 若、許されざる者とはこのおぞましくも見事に立派に変貌したクリント・イーストウッ
 ド本人ではないのか?

  「清順映画」(鈴木清順・述、磯田勉/轟夕起夫・編、ワイズ出版)という痛快な映
 画的遺言のような本を読みました。一気に読ませる面白いインタビューで、豊富なス
 チール写真が逆に邪魔になるくらい。
  ――清順さんの映画では、夢とうつつの間を行ったり来たりする象徴として小舟がし
  ばしば出てきますね。『陽炎座』で大楠道代さんと楠田枝理子さんが乗る舟や
  『夢二』で死んだ原田芳雄さんを捜索するために出る舟に続いて、今回(『ピストル
  オペラ』で)はついに三途の川の渡し舟が登場しました。
  清順 ほう、とうとう出ましたか。
 といった調子です。

 【封切は終わったけれど…】
  『ジム』。
  『ツヒノスミカ』の山本起也監督の「家内制手工業」的ドキュメンタリーの第1作つ
 まりデビュー作(2001年作品)。東京・渋谷のアップリンクでDVD上映されました
 (映画は16ミリ作品)。
 「1991年 後楽園ホール
  日本J・バンタム級タイトルマッチ」
 「1992年2月
  北澤鈴春 盛川友基を破り
  日本J・バンタム級タイトルを獲得」
 「その2ヶ月後
  初防衛戦を目前に、網膜剥離のため
  北澤鈴春引退」
 という3枚の字幕とともにはじまるボクシング映画ですが、オーソン・ウェルズ監督の
 『市民ケーン』(1941)のように、主人公、北澤鈴春のキャリア──ボクサーとして
 の人生──は映画のはじまりとともにすでに終わっているという劇的なはじまりです。

★横森文さん(ライター&役者)―――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●それでもボクはやってない

  監督が自分の作品に想いを込めるのは当たり前の話だけど、これほど想いの詰まった
 作品は久しぶり。周防正行監督の裁判への、いやひいては国家への“怒り”が直球で感じ
 られるのだ。もし出資とかがなければ、それこそ自主映画でも作りたいと言ってた周防
 監督の執念が実った作品といえるだろう。変に登場人物のキャラクターを膨らますよう
 なドラマも入れず、裁判に徹底的に絞った、ストイックなまでにブレない世界観が素晴
 らしい!

 【裏ベスト】
  ●幸せのちから

  私はこのアンケートでは1本ずつしか紹介しないと決めたので、裏ベストになってし
 まったが、本当は表ベストでも全然OKな作品だ。とにかくお金がなくて苦しんでいる
 父子が、懸命にがんばる様を追ったもの。全財産約21ドルだった男が億万長者になっ
 た実話をもとにしているだけに、結果はわかっているが、頑張り抜く姿に胸がジーンと
 なることマチガイなし。80年代の空気感を閉じこめた映像&演出も素晴らしいし、
 ウィルの演技も◎。

 【封切は終わったけれど…】
  『プラダを着た悪魔』。これは本当に観て損なし! ファッション業界への影響大な
 雑誌“ランウェイ”の鬼編集長のアシスタントとなった女のコの“働きマン”ぶりと、人生
 にとって何が大事かに気づいていく話だが、この手の話だとキャリア中心の生き方はよ
 くない……とするのが今までの主流。でも本作ではキャリア志向も認めた上で、自分な
 りの生き方を見つけなさいと背中を押してくれる感じがいい。グッとくる1本だよ!

★渡部実さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――――

 【表ベスト】
  ●マイ・シネマトグラファー

  アメリカ映画界有数のキャメラマン、ハスケル・ウェクスラー(1922年生まれ)の
 姿を息子のマーク・ウェクスラーが撮影したドキュメンタリー映画です。「アメリカ
 アメリカ」(63年)「バージニア・ウルフなんかこわくない」(66年)「アメリカン
 ・グラフィティ」(73年)などの映画を観ているファンにとって、いや、未知の映画
 ファンにとっても大変に面白く、興味をそそられる作品です。過去から現在にいたるハ
 スケル・ウェクスラーの仕事も紹介され、もちろん、それだけでも面白いわけですが、
 とりわけ、この人物を息子のマークが撮っていることで、肉親ならではの微妙な感情が
 あふれ、人間ドキュメンタリーとしても出色です。アメリカ映画のバイタリティとはこ
 のような人物から生み出される、と実感しました。

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┣編集後記┫

◆2006年最後の号を発行できました。現在は正直、存続させるのになかなかキビシイ発
行部数であります。まあ「12号までは出してやるぞ!」という意地と、このメルマガで
「年間ベスト」をやりたいという思いがございます。で、まずは年間ベストですが、次号
1月30日発行の第十号でやります。やり方は現在思案中ですが、ブログ「ただいま編集
中」で発表して参りますので、乞うご期待ということで。
◆第八号で、山田宏一さんがベストに選出された『ざくろ屋敷』の深田晃司監督から編集
部あてに突然メールが届きました。
“私もまだまだ駆け出しの映画作家なのですが、そういった新人の作品を山田先生が取り
上げてくれたこと、またその機会を「試写室だより」さんが作ってくれたことに深く感謝
致します。「ざくろ屋敷」は現在、劇場公開を目指して努力しているところです。今回の
件は、必ずやその一助になるものと考えています。”
思えば山田さんが選出された『プージェー』の山田和也監督、『ツヒノスミカ』の山本起
也監督からも同様のお便りをいただきました。前号で書いた『キング 罪の王』の新聞広
告で“「試写室だより」より”と引用されたことや、配給や宣伝会社の方々からいただける
喜びの反応、轟夕起夫さんが編集部宛に送ってくださった『清/順/映/画』(鈴木清
順・述 磯田勉、轟夕起夫・編、ワイズ出版3,800円)、浅草中映の星支配人からのメー
ルなどなど、このメルマガによって「映画」とかかわれることが嬉しくてなりません。
う~ん、やめたくない。2007年は黒字にしたいものです。末筆ながら、読者、執筆者、
映画の作り手、映画の送り手、このメルマガに関わってくださるすべての方々に大きな感
謝を申し上げます。2007年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。(れがあるF)

◆豪華な執筆陣の個性豊かな原稿を、いつも楽しく読ませていただいていますが、山田宏
一先生の『硫黄島』批評、というより、イーストウッド批判(?)は衝撃的でした。私は
俳優・イーストウッドが大好きで、監督・イーストウッドが聖人君子のように讃えらるの
には違和感があります。なので、確かに山田先生のおっしゃる通りだなあ、とは思うので
すが……。あのすばらしい個人主義の塊、ダーティ・イーストウッド・ハリーにヒューマ
ニズム映画を撮らせしめ、こんなにも多くの人がそれを求めている、という今の現実こそ
が、私の目には何よりも「おぞましく」見えるのです。生意気言ってすみません。(れが
あるU)

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■発行日:2006年12月30日
■発行者:れがある http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest
■定 価:315円(税込)
■ご意見、ご感想はこちらまで:mailto:regard-u@office.email.ne.jp
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