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2007年4月号

〓〓〓試写室だより 封切はこれからだ!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓第十二号〓〓〓

     映画を見るプロが選ぶ、表ベスト映画&裏ベスト映画
        ∴・∴・∴2007年4月封切り篇∴・∴・∴

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【表ベスト】これぞまぎれもなく、映画を見るプロが選んだ4月の最高作。心して見よ。
【裏ベスト】出来、不出来は二の次。偏愛あり、ヒイキの引き倒しありのアナザー・ベスト!
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INDEX(得票順/カッコ内は選者/日付は封切り日)
【表ベスト】
1位 クィーン(稲垣、内海、浦崎、大森、加藤、黒田、品田、高崎、高橋、轟、野村、
   まつかわ)4月14日
   http://queen-movie.jp/
1位 バベル(稲垣、内海、えい、江戸木、河原、品田、田中、暉峻、まつかわ、宮城、森、
   横森)
   4月28日
   http://babel.gyao.jp/
3位 13/ザメッティ(宇田川、浦崎、塩田、吉田、高橋、田中、轟、西脇)4月7日
   http://www.13movie.jp/
3位 ブラッド・ダイヤモンド(秋本、浦崎、江戸木、轟、西脇、増當、まつかわ、
   宮崎)4月7日 http://wwws.warnerbros.co.jp/blooddiamond/
5位 ツォツィ(安藤、浦崎、加藤、西脇、野村、まつかわ、皆川)4月14日
   http://www.tsotsi-movie.com/
6位:東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(塩田、暉峻、轟、野村、皆川、宮城)
   4月14日 http://www.tokyotower-movie.jp/
7位 あしたの私のつくり方(えい、加藤、野村、増當、渡部)4月28日
   http://watatsuku.goo.ne.jp/index_f.html
7位 オール・ザ・キングスメン(安藤、河原、品田、田中、まつかわ)4月7日
   http://www.sonypictures.jp/movies/allthekingsmen/index.html
9位 ラブソングができるまで(秋本、馬場、江戸木、みのわ)4月
   http://wwws.warnerbros.co.jp/musicandlyrics/
9位 ロッキー・ザ・ファイナル(秋本、江戸木、高村、みのわ)4月20日
   http://movies.foxjapan.com/rockythefinal/
11位 明日、君がいない(田中、まつかわ、森)4月21日 http://www.kimigainai.com/
11位 ドレスデン、運命の日(内海、浦崎、まつかわ)4月 http://dresden-movie.com/
13位 アボン・小さい家(稲垣、暉峻)4月21日 http://www.ne.jp/asahi/small/home/
13位 恋しくて(浦崎、暉峻)4月14日 http://koishikute2007.jp/
13位 こわれゆく世界の中で(大森、まつかわ)4月21日
   http://www.movies.co.jp/breakingandentering/
13位 神童(加藤、高橋)4月21日 http://www.shindo-movie.jp/
13位 フランドル(高橋、まつかわ)GW http://flandres-movie.com/
13位 プロジェクトBB(宇田川、暉峻)4月7日 http://www.projectbb.jp/top.html
13位 ボンボン(稲垣、高橋)4月14日 http://www.bombon-movie.com/
13位 リンガー! 替え玉★選手権(江戸木、みのわ)4月
   http://movies.foxjapan.com/ringer/
13位 ロストロポーヴィチ 人生の祭典(浦崎、河原)4月21日 http://www.sokurov.jp/
22位以下
●イノセントワールド―天下無賊―(暉峻)GW
 http://www.official.cine-tre.com/innocentworld/
●輝ける女たち(浦崎)4月14日 http://www.kagayakeru-movie.com/
●かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート(暉峻)4月14日
 http://kachikomi.gyao.jp/
●ハンニバル・ライジング(まつかわ)4月21日 http://www.hannibal-rising.jp/
●ブリック/Brick(高橋)4月14日 http://www.wisepolicy.com/brick/
●ママの遺したラヴソング(森)4月7日 http://mamanolovesong.com/
●モンゴリアン・ピンポン(暉峻)4月
 http://www.imageforum.co.jp/pingpong/staff.html

【裏ベスト】
1位 リンガー! 替え玉★選手権(浦崎、えい、吉田、轟、野村)4月
   http://movies.foxjapan.com/ringer/
2位 ママの遺したラヴソング(安藤、宇田川、高崎、宮城)4月7日
   http://mamanolovesong.com/
2位 バベル(馬場、浦崎、高村、西脇)4月28日 http://babel.gyao.jp/
2位 ラブソングができるまで(えい、大森、まつかわ、宮崎)4月
   http://wwws.warnerbros.co.jp/musicandlyrics/
2位 ロッキー・ザ・ファイナル(品田、高橋、野村、増當)4月20日
   http://movies.foxjapan.com/rockythefinal/
6位 かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート(轟、野村、横森)4月14日
   http://kachikomi.gyao.jp/
6位 恋しくて(江戸木、加藤、まつかわ)4月14日 http://koishikute2007.jp/
6位 サンシャイン2057(江戸木、品田、高橋)4月14日
   http://movies.foxjapan.com/sunshine2057/
6位 ブラッド・ダイヤモンド(稲垣、加藤、野村)4月7日
   http://wwws.warnerbros.co.jp/blooddiamond/
6位 モンゴリアン・ピンポン(内海、江戸木、まつかわ)4月
   http://www.imageforum.co.jp/pingpong/staff.html
6位 恋愛睡眠のすすめ(安藤、高橋、森)4月28日 http://renaisuimin.com/
12位 ゲゲゲの鬼太郎(秋本、内海)4月28日 http://www.gegege.jp/
12位 オール・ザ・キングスメン(稲垣、江戸木)4月7日
   http://www.sonypictures.jp/movies/allthekingsmen/index.html
12位 あしたの私のつくり方(内海、大森)4月28日
   http://watatsuku.goo.ne.jp/index_f.html
12位 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(大森、まつかわ)4月14日
   http://www.tokyotower-movie.jp/
12位 ツォツィ(黒田、高橋)4月14日   http://www.tsotsi-movie.com/
12位 神童(轟、まつかわ)4月21日 http://www.shindo-movie.jp/
12位 THE焼肉ムービー プルコギ(まつかわ、宮城)GW
   http://www.yakiniku-movie.com/
12位 ダフト・パンク エレクトロマ(加藤、森)4月28日
   http://www.daftpunkelectroma.jp/
20位以下
●明日、君がいない(高橋)4月21日 http://www.kimigainai.com/
●イノセントワールド―天下無賊―(江戸木)GW
 http://www.official.cine-tre.com/innocentworld/
●輝ける女たち(河原)4月14日 http://www.kagayakeru-movie.com/
●歌謡曲だよ、人生は(塩田)GW http://www.kayomusic.jp/
●黄色い涙(森)4月14日 http://www.kiiroi-namida.com/
●こわれゆく世界の中で(西脇)4月21日
 http://www.movies.co.jp/breakingandentering/
●13/ザメッティ(河原)4月7日 http://www.13movie.jp/
●大帝の剣(秋本)4月7日 http://www.taitei.jp/
●机のなかみ(塩田)4月21日 http://www.tsukuenonakami.com/
●ドレスデン、運命の日(西脇)4月 http://dresden-movie.com/
●ブリック/Brick(田中)4月14日 http://www.wisepolicy.com/brick/
●プロジェクトBB(まつかわ)4月7日 http://www.projectbb.jp/top.html
●ボンボン(まつかわ)4月14日 http://www.bombon-movie.com/
●みづうみ(秋本)4月21日 http://www.midu-umi.jp/
●ロストロポーヴィチ 人生の祭典(田中)4月21日 http://www.sokurov.jp/

【総合】
1位『バベル』
2位『クィーン』
3位『ブラッド・ダイヤモンド』
4位『13/ザメッティ』『ツォツィ』

◆◇◆執筆者プロフィール、近況、著作はHPに掲載◆◇◆
   http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest

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★秋本鉄次さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●ラブソングができるまで
  ●ロッキー・ザ・ファイナル

  アフリカものばやりだが、「ブラッド・ダイヤモンド」は純正ハリウッドの社会派エ
 ンタテインメントとして上出来で、ディカプリオもスコッセッシ映画で無理するより
 よっぽど等身大。童顔が抜け切れぬ青臭さも、ラストに見せるひとかけらの良心の布石
 としてプラスに働く。紛争ダイヤモンドより、少年兵問題のほうがインパクトがあっ
 た。この監督のベストかも知れない。「ラブソングができるまで」もハリウッドならで
 はのラブコメの好編だ。ヒュー・グラントのおちぶれ80年代アーチストぶりが笑え
 る。ドリュー嬢のゆるーいボデイーもチャーミング。キャスティングの妙味十分。どう
 みても蛇足と思った「ロッキー・ザ・ファイナル」も意外といい。団塊世代ボクサーと
 いう無理めの作りも一応説得力を持たせて、ロッキー世代にアピールしたと思う。お約
 束の浪花節でそれが何か? 映画って一種そういうものでしょ。祝、ヘレン・ミレン大
 姉オスカー受賞「クィーン」も興味深く見たが、しょせん英国王室の滑った転んだなん
 て、と思うと4番手にしてしまった。

 【裏ベスト】
  ●大帝の剣
  ●ゲゲゲの鬼太郎
  ●みづうみ

  邦画の活況が伝えられるが、ミニシアター系は確かによいとして問題はメジャー系
 だ。鼻白むヒューマン、メロドラマ系もウンザリだし、衛生消毒パック詰めされたよう
 なテレビシリーズの劇場版も何だかなあ、だし。あとはバカ映画の奮闘あるのみで、
 「大帝の剣」「ゲゲゲの鬼太郎」のバカ妖怪たちの跳梁跋扈に爽快感を感じたい。不思
 議と今回はCGも気にならなかった。これで「大帝」のハセキョー、杉本彩サマ、「ゲ
 ゲゲ」の小雪などのエロスが増量されたらもっとよかったのに。もう一本は「ラブ・マ
 イ・ライフ」が良かった吉井玲目当てで見に行った小品「みづうみ」。4月21日から
 レイトという地味な公開のされ方だけど、ご注目を。自殺願望の女と男、生意気な少
 女、女銀行強盗の4人が湖周辺で葛藤するシチュエーションドラマで、4人4様のキャ
 ラクターが立っている。クレジットを冒頭に全部出して、ラストは「終」でぱっと切れ
 る昔の映画みたいな作りが最近とんとお目にかかっていないので逆に新鮮だった。吉井
 玲ちゃんも当然良かった。女強盗の渡辺真起子は先月の「棚の隅」にも出ていた個性派
 女優。こういうオフ・ハリウッドのような日本映画をもっと見たい。

 【封切は終わったけれど…】
  ミラ・ジョヴォビッチの「ポイント45」はかなり激烈なフェミニズム映画で、ヤク
 ザの情婦がドメスティックバイオレンス愛の中から捨て身で脱出するサマを描いてド迫
 力。チラシにある網タイツ強調シーンはあまりないのが残念だが、今回もしっかり“砂
 漠に干しぶどう”ヌードを披露してくれる。脱ぎといえば、フランス映画祭の試写で
 「待つ女」「ストーン・カウンシル」(モニカ・ベルッチ主演!)「情痴アヴァン
 チュール」の3本を見たが、主演女優全脱ぎだった。脱げばいいってもんじゃないけ
 ど。日本の女優は昔に比べて脱がなすぎ。CMの縛りがあるのかね。

★安藤智恵子さん(ライター)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●オール・ザ・キングスメン
  ●ツォツィ

  『オール・ザ・キングスメン』のラストシーンは、どうやっても自滅するしかない理
 想主義の宿命をみごとに象徴。でもね、たとえ実現できなくても、希望と情熱と意味の
 ある言葉を政治家の口から聞いてみたいもんだ。税金の払い甲斐があるような力強い言
 葉をさ、もう嘘でもいいからさ。本来それが政治家の武器だろうがよ?! アパルトヘイ
 ト後の南アの現実を映し撮った『ツォツィ』。誘拐した赤ん坊を抱いて泣く若いギャン
 グに、もらい泣き。

 【裏ベスト】
  ●恋愛睡眠のすすめ
  ●ママが遺したラヴソング

  相変わらず才気走ったミシェル・ゴンドリーの『恋愛睡眠~』は、ファンタジーを現
 実に着地させられず放棄したようなラストが残念だが、ガエル・ガルシア・ベルナルの
 惜しみないヌードに免じて許す。『ママが遺した~』は、トラボルタ演じるアル中の元
 大学教授が、喧嘩別れしたまま死んでしまった知り合いの詩人を思い出させて、少し、
 泣いてしまいました…。

 【封切は終わったけれど…】
  『超劇場版ケロロ軍曹2 深海のプリンセスであります!』+『ちびケロ ケロボー
 ルのひみつ』。ラスト近くのケロロの活躍を“母”の視線で見守りながら涙ぐんでいる自
 分が愛しい(笑)。角田信朗の歌う主題歌がすばらしいであります! 

★稲垣都々世さん(映画評論家)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン
  ●ボンボン
  ●アボン・小さい家
  ●バベル

  チャーミングな「クィーン」とブレアのファンになってしまった。犬の「ボンボン」
 もひょうひょうとしていていいが、パタゴニアの住民のおっとりした善良さも好きだ。
 「アボン」の登場人物と暮らし方にも、不思議な魅力がある。1時間15分も待って見
 た「バベル」は「アモーレス・ペロス」よりパワーは落ちたが、テーマ的には深化し
 た。監督より脚本家の成熟だろう。3本の中では一番好きだ。ただし、日本パートだけ
 はよく理解できない。

 【裏ベスト】
  ●オール・ザ・キングスメン
  ●ブラッド・ダイヤモンド

  「オール・ザ・キングスメン」は、サスペンスたっぷりの娯楽作に仕上げたオリジナ
 ルに対して、上流階級の憂鬱に目を向けた作り手の志向がよく理解できる。ちゃんと
 語ってはいるが、まじめな性格が災いして、豊かさをなくしたのが残念。「ブラッド・
 ダイヤモンド」で一番興味深かったのは、アフリカにおける“資源がもたらす災厄”の実
 態だが、「ラスト・サムライ」の監督の作品だと思うと、どこまで信じていいものやら。

★宇田川幸洋さん(映画評論家)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●13/ザメッティ
  ●プロジェクトBB

  ’60年代の、つまりはこちらが十代だったころ、ヨーロッパ映画を見はじめたころ
 の、日本映画にもアメリカ映画にもない感覚を、知ったころの新鮮さを、ふと思い出し
 た『13/ザメッティ』のザラッとしたモノクロの、というより黒白の画面。見知らぬ
 世界につれてこられ、異常な事態に立ちあわされるのに、自然なながれのなかにひきこ
 まれる、ドキドキする感じ。新しいフィルム・ノワールだ。
  最近、新聞でだったか、「ウンピョウ」という新種の豹がいるという写真入りの記事
 を見たが、こちらはなつかしのユン・ピョウ(元彪)である。ジャッキー・チェンが泥
 棒で、ユン・ピョウが刑事、しかして二人は小・中学校の同級生でもあるという、うれ
 しがらせる設定。とぼけたキャラクターと、キレのするどい動作の魅力を、ひさしぶり
 に見せてくれた。金庫破りの名人役のマイケル・ホイ(許冠文)も、これまたひさしぶ
 り。ちょっとなさけない役と見かけではあるが、すがたを見ただけでもうれしい。ホイ
 といえば、4月はホイ兄弟の映画界入りする以前のTVショーがDVDで出る。これは、
 たのしみだ。

 【裏ベスト】
  ●ママの遺したラヴソング

  スカーレット・ジョハンソン(ニューヨーク生まれのアメリカ人に「ヨハンソン」は
 ないだろうと思うのだ)の人気のおかげで蔵出しされたと思われる2004年作品。オク
 ラになったのは、たぶんパンチがないせいじゃないかと推測するが、でも、実はそこが
 かえっていい。出てくる人間が、みんな、上昇志向と無縁で、朝から酒のんで川原でだ
 らだら、しゃべったり、歌をうたったりしている。ニューオリンズなんだけど、多摩川
 の川原みたいな親近感がある。二子玉川の中洲にあった、露天なのにソファ(もちろん
 ボロ)のおいてあるおでん屋を思い出した。

 【封切は終わったけれど…】
  まえに本誌(「誌」でいいのだろうな)で山田宏一さんがすすめていらした『プー
 ジェー』を新文芸坐でつかまえ、こころをうごかされました。いっしょに見た『ヨコハ
 マメリー』もよかった。つぶれる直前に行ったことのある根岸屋のことが、なつかしく
 思い出されたが、あそこが火事でやけてからもう27年もたつのですね。
  DVDで、モンティ・ヘルマン監督の代表作『断絶』('71年)がついに出る。『コッ
 クファイター』『銃撃』『旋風の中に馬を進めろ』と、すこしずつヘルマン作品を出し
 てきたキング・レコードから。アメリカン・ニュー・シネマとはヘルマンのことであ
 る。これで、未見の人にも、見ろ!と言えるのがうれしい。

★内海陽子さん(映画評論家)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン
  ●バベル
  ●ドレスデン、運命の日

  「鬼教師ミセス・ティングル」が忘れられないからこそヘレン・ミレンの「クイー
 ン」は楽しい。肖像画を描かれているときに唇をほんの少し動かすシーンから釘付けに
 なる。「エリザベス」一世を、颯爽と演じたケイト・ブランシェットが「バベル」では
 被弾して血にまみれる汚れ役。記憶が緊張感を呼ぶ。「ドレスデン」の生き生きしたド
 イツ娘フェリシタス・ヴォールが空襲下を逃げ惑い、ついに“ある自由”を宣言する姿は
 映画全体を象徴して力強い。

 【裏ベスト】
  ●あしたの私のつくり方
  ●ゲゲゲの鬼太郎
  ●モンゴリアン・ピンポン

  少女の湯上りの髪の雫までヴィヴィッドな「あしたの私のつくり方」。思春期の鬱を
 描く市川準の、隅々まで神経の行き届いた演出に包まれる。鬼太郎は二枚目過ぎるが、
 彼を囲む妖怪たちの明るさが絶品の「ゲゲゲの鬼太郎」。田中麗奈も室井滋も西田敏行
 も可愛いが、ねずみ男の大泉洋の適役ぶりに目を見張る。ピンポン玉一個で物語が果て
 しなくひろがる「モンゴリアン・ピンポン」。家出した少年たちを救出するパトカーの
 警官のぼやきまでいとしい。

★馬場英美さん(ライター、エディター)─────────────────────

 【表ベスト】
  ●ラブソングができるまで

  愛しのヒュー様映画! かつて美青年だった面影も虚しく、干し葡萄(!?)のように
 シワシワになってきてはいるけれど、のっけから80年代ファッションで歌い踊る捨て
 身っぷりは、ヒュー様ならでは。ときにドリュー・バリモアとのツーショットが父と娘
 のように見えるのもさておき、娯楽作としては文句なく楽しめる映画です。きっと裏ベ
 ストに入るべき作品なのでしょうが、ヒュー様+お気楽ハッピーな映画が好きなので表
 ベストに。

 【裏ベスト】
  ●バベル

  本来ならば、表ベストに入るべき作品なのでしょう。この映画をけなすことなどでき
 ないけれど、あまりにも重く、痛すぎて…。

★浦崎浩實さん(激評家=映画評・劇評)─────────────────────

 【表ベスト】
  ●ロストロポーヴィチ 人生の祭典
  ●クィーン
  ●輝ける女たち
  ●13/ザメッティ
  ●ドレスデン、運命の日
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●ツォツィ
  ●恋しくて

  王制であれ天皇制であれ、特権的なものを基本的に認めたくない立場だが、西洋の王
 制となると実害が遠いからか、寛大になれる自分が不思議。「クィーン」は大いに楽し
 めた。「ロストロポーヴィチ」はその、セレブたちによる誕生祝いで始まり、いやな雰
 囲気。がソクーロフの直截なインタビューに思いがけない発見があった。

 【裏ベスト】
  ●バベル
  ●リンガー! 替え玉★選手権

  「バベル」の菊地凛子が話題になったので、「リンガー」と並べた。身障や障害を
 (誰が)どう演じるか。私が「マイ・レフトフット」のD・D・ルイスの名演に違和感
 を持ち、「レインマン」のD・ホフマンには違和感を持たなかったのはナゼなのか? 
 それらを延長させると、老人役は老人が演じなければならないか? ゲイ役はゲイであ
 る必要ありや? 等々、演じるとは何かという大問題に発展していく。その思考の(自
 分の)契機としているところです。

 【封切は終わったけれど…】
  設問を曲げて、4月に開催される第1回アジア・クィア・フィルム&ビデオ・フェス
 ティヴァル・ジャパン(AQFF)に注目しています。だいぶ以前、インディペンデント
 の女性監督によるレズビアン映画(タイトル失念)を観たとき、その女体が実に優雅で
 美しいのに胸を打たれたことがある。いわゆるストレートの男性監督たちによるものと
 違い、身体に敬意が払われていたと思う。裏ベストのコメントにつながる大テーマなの
 であります。

★えいwithフォーンさん(シネマブロガーズ)──────────────────

 【表ベスト】
  ●バベル
  ●あしたの私のつくり方

  ――『バベル』ってアカデミー賞逃しちゃったね。いくつものエピソードを並列させ
 て時制をバラバラにして描く手法が『クラッシュ』に似ていたからかな?
  「さあ、どうだろう。これはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督お得意の
 語り口なんだけどね。最初はあれって思っても、その混乱が脳を刺激してかえって心地
 よいんだ。一方の『あしたの私のつくり方』は“イジメへの防衛”をテーマにした市川準
 監督の青春映画。いつもの抑制した静謐な世界とは違って、メールを中心に言語がスク
 リーン中を駆け回る平明な作りになっている。主たるターゲットの中高生を意識したの
 かな。結果、とてもしなやかでさわやかな後口の作品に仕上がっていたな」

 【裏ベスト】
  ●ラブソングができるまで
  ●リンガー! 替え玉★選手権

  ――あれれ? 2本ともコメディだね。
  「もはやドリュー・バリモアはラブコメ女王の座をメグ・ライアンから奪い取ったと
 言っても過言じゃないね。最近の彼女の作品に裏切られることはまずないもの」
  ――あのセクシードレス姿も嬉しかったんでしょ?
  「うん。今回の役柄からして少しあきらめていたら、うまくストーリーの中に取り入
 れてくれた(笑)。クライマックスのステージ上で訪れるサプライズドといい、この映
 画はまさにプロの仕事だと思ったね。『リンガー! 替え玉★選手権』は聞きしに勝る
 超ヤバ系の作品。スペシャル・オリンピックスを題材にコメディを作るなんてこれまで
 のハリウッド映画の常識ではありえない。タブーに挑戦しながら、彼らの個性もきっち
 り謳いあげる。まずは観てみることをオススメ」

 【封切は終わったけれど…】
  ●『松ヶ根乱射事件』
  ――この映画、あまりヒットしてないんだって?
  「らしいね。『リンダリンダリンダ』の監督の新作なのに…。やはり監督だけで観客
 を呼び込むのはなかなか厳しいと実感。真っ白な雪の上の死体(?)に始まった映画
 は、雪に閉ざされた町中のどろどろした人間関係をじわりじわり剥がしていく。
 『ファーゴ』か『スウィート ヒアアフター』か、はたまた『ツイン・ピークス』か?
 ぼくなんてたっぷり楽しませてもらったけどね」

★江戸木純さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  1位)ロッキー・ザ・ファイナル
  2位)ブラッド・ダイヤモンド
  3位)ラブソングができるまで
  4位)リンガー! 替え玉★選手権
  5位)バベル

  さすがにゴールデン・ウィークということで今月は面白い映画がたくさん公開され
 る。1位)シリーズ後半の無様な姿が嘘のようなまさにスタローン奇跡の復活。筋肉で
 映画を作ったようなベタベタの展開も逆に嬉しい映画的快感の核弾頭。オリジナルをリ
 アルタイムで見た者は号泣必至。2位)ディカプリオの熱演もさることながら、ジェニ
 ファー・コネリーがとてつもなくいい。ダイヤ業界の暗黒面を真面目に描いたズウィッ
 クの馬鹿正直な勇気にも拍手。3位)オープニングのつかみで入場料金分は確実に楽し
 ませる、2人の変人が主演するウィアード感満点のウェルメイドなロマンチック・コメ
 ディ。4位)下手なドキュメンタリーより感動的なファレリー印コメディ版「ミラク
 ル・カンフー阿修羅」。5位)外国人には評判の日本のパートはまったく入り込めな
 かったが、全体的には確かによくできている。

 【裏ベスト】
  1位)イノセント・ワールド ―天下無賊―
  2位)恋しくて
  3位)オール・ザ・キングスメン
  4位)モンゴリアン・ピンポン
  5位)サンシャイン2057

  1位)ベストに入れてもいいのだが中途半端な位置より少しは目立つここに。正直
 言ってこの映画、中国映画史上の最高傑作だと思う。チベットからの列車を舞台にお尋
 ね者の大泥棒カップルと凶悪窃盗強盗団が純真無垢な青年の持つ大金を狙う。貧乏な田
 舎の村を舞台にした嘘臭い美談や、大金をかけた緩々の歴史大作より断然面白い。中国
 の今が抱えるリアルに嫌な部分やジレンマを見事に娯楽映画の要素として昇華させた
 フォン監督の手腕に唸った。2位)は石垣的マジック・リアリズムを感じさせて爽やか
 な青春音楽映画の快作、現在大量生産されている凡百の薄っぺらな邦画の青春ものとは
 一線を画している。3位)ショーン・ペンの熱演は一見の価値のある力作だが、ジュー
 ド・ロウとケイト・ウィンスレットの恋愛部分が蛇足。4位)要するに「ブッシュマ
 ン」のコーラ瓶をピンポン玉に変え、舞台をモンゴルに、主人公を子供にしたよくでき
 た映画なのだが、話にもうひとつ驚きがないのが残念。5位)ほとんど「クライシス
 2050」のリメイクという意味で興味深い。真田広之が予想外の健闘を見せるがミシェ
 ル・ヨーの無駄な使い方がもったいない。「かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲー
 ト」はCG使い過ぎの残念賞、「ストリングス」はオリジナル版じゃなくて残念賞、
 「クィーン」はソックリだけで残念賞。

★大森さわこさん(映画評論家)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●こわれゆく世界の中で
  ●クィーン

  アンソニー・ミンゲラが見せる現代のロンドン。古い建物がこわされる地域で、自分
 の居場所を探す人々。この監督らしい繊細な愛の表現に心ひかれる。ガブリエル・ヤレ
 ド+アンダーワールドという意外なコンビの音楽もいい感じ。
  後者はヘレン・ミレンの演技が、やっぱり、すごい! もとから、オバサン女優が好
 きなフリアーズ監督、遂に女王さまにたどり着く……? 80年代にロンドンで取材し
 た時、アンチ・サッチャーの発言の連発だったが、そんな彼らしい内容かもしれない。
  *期待の「バベル」は、まだ、見ていません。残念。

 【裏ベスト】
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
  ●ラブソングができるまで
  ●あしたの私のつくり方

  東京という街を地方出身者の目で見ることで、独特の世界観を作りだした「東京タ
 ワー」という物語。私自身も(原作者同様)九州出身ゆえ、その感覚、分かる気がしま
 す。テレビ・ドラマにもなったが、映画版は筑豊地方での少年時代が個人的にはおもし
 ろく、若きオカン役の内田也哉子の新鮮な存在感も印象的。
  「ラブソング~」は、80年代の忘れられたポップスター役で、歌って、踊るヒュー
 さま(古いですね、この言い方)への一票。トム・ジョーンズを意識したという腰つ
 き、笑いました。
  「あした~」は成海璃子の視点に共感できる女性には、ちょっといいのかな?
 (それ以外の人には、どうなんでしょう?)

 【封切は終わったけれど…】
  「ラスト・キング・オブ・スコットランド」。人間のダークな部分をとことん見つ
 め、特に後半40分はスクリーンに目が釘づけ(おっそろしい!)。オスカー受賞の
 ウィテカーはすごい迫力だが、彼に追いつめられていく英国男優ジェームズ・マカヴォ
 イも良かった。この映画と「クィーン」の脚本を書いたピーター・モーガン、実話風
 フィクションを作るのがうまい!

★加藤久徳さん(映画ライター)─────────────────────────

 【表ベスト】
  1位)クィーン
  2位)あしたの私のつくり方
  3位)ツォツィ
  ●神童(前号参照)

  崩御されなければ映画で描けない日本の天皇家と違い、『クィーン』では、英国の王
 族は全員が実名で登場。ついでにブレア首相ファミリーまでが、つつましく庶民的に描
 かれている。ダイアナ元妃の事故死事件が背景にあるものの、いたって軽く、英国映画
 本来の“伝統的ドキュメンタリズム”と言うよりは、古色蒼然たる“英国風キッチン・
 ムービー”(と言って分からなければ、D・リーン監督の『逢びき』あたりを参照すべ
 し)が、そこにはあった。年を取ることを忘れたようなエリザベス女王を演じるヘレ
 ン・ミレンの軽快な足取りが見ものである。

 【裏ベスト】
  1位)ダフト・パンク エレクトロマ
  2位)ブラッド・ダイヤモンド
  3位)恋しくて

  見る者の感性と想像力を刺激するようなSF映画『ダフト・パンク エレクトロマ』
 について、細かい感想は控えたい。主人公が何者に見えるかはあなたの受けとめかたし
 だいだ。

★河原晶子さん(映画・音楽評論家)───────────────────────

 【表ベスト】
  ●バベル
  ●オール・ザ・キングスメン
  ●ロストロポーヴィチ 人生の祭典

  三つのエピソードのキリキリと胸をしめあげるような切迫感がひとつに結ばれる
 時、“人間は善である”ことを信じたくなるような終章が訪れる「バベル」。アメリカ深
 南部を舞台にしたフィルム・ノワールの色濃い「オール・ザ・キングスメン」。ブラッ
 ド・ピット、ショーン・ペン、ジュード・ロウがそれぞれ久々に印象的です。
  「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」は、天衣無縫のムスティスラフと厳しく美しい
 ガリーナという対照的な夫妻にソクーロフが迫った“ロシアの魂”のドキュメンタリーで
 す。

 【裏ベスト】
  ●輝ける女たち
  ●13/ザメッティ

  「輝ける女たち」では、華やかな女優たちの競演にも増して、ジェラール・ランヴァ
 ン、クロード・ブラッスールの男の哀感がフランス映画伝統の人生ドラマの味つけに
 なっています。
  「13/ザメッティ」は追いつめられた男たちの生死を賭けたゲームを冷徹に描い
 た、東欧の闇をのぞかせる衝撃作です。すべての男たちの強烈な個性!

★黒田邦雄さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン

  エリザベス女王を演じたヘレン・ミレンの好演は言うまでもないが、特筆したいのが
 若きブレア首相を演じたマイケル・シーンのなりきり演技。顔は似ていないのに、よく
 まあと驚くほど雰囲気をつかんでいる。この好演があったればこそミレンのそっくりぶ
 りが生きたと思うので、もっと評価されるべきである。スティーブン・フリアーズの品
 格ある演出も見事で、近年まれな大人仕様の映画だった。

 【裏ベスト】
  ●ツォツィ

  アパルトヘイト撤廃以後の南アフリカで何が起こっているかを、ヨハネスブルグの旧
 黒人居住区ソエトに住む不良少年を主人公にして描いたもの。メキシコの不良少年映画
 のようにパワフルに描くのではなく、少年の哀しみに静かに迫る演出がいい。人種差別
 が撤廃されても、待っていたのは格差社会だった…。

 【封切は終わったけれど…】
  95歳になり、足を痛めて立ち上がれない舞踏家・大野一雄が、最後の気力を振り
 絞って踊る姿をカメラで追ったドキュメンタリー映画「大野一雄 ひとりごとのよう
 に」がすさまじい。息子の大野慶人にうしろから腰を支えられて踊る姿は、まさに文楽
 の人形のよう。説明シーンを排したシンプルな構成もいい。

★塩田時敏さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
  ●13/ザメッティ

  「東京タワー」はさすが松岡錠司監督作品、と唸ってしまう、ベストセラーの映画
 化! 等というしゃらくせぇ概念を超える傑作である。原作者と同じ穴のムジナ的職業
 という事を差し引いても、我が心をガツンと打った。ノスタルジーにおぼれず、
 「ALWAYS」「フラガール」の足りない所がここにある。昭和から平成への日本人の
 大衆史。内田也哉子で今年の新人賞は早くも決定だ。これは松岡作品、母と娘の葛藤劇
 「アカシアの道」とポジとネガの関係にある。

 【裏ベスト】
  ●机のなかみ
  ●歌謡曲だよ、人生は

  昨年のゆうばりファンタのオフシアター・コンペでグランプリを受けた吉田恵輔監督
 「なま夏」に次ぐ新作長編である「机のなかみ」。両作とも、ちょっとした人間関係の
 すき間にあるエロ心が笑いへとつながる、早くもヨシダ・ワールド、ヨシダ・タッチま
 ん開の作品。こういう発見こそが裏ベストに相応しい。そして、この才能を発見しただ
 けでも、コンペを行うゆうばり映画祭は存続する意味があるのだ。

★品田雄吉さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●バベル
  ●クィーン
  ●オール・ザ・キングスメン

  「バベル」の主題になっている<ディスコミュニケーション>は優れて現代的だと思
 いました。構成もうまい。「クィーン」はイギリスらしい、よい作品です。「オール・
 ザ・キングスメン」は、良くも悪くもショーン・ペンの映画です。

 【裏ベスト】
  ●ロッキー・ザ・ファイナル
  ●サンシャイン2057

  「ロッキー・ザ・ファイナル」は、ゆうばり応援映画祭のオープニング作品として上
 映され、「夕張とおんなじだ!」と、たいへんな好評を得ました。「サンシャイン
 2057」はみんな死ぬと決まっている話であることに疑問を覚えました。SF映画が途中
 からオカルト映画になってしまっていました。

 【封切は終わったけれど…】
  2月22日~25日の<ゆうばり応援映画祭>は、思いがけないほどの大成功でした。
 何よりも市民の皆さんに喜んでいただけたのがうれしかったです。よい作品を無償で提
 供してくださった各映画会社に心から感謝いたします。それにしても、テレビ、ラジ
 オ、新聞、雑誌など、メディアのものすごい取材には驚きました。そしてすべての報道
 が好意的でした。これもありがたいことでした。ネガティヴな報道は皆無でした。

★ジャンクハンター吉田さん(『映画秘宝.com』編集長)─────────────

 【表ベスト】
  ●13/ザメッティ

  全編モノクロで撮る大変面倒なことを長編処女作でやってのけたチャレンジ的作品で
 もあり、13人のロシアン・ルーレッターをオリジナルのルールを作って描いた全編緊
 迫感漂う作品。ゲラ・バブルアニの秀逸な脚本が冴え渡っていた。ちなみに父親のテム
 ル・バブルアニは、1987年のカンヌ映画祭へ出品した『懺悔』で審査員特別賞に輝い
 たテンギズ・アブラゼ監督の勤めていたグルジア映画社に属していて、テンギズの弟子
 でもあったそうな。

 【裏ベスト】
  ●リンガー! 替え玉★選手権

  ジョニー・ノックスヴィルが主演だけでジャッカス魂を持つ者は全員観なきゃいけな
 いと思わせる映画(少し強引か!?)。ファレリー兄弟の毒も入っているけど、決め手は
 ジョニーのクドイぐらいの知恵遅れっぽい障害者を演ずるバカなシーンである。モノホ
 ンの障害者たちに混ざっての演技に不謹慎と思いつつ大笑いしてしまうのだが、最後は
 微笑ましいクライマックスを意外な展開で迎えてくれる。偏見を無くし安心して観れる
 感動作!

★高崎俊夫さん(編集者)────────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン

  これはヘレン・ミレンの独壇場というほかない。彼女の初々しいデビュー作『としご
 ろ』は、主演ジェームズ・メイスン、そして監督がマイケル・パウエルのせいか、『ロ
 リータ』風の変態味あふれる青春物で大好きだったが、こんな大女優になってしまうと
 は。目尻の小皺の美しさにはっとする瞬間もあり、こういう作品を堂々とつくれるイギ
 リス映画界の成熟ぶりに感嘆してしまう。

 【裏ベスト】
  ●ママの遺したラヴソング

  ジョン・トラボルタが元英文学の教授というのは、どうみてもありえない設定なのだ
 が、あの老境を迎えた、愛嬌たっぷりの顔を眺めていると、遥か昔、バイトで『サタ
 デー・ナイト・フィーバー』の宣伝を手伝っていた者としては、つい、感慨に耽ってし
 まう。スカーレット・ヨハンソンが読んでいるカースン・マッカラーズの『心は孤独な
 狩人』は、新潮文庫で出ていた名作で、ソンドラ・ロックのデビュー作『愛すれど心さ
 びしく』の原作でもある。そして、ジュシア・ローガンの『ピクニック』で、本の虫の
 スーザン・ストラスバーグがいつも読んでいたのが、やはりマッカラーズの『悲しき酒
 場の唄』だった。この映画のヨハンソンは、どこか、このふたりの薄倖な女優のイメー
 ジを喚起させる。

 【封切は終わったけれど…】
  日仏学院で見たマルコ・フェレーリの『白人女に手を出すな』は、噂にたがわぬ超怪
 作だった。現代のパリのど真ん中で、突如、インディアンとカスター将軍が壮絶な戦い
 を始めるというファンタスティックなお話で、ラブラブ状態だったマルチェロ・マスト
 ロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴ、それにウーゴ・トニャッティやミシェル・ピッコリ
 などフェレーリ映画の常連が怪演を繰り広げるが、『最後の晩餐』と同様に、ヨーロッ
 パの黄昏という終末観的なムードが全篇をおおってる。

★高橋諭治さん(映画ライター)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●13/ザメッティ
  ●ブリック/Brick
  ●神童
  ●フランドル
  ●ボンボン
  ●クィーン

  今月は新人監督ふたりのスリラー2本が掘り出しもの。グルジア出身のゲラ・バブリ
 アニという監督が移住先のフランスで撮った『13/ザメッティ』は、何が始まろうと
 しているのかさっぱりわからない導入部から、恐るべき“死のギャンブル”へと至る語り
 口がただ者ではない。アメリカのライアン・ジョンソン監督作品『ブリック/Brick』
 は、カリフォルニアの高校を舞台にしたノワール調のミステリー。メガネをかけた根暗
 の探偵少年が、行く先々でケンカを繰り返しながら殺人事件の真相に迫っていく意外性
 に引き込まれた。かなり奇妙な映画です。

 【裏ベスト】
  ●サンシャイン2057
  ●ツォツィ
  ●ロッキー・ザ・ファイナル
  ●明日、君がいない
  ●恋愛睡眠のすすめ

  南アフリカの社会格差を鮮烈に浮き彫りにした『ツォツィ』では、高層ビルの周辺に
 スラム街が広がるロングショットに驚きつつ、重い余韻を残すラストに涙。『恋愛睡眠
 のすすめ』はちょっと遊びすぎの演出に辟易したが、妄想ストーカー青年ガエル・ガル
 シア・ベルナルがシャルロット・ゲンズブールに夢中になる気持ちもよくわかる。映画
 がいくら横道にそれようと、相手の男優がハイテンションで迫ってこようと、この女優
 の“自然体”はまったく揺るがない。男にとってそれは“罪”なんですよ、シャルロットさ
 ん!

 【封切は終わったけれど…】
  フランス映画祭はスターのQ&Aのない地味な作品も売り切れ続出なので、“当日券
 でぶらり観賞派”の筆者には困りもの。かろうじてインターネット予約に成功した
 『CALL ME ELIZABETH』は、森の一軒家を舞台にしたダーク・メルヘンで、天才的
 な子役の演技とジャン=ピエール・アメリという監督の“扉”に執着したサスペンス演出
 に唸る。個人的にはかなりツボ。配給が決まっているようなので、いずれ再見したいと
 思わされる作品でした。もう一本、試写で見せてもらった『石の微笑』では、クロー
 ド・シャブロルらしい屈折したラブ・サスペンスを満喫。こちらは夏までに公開される
 ようです。

★高村英次さん(映画ライター)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●ロッキー・ザ・ファイナル

  3作4作でテーマがブレたロッキー・シリーズだが、最終作『ロッキー・ザ・ファイ
 ナル』では有終の美を飾ってくれた。私自身がロッキー世代(『ロッキー』初公開の
 1976年からロードショウを見始めた)なせいもあろうが、まさかこんなに見事に原点
 回帰してくれるとは……感激だ! 自分が生んだ“伝説”を最高の形で幕引きしたスタ
 ローンを見直した。エンディングでロッキーが愛妻の墓に手向けるバラは、スタローン
 がロッキーに贈った卒業証書に相違ない。

 【裏ベスト】
  ●バベル

  菊池凛子のチエコは恥部を露出して男を挑発し、ハンサムな刑事の前で全裸になって
 求める。これが一般の10代の聾唖者のあり方だ、と提示されるとかなり疑問。「思春
 期で欲求不満だからって、こんなにエロくて大胆だろうか」と首をかしげたくなる。だ
 が同時に「では自分はそんなに深く障害者のことを知ってるか? 彼女らの気持ちが分
 かっているのか?」と自問すると言葉に窮する…。一般論として見ずに、これは菊池凛
 子が創造したチエコという孤独な女の子の、彼女だけの心理、心象風景として見るべ
 き。目線に恐れ多いパワーがありました、凛子チャンは。

 【封切は終わったけれど…】
  忘れられた名匠・千葉泰樹監督の『下町』(57年)を見た。戦後4年目、夫の復員を待
 つ子持ち女・リヨ(山田五十鈴)が、気のいい男・鶴石(三船敏郎)と知り合い、その
 明朗さに惹かれていく。ジリ貧の生活、間借りしている売春宿の居辛さ、気のすすまな
 い縁談などの中で、リヨは子供と浅草散策に誘ってくれた鶴石と一夜を共にする。そし
 て彼と別のアパートを見に行くハズであったが…。悲痛な結末は成瀬作品のようでもあ
 るが、以前ここで紹介した同じ千葉作品『鬼火』(56年)同様、ショッキングで重
 い。劇中、鶴石がオカズの焼き魚を箸で二つに裂いてリヨにあげるシーンに無性に感動
 した。『下町』は1時間にも満たない小品(SP)だが、丹念に描かれた「人の真心」
 は生涯胸に残る。

★田中千世子さん(映画評論家)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●オール・ザ・キングスメン
  ●明日、君がいない
  ●バベル
  ●13/ザメッティ

  『オール・ザ・キングスメン』は、ショーン・ペンが正義の独裁者という複雑なよう
 でいて案外単純な男を演じて見事だ。もとの映画と較べてもグローバル時代の格差を
 しっかり見据えているので(たとえ時代設定は過去になっていても)少しも遜色がない
 どころか、映画の理念はより高い。

 【裏ベスト】
  ●ブリック/Brick
  ●ロストロポーヴィチ 人生の祭典

  『ブリック』は新人の才能をビンビン感じる。ソクーロフの『ロストロポーヴィチ』
 は、音楽や演奏をじっくり聴かせようとしていない自由さが映画らしい。

★暉峻創三さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
  ●アボン・小さい家
  ●恋しくて
  ●モンゴリアン・ピンポン
  ●プロジェクトBB
  ●かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート
  ●バベル
  ●イノセントワールド ―天下無賊―

  例によってそんなに試写には行けてないのだが、今月は必見級お勧め作が目白押し。
 『東京タワー~』は、ベストセラー号泣小説をテレビ局や広告代理店が寄って集って映
 画化した、という事前情報から来る嫌な予感を、松岡錠司の冷静沈着な視点が見事に吹
 き飛ばしてくれた。本作は松岡にとって、エドワード・ヤンにとっての『□嶺街(クー
 リンチェ)少年殺人事件』のような、自分の育った時代と街を真正面から描ききった格
 別の作品になるだろう。

★轟夕起夫さん(文筆稼業)───────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
  ●13/ザメッティ

  『クィーン』は、ロイヤル・ファミリーを舞台にしたスティーヴン・フリアーズ監督
 の、覗き見感覚と抑制の効いた演出の妙! 孤立しながらも、己の世界を貫こうとする
 エリザベス女王(ヘレン・ミレンがいい!)の矜持とその静かな綻び、彷徨える鹿との
 対面シーンでの、一瞬の女の涙にグっときた。南アフリカ育ちで元傭兵、しかも武器商
 人役というレオナルド・ディカプリオのタフガイぶりが魅せる『ブラッド・ダイヤモン
 ド』。ジョン・ヒューストンの後継者(かもしれない)エドワード・ズウィック監督の
 力ワザに注目を。松岡錠司監督の、エモーショナルだけどベタベタしない“寸止め感”が
 いい『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』は、ある意味、小津安二郎監督の
 名作『東京物語』の裏返し的作品……アンサー映画として観るのもオツ。同じ松竹映画
 だし。「集団ロシアン・ルーレット」という飛び道具だけでなく、全体のトーンをノ
 ワールに統御した手練手管も称えたい『13/ザメッティ』。グルジア出身、31才のゲ
 ラ・ハブルアニ監督の名は覚えておこう。

 【裏ベスト】
  ●かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート
  ●リンガー! 替え玉★選手権
  ●神童
  ●ポリス インサイド・アウト ※3月封切

  香港の国民的漫画『龍虎門』を映画化した『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲー
 ト』。バカバカしいと言ってしまえばそれまでだが、驚異的な足技の持ち主ニコラス・
 ツェー、ヌンチャク野郎ショーン・ユー、そしてアクション監督も務めるクンフーナル
 シスト、ドニー・イェン(必殺技は“18ドラゴンパーム”)に燃えよ。『リンガー! 
 替え玉★選手権』の主演は『ジャッカス』シリーズのジョニー・ノックスヴィル。彼が
 若きジャック・ニコルソン、はたまたジェリー・ルイスにどこか似ているのがポイン
 ト。本作の下敷きには『カッコーの巣の上で』があり、その狂騒さはジェリー・ルイス
 映画的でもあるのだ。クラシック音楽がロック以上に“怪物たち”の作り出す産物である
 ことを示す『神童』。『ポリス インサイド・アウト』は、ポリスの名ドラマー、ス
 チュワート・コープランドの撮っていたプライベートフィルム、対象に近過ぎる“カメ
 ラアイ”の臨場感を楽しみたい。

 【封切は終わったけれど…】
  ついにモンテ・ヘルマン監督の『断絶』がDVDになります(4/11リリース)。観
 直してみたらどんな感想になるのか、わかりませんが、とりもなおさず――。

★西脇英夫さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  1位)ツォツィ
  2位)13/ザメッティ
  3位)ブラッド・ダイヤモンド

  1位)は、今もって差別と貧困の問題が解決していない、南アの厳しい状況を辛らつ
 に描写しながら、かすかな愛の光を灯すという真摯な制作姿勢が胸を打つ素晴らしい作
 品。2位)は、残酷なゲームを楽しむ理解不能な空想的世界を描きながら、鳥肌の立つ
 ような衝撃的なリアル感がスクリーンにみなぎる奇跡のような作品。3位)は、きっち
 りとエンタテイメントをふまえながら、社会的な面までを鋭く突いた感動作。ジョン・
 ヒューストンの『黄金』を思い起こさせる。

 【裏ベスト】
  1位)バベル
  2位)ドレスデン、運命の日
  3位)こわれゆく世界の中で

  1位)は、はたしてどこまで理解できたか自分でもよくわからないが、奇妙な連帯感
 を覚える作品。良くも悪くもエピソードがきっちりと繋がっていないのが、深さを感じ
 させるのだろう。しかし、それにしても曖昧な作品だ。2位)は、壮大な歴史ロマンと
 いった感じで、目新しさはないが、よく出来た文芸作品を読むような味わいがある。3
 位)は、移民という社会的テーマを愛の物語に置き換え、魂の孤独さを巧みに表現し
 て、寒々とした感銘を受ける。

  【封切は終わったけれど…】
  劇場映画ではないが、すでにWOWOWで2度ほど放映されているが、4時間に及ぶ
 『9.11への道』は見応えがあった。9.11について描いた映画はいくつかあるが、これ
 が最高。脚本も凄いが、世界中をロケして回ったキャメラと、一瞬のダレもない演出が
 見事だ。

★野村正昭さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●クィーン
  ●ツォツィ
  ●あしたの私のつくり方
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

  ブレア首相を主人公にしたTVムービーが前提として製作され(役者も同じとか)好
 評だったとはいえ、現存する皇族及びその関係者を登場人物として描き、内面にまで
 堂々と踏みこんでいる点で「クィーン」には大いに感心させられた。ヘレン・ミレンが
 アカデミー主演女優賞を受賞したのは喜ばしいが、例えば日本で皇太子妃を主人公にし
 たドラマなどは実現も不可能だろうし、想像もできない。フリアーズ監督の鹿を巧みに
 使った抑えた演出も好感度大。「あしたの私のつくり方」は市川準監督作としては本当
 に久々に面白かった。ヒロイン成海璃子と新人・前田敦子の素晴らしさ! 「ツォ
 ツィ」「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は何はともあれ、その構成力と
 気迫に対して。

 【裏ベスト】
  ●ロッキー・ザ・ファイナル
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート
  ●リンガー! 替え玉★選手権

  とりわけロッキーのファンというわけではないが、謙虚に初心に戻り、現在の自分を
 冷静に認識した上で、リングに立つロッキーの姿勢には、いろんな意味でジーンとさせ
 られました。ラジー賞にノミネートされなかったのも納得できたしね。「ブラッド・ダ
 イヤモンド」は異文化の中でのヒーローのあり方という点では「ラストサムライ」と同
 工異曲なので、やや興醒めだが、最後まで飽きさせずディカプリオもスコセッシ作品以
 上に健闘していたので。「かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート」はドニー・イェ
 ンはじめ役者たちの凄まじさゆえに。日本の福祉映画は一部を除いては、見ていて、あ
 まりの善意ゆえに背中がむず痒くなり、どれもこれも苦手なのだが(というかハッキリ
 言って観客の良心につけこんだ、映画であって映画でない非映画のジャンルに近いと思
 う)、「リンガー! 替え玉★選手権」は、そうした虚妄を見事に突いている。

★増當竜也さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●あしたの私のつくり方

  『ブラッド・ダイヤモンド』はエドワード・ズウィック監督がまたやってくれたと
 いった社会派エンタテインメントの秀作。邦題がB級っぽいのが難ですが、惑わされぬ
 よう。ディカプリオも元傭兵といった動きをきちんと見せていたのにはびっくり。『あ
 したの私のつくり方』は久々に市川準監督作品で純粋に楽しめました。分割画面などの
 技巧も作品の可愛らしさを気持ちよく増幅させており、現代を見据えた希望のドラマに
 仕上がっています。今年の成海璃子主演3作品の中でも一番出来がいいです。ただ、正
 直なところ、さすがに少女ものはもう飽きてきたかな。

 【裏ベスト】
  ●ロッキー・ザ・ファイナル

  表でも良かったのですが、この枠に入れるようなものが他になかったので(ひどいの
 はいくつか観ましたが)。もうただただ世代的に、「俺はこういうものを観て映画が好
 きになったんだよな」といった自分にとっての原点回帰にもなり、冒頭からラストまで
 一気に見入ってしまいました。ここまでエキサイトさせ、感動させてくれたのだから、
 シリーズとしてのストーリーの繋がらなさは、もう目をつぶりたいと思っています。も
 ともと『ロッキー』シリーズって、2作目から既につじつまの合わないところはいっぱ
 いありましたしね。いい台詞もいっぱいあったなあ。

 【封切は終わったけれど…】
  前回無責任に予告した『超劇場版ケロロ軍曹2』は、やはり快作でありました。1作
 目が映画ということに良くも悪くもこだわっていたのに対し、今回はよい意味でTVシ
 リーズ・テイストなので、実にのんびりとギャグの応酬を楽しみながら、いつのまにか
 ほろっと感動。佐藤順一監督のアニメって本当にいいなあ。

★まつかわゆまさん(シネマ・アナリスト)────────────────────

 【表ベスト】
  ●ドレスデン、運命の日
  ●ブラッド・ダイヤモンド
  ●ツォツィ
  ●こわれゆく世界の中で
  ●バベル
  ●クィーン
  ●明日、君がいない
  ●オール・ザ・キングスメン
  ●ラスト・キング・オブ・スコットランド ※3月封切
  ●ハンニバル・ライジング
  ●フランドル

  世界はひどい状況にある。過去も現在も。出口は見えない。それはなぜかというと、
 人間の本性が「悪」だからだ。でも……。という作品群。力技の目立つ作品群です。事
 実の理解や広さ深さと表現力に差はありますが、作り手の心意気は解る作品群です。

 【裏ベスト】
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
  ●ボンボン
  ●モンゴリアン・ピンポン
  ●サンジャックへの道 ※3月封切
  ●プロジェクトBB
  ●神童
  ●恋しくて
  ●THE焼肉ムービー プルコギ
  ●ラブソングができるまで

  世界がどうあろうと私は今けっこう幸せかもしれない、ということに気づきましょ
 う。どうにかなります。なぜかというと人間の本性は「善」だから。という、作品群。
 ほっとさせてくれます。それと、「プルコギ」の山田優。顔がどうも好きになれなかっ
 たけれど、本編の中で見せるとびげりに惚れました。

 【封切は終わったけれど…】
  「蟲師」「ホリディ」「フランシスコの二人の息子」「ブラックブック」「ナイト
 ミュージアム」「パラダイス・ナウ」「今宵フィッツジェラルド劇場で」

★皆川ちかさん(ライター)───────────────────────────

 【表ベスト】
  ●ツォツィ
  ●東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

  過酷な現状を生き抜く少年ツォツィの日々を、驚くほどヘヴィーでポップに描写する
 「ツォツィ」。ヘヴィーとポップの両立に、胸踊りました。

 【封切は終わったけれど…】
  「童貞。をプロデュース2 ビューティフル・ドリーマー」:「セキ☆ララ」の松江
 哲明監督による童貞プロデュースドキュメント第2弾。キープするほど病気に近くなっ
 てくる“童貞”を抱えた青年(80年代アイドルオタク)を、監督は終始客観視線で観察
 し続けて、最後にサプライズなオチが。“脱・童貞”して“まともデビュー”した「1」の
 青年よりも、病の深い今回の童貞の方がずっと面白いんだから、他人ってほんと残酷だ
 な。

★みのわあつおさん(ポップ・カルチャー評論家)─────────────────

 【表ベスト】
  1位)ラブソングができるまで
  2位)リンガー! 替え玉★選手権
  3位)ロッキー・ザ・ファイナル

  『ラブソングができるまで』は、ヒュー・グラント演じる80年代のポップ・スター
 が、デュラン・デュランのパロディであったり、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッ
 ドなどをネタにしたギャグが楽しい。『リンガー~』は、製作に回ったファレリー兄弟
 が、例によって障害者を笑いのネタにする輩をコケにした痛快作。『ロッキー・ザ・
 ファイナル』はスタローンも遊び心に満ちた演出が出来ることを証明してくれた。  

 【裏ベスト】
  『スパイダーマン3』の約30分のフッテージ上映ついに目撃! 映画版のヴェノム。
 コミックスと同じビジュアルに大感激。また、スパイディとサンドマンの対決シーン
 は、サンドマンの弱点も観せちゃってもいいの? と驚き。

★宮城正樹さん(映画&音楽の批評・分析家)───────────────────

 【表ベスト】
  1位)バベル
  2位)東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

  79回オスカーも英語圏以外の作品が惜敗した。1位は監督の作家性が出まくった第
 七藝術度の高さが敗因か。ディスコでの菊地凛子視点のサイレントとめまいを誘発しそ
 うな点滅映像が交錯する幻惑ショットほか映像がディープ衝撃。グランド・ホテル形式
 ワールド・ワイド版の傑作だ。2位は「砂の器」「フラガール」「GO」的な押しでは
 なく、ごく自然体の演技で感動を呼ぶ家族映画。簡単そうに見えるこの演出力と演技力
 は超ハイレベルのもの。

 【裏ベスト】
  1位)THE焼肉ムービー プルコギ
  2位)ママの遺したラヴソング

  『バベル』も家族ドラマ入りだが、この2本はさらに新味を加えている。『プルコ
 ギ』はこれが遺作となった田村高廣の、1分強の長回しによるストップ・モーション演
 技や家族の意味を子供たちに伝えるセリフが泣ける。ベタな家族愛が多い邦画の中でサ
 ラリとした兄弟愛演出がさわやか。『ママラヴ』は擬似家族ドラマを奏でて最後はサプ
 ライズへと導くアメリカン家族映画の粋を感じる1本。街も主人公で移ろいゆく四季の
 描写が物語と調和した。

 【封切は終わったけれど…】
  家族ドラマ入り体育会系映画2本。野球愛映画『バッテリー』は、球筋を見せるロン
 グ・ショット、捕手視点の、つまり観客へ球が来る動的場面、投球後に砂埃が画面の左
 下から右上へスローで流れるなどサラッと新開発のシーンを挿入している点がいい。ダ
 ンス・ムービー『ステップ・アップ』は『ドリームガールズ』風に映像でリズムを作っ
 ているが、映像のオリジンはなく音楽に合わせたものだ。だからMTVやPVノリで音楽
 的にはイケテる。

★宮崎祐治さん(イラストレーター)───────────────────────

 【表ベスト】
  ●ブラッド・ダイヤモンド

  レオナルド・ディカプリオが「ディパーデッド」より100倍いい。ダイヤモンドの密
 輸商という危い悪のヒーローながら、ジャイモン・フンスーとアフリカの大地を歩き出
 すとき、まるで<アメリカ映画ヒーロー史>と真っ直ぐつながる、胸のすくような格好
 良さを見せてくれる。そしてジェニファー・コネリーに対する男の優しさ。まるでボ
 ギーみたい。さすがエドワード・ズウィック監督。

 【裏ベスト】
  ●ラブソングができるまで

  観ている間ずっとニヤニヤ笑っている自分に気づいた。決してコメディの傑作とはい
 えないが、80年代の音楽を今でも引きずって歌うヒュー・グラントの照れない演技や
 相変わらずのマイペースでストレートなドリュー・バリモアの陽気さに映画を観る楽し
 さを思い出させてくれる。わけのわからないカルト監督の頭でっかち映画よりこういう
 映画のほうが、最近は正直好きだ。

★森直人さん(ライター)────────────────────────────

 【表ベスト】
  ●バベル
  ●明日、君がいない
  ●ママの遺したラヴソング

  『バベル』は圧巻の構築力。『明日、君が~』は、傑作『エレファント』に似ている
 けども、そのぶん差異が別の美点として輝く。
  『ママ~』は、よくある擬似家族物かと思ったらその先があった。スカーレット・ヨ
 ハンソンが本を読んでる姿もいいですね。

 【裏ベスト】
  ●黄色い涙
  ●恋愛睡眠のすすめ
  ●ダフト・パンク エレクトロマ

  『ダフト・パンク~』が意外なほど「巧い」のには驚きました。

 【封切は終わったけれど…】
  『パフューム ある人殺しの物語』、評判どおり面白かったです!

★山田宏一さん(映画評論家)──────────────────────────

  封切前・封切後を問わず、表ベスト・裏ベストを問わず、邦画・洋画を問わず、今月
 は「映画」から見放されたような思いです。さわやかというよりは自堕落、ほのぼのと
 いうよりは無気力、純粋というよりは拙劣、大胆というよりは下品、リアルというより
 は醜悪。たまたま、そんな作品にばかり遭遇してしまったのかもしれないのですが!
  思いがけなく楽しめたのはアメリカ映画ならではの単純な特撮アクションもの『ゴー
 ストライダー』(マーク・スティーヴン・ジョンソン監督)。「悪魔と取引した驚異の
 バイク・ヒーロー登場!」という惹句そのままのアメリカン・コミック・ヒーローを演
 じるのは、いつまでもバカバカしく若々しいニコラス・ケイジ。恋人役のエヴァ・メン
 デスは裸体も見せずにプレイボーイ・メイツさながらの肉感的淫らさです。
  ファウスト伝説のCG版現代西部劇といったところ。悪魔メフィストフェレスにはか
 つてニューシネマの名作『イージー・ライダー』のヒーローだったピーター・フォン
 ダ。火を吹く骸骨ライダーのニコラス・ケイジの助っ人役には、ワイルド・ウエスト・
 ショーのバッファロー・ビルのスタイルで馬を駆ってゴーストライダーを決闘の場、西
 部のゴーストタウンへと案内するサム・エリオットという楽しさです。
  スクリーンではなく、舞台で観た長塚京三主演の「グッドラック、ハリウッド」
 (リー・カルチェイム作、小田島恒志訳、山田和也演出)がタイトルそのままにアメリ
 カ映画の、それもフランク・キャプラやプレストン・スタージェスやビリー・ワイル
 ダーのハリウッドの夢をチラつかせた楽しさで、といってもノスタルジーなどに溺れる
 ことなく、その現代的な挫折感を「さらば、あとはよろしく」のひとことでしめくくる
 シニックなラストが秀逸でした。「SHOW THE COLORS!(旗を掲げよ)」という
 のは長塚京三氏の著書「私の老年前夜」のなかでサム・ペキンパー監督の西部劇『ダン
 ディー少佐』のせりふを題名にした一章ですが、これも合わせて、最新刊の氏のコラム
 集「破顔」とともに読みたいところです。

  モニカ・ベルッチ主演の最新作『ストーン・カウンシル』(「フランス映画祭
 2007」出品)を東京日仏学院の試写室で見る――プレスに「6月中旬銀座シネパトス
 にて公開」とあり、あたかもひところのクリント・イーストウッドのようにモニカ・ベ
 ルッチもシネパトス・スターになりつつある感じ。銀座シネパトスは大通りの橋の下に
 ある地下劇場のグループで、大型車などが走るたびに震動する特異な映画館です。アク
 ション映画などには、ときとしてその地響きが効果満点ということもあります!?

  3月17日(土)にNHK教育テレビの「ETV特集」という番組で放送された「今村昌
 平に捧ぐ――アカデミー賞受賞監督スコセッシがいま語る“にっぽん昆虫記”から“楢山
 節考”まで」をちょっと期待しすぎて見たせいか、拍子抜けの感じ。「私のアメリカ映
 画旅行」や「私のイタリア映画旅行」などあんなにすばらしかったのに……いや、それ
 とも、もしかしたら今村昌平そのものの問題か。4月半ばからはじまる東京国立近代美
 術館フィルムセンターの今村昌平追悼上映にも通うべきか、気が重くなりました。

★横森文さん(ライター&役者)─────────────────────────

 【表ベスト】
  ●バベル

  実はあれだけアカデミー賞などで騒がれながらも、筆者の耳に入ってきたのはよろし
 くない評ばかりだった。しかしやはり百聞は一見に如かず。見たらやっぱり面白いじゃ
 んか! モロッコ、アメリカ、日本、メキシコなどで舞台は壮大な展開だけど、描かれ
 るのはあくまでも人間の愚かしさ。全員が些細なキッカケで大きく運命が狂っていくこ
 とを通し、ほんの愚行が世界まで変える怖さを教えてくれる。ちゃんと生きたいと痛感
 させられた1本。

 【裏ベスト】
  ●かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート

  いやー、来たぜ、香港大活劇! ドニー・イェンの髪型にも笑わせてもらったし、壁
 までブチ抜く大アクションにも燃え燃え! とにかく楽しいの一言に尽きる作品だ。最
 近はなんだか血沸き肉踊る痛快アクションが世界的に減ってしまった感じで寂しかった
 ので、余計に胸にずぉーんと来てしまったのかも。

 【封切は終わったけれど…】
  『トゥモロー・ワールド』。最近DVDで見て、これは映画館で観なかったのは失敗
 と大後悔した1本。子供が誕生しなくなり、人類滅亡を感じさせる近未来を舞台にした
 アクション・アドベンチャーだが、驚かされたのはストーリーではなくその撮影。どう
 やって撮影したのかと首をひねりたくなるような、1カメ1カットが連発。その映像テ
 クニックだけでも映画ファンならマジ必見。

★渡部実さん(映画評論家)──────────────────────────

 【表ベスト】
  ●あしたの私のつくり方

  この春に観た映画で一番、心を動かされた作品です。1980年代から市川準映画に長
 く親しんでいる者としては、今までの諸作は、試行錯誤とも感じられ違和感を持った作
 品もありました。しかし、今回の女学生を主人公にした『あしたの私のつくり方』はま
 さに映画がぐいぐいと市川ワールドを切り拓いて行った会心作です。2人の女の子が小
 学、中学、高校時代までメール交換をする物語なのですが、これは小学生の少年がパソ
 コンの閉鎖的世界から自分を発見して外へ飛び出し、世間の開放感を体験する「ノーラ
 イフキング」(86年)を想起させました。市川映画は10代の少年少女を自然体で描く
 とその映画自体が力を持ってくる。今回は特にその情熱の高まりが素晴らしい。三十歳
 になる原作者、真戸香さんの(どんな三十歳の中にもこの十五歳の少女二人がいる)と
 いうコメントも印象的でした。
  さらに注目すべきは鈴木一博氏の撮影です。鈴木氏撮影になる「blue」(2001年/
 安藤尋監督)も2人の女子高校生の親密な友情を描いた作品でした。2人の会話に始ま
 り2人の肉体関係に至るまでの姿をあの映画は静的な画面からギリギリに摘出していま
 した。もっとも画面の光は劇中に見られる自動販売機の無機質のネオンのように(ちょ
 うどアントニオーニ的な)観客の心を射るような鋭さがあった。しかし、今回は光とい
 うものをルネッサンス絵画のように女学生の顔にほのかに明るく照射し、そこに自分探
 しをする少女の内面にまで映像が浸透するような透明感溢れる画面を作り上げていま
 す。もちろん、少女の意識の旅は彼女達だけの内的な時間が流れ、大人の私などは、そ
 の世界と付き合うにはいささか忍耐を要するわけですが、今回は市川準と鈴木一博の求
 めるものが一致しているように思われ、これほど魅力的な作品が誕生したのだと思いま
 す。
  この映画を観ているとたしかに少女はすでに大人の雰囲気を充分に持っているという
 ことが言葉以上に、映像から感じられます。私自身、9年前に少年映画論として単行本
 『鏡の国の少年たち』(三一書房)を上梓しました。あの自著では世界映画における少
 年愛に就いて自分なりに詳細に語った記憶があるのですが、少女の世界は何か畏怖する
 ものがあり、今日に至っています。つまり少女は理解できない。理解してはいけない。
 この自己認識が少女を理解する第一歩だと思っていたのです。しかし今回の映画『あし
 たの私のつくり方』は原作者と脚本家が共に女性ということを考慮しても、市川/鈴木
 コンビの想像した少女像のなんという清冽な素晴らしさ!(理解はできないが、素晴ら
 しさは感じることが出来るでしょう。)昨年の春は「ヨコハマメリー」でしたが、今春
 はこのような映画に出会えてとても嬉しい気持ちです。

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┣編集後記┫

◆12号です。丸1年です。読者の皆様、関係者の皆様、ありがとうございます。依然と
して存続が難しい売り上げでありますが、さすが1年、ご回答者のコメントは号を重ねる
ごとに益々サエわたり、面白くてなりません。ずっとどこまでも続けたいものであります
が…1年前のプレ創刊号の頃、増當竜也さんに、その魅力を教えていただいた「ケロロ軍
曹」の映画版第2弾『超劇場版ケロロ軍曹2 深海のプリンセスであります!』を見まし
た。圧倒的科学力を誇るケロン星から、辺境の地球(漫画ではポコペン、アニメではペコ
ポンと呼ばれる)侵略の先兵隊としてやってきたはずが、すっかり土地の住民と生活に馴
染んでしまったケロロ小隊。侵略者と侵略される(はずの)側の泣き笑いの「絆」を描く
のがこのシリーズ。ケロロ軍曹の言動からタッチは「のらくろ」、水木しげるの南の島の
戦記漫画のようであり、捕虜となりながらオタク文化にハマる軍曹の姿には『砂の女』も
思い出します。遅々として進まぬ侵略に、大本営から突き上げをくらう姿は、子供だけ
じゃなく、サラリーマンや中小企業の姿とも重なります。さて今回の映画はタルコフス
キーの『惑星ソラリス』で繰り広げられるジョン・フォードの『捜索者』。ジョン・ウェ
インの「家に帰ろう」の名セリフにはゴダールも涙したと山田宏一さんの講義でうかがい
ましたが、私はこの春休み漫画映画の同じセリフで何度も涙したのでした。涙どころか映
画館で嗚咽という赤っ恥の事態にまでなったのは、一緒に暮らしながらも片や侵略者であ
ることを、片や侵略者にとって最大の敵となることを譲るわけにいかない者同士の
「絆」、ケロロ軍曹と、軍曹が生活する家の女子中学生の〈家族のような肖像〉が描かれ
た一瞬のせい。このシリーズでは、そんな危うい幸福な状態がずっとどこまでも続いてい
くかのようです。(れがあるF)

◆皆様のおかげで丸1年、続けることができました。ありがとうございます! 今回は表
も裏も「同列○位」が連なる大接戦。ゴールデンウィークに向けて面白い映画が出揃った
ということでしょうか。しかし、アフリカ映画初のアカデミー賞受賞作品『ツォツィ』が
R-15指定になったとか。私も見ましたが、それほど強烈なバイオレンス描写があるとは
思えません(セックス描写もない)。経済格差の底辺にいる若者の現実を描いた映画を、
日本の若者に見せてはならない理由とは……? (れがあるU)

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■発行日:2007年3月30日
■発行者:れがある http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest
■定 価:315円(税込)
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