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2006年7月号

〓〓〓〓〓〓試写室だより 封切はこれからだ!〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓第三号〓〓〓

     映画を見るプロが選ぶベスト映画&裏ベスト映画
      ∴・∴・∴2006年7月封切り篇∴・∴・∴

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【ベスト】=これぞまぎれもなく、映画を見るプロが選んだ7月の最高作。心して見よ。
【裏ベスト】=出来、不出来は二の次、偏愛あり、ヒイキの引き倒しあり、極私的なケッサク選!
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┣今月の執筆陣(50音順)┫
◇秋本鉄次さん 映画評論家
◇安藤智恵子さん ライター
◇宇田川幸洋さん 映画評論家
◇内海陽子さん 映画評論家
◇浦崎浩實さん 激評家(映画評、劇評)
◇江戸木純さん 映画評論家
◇大森さわこさん 映画評論家
◇加藤久徳さん 映画ライター
◇河原晶子さん 映画・音楽評論家
◇黒田邦雄さん 映画評論家
◇塩田時敏さん 映画評論家
◇品田雄吉さん 映画評論家
◇ジャンクハンター吉田さん 編集プロダクション代表
◇高橋諭治さん 映画ライター
◇高村英次さん 映画ライター
◇暉峻創三さん 映画評論家
◇西脇英夫さん 映画評論家
◇野村正昭さん 映画評論家
◇増當竜也さん 映画評論家
◇まつかわゆまさん シネマアナリスト
◇皆川ちかさん 雑文業
◇みのわあつおさん ポップ・カルチャー評論家
◇宮城正樹さん 映画&音楽の批評&分析家
◇宮崎祐治さん イラストレーター
◇森直人さん ライター
◇山田宏一さん 映画評論家
◇渡部実さん 映画評論家・日本大学藝術学部講師

◆各人のプロフィール、近況、著作はHPの「執筆者プロフィール」に掲載◆
    http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest

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★秋本鉄次さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ディセント
     http://www.descent.jp
  ●サイレント・ヒル
     http://silenthill.jp/main.html
  ●日本沈没
     http://nc06.jp/
  ●恋する日曜日

  7月は見た範囲の作品では、年間ベストテン級の映画が少なかった気がする。その中
 で「ディセント」はガテン系の美女たちの洞窟探検ホラーで楽しめた。血みどろ、汗ま
 みれ、泥だらけ、汚れるほどにエロい。同じく「サイレント・ヒル」もヒロイン、ラダ
 ・ミッチェル嬢ドロドロになって奮闘の“アメリカの忘れられた田舎町は怖いよ”もの
 (そんなジャンルあるのか?)。「日本沈没」はオリジナルより楽しめた。代理首相の
 トンデモ野郎、アメリカは結局日本を救わない、あえて座して死を待つ日本人の死生観
 など興味深かった。ただし、あの状態でエッチしないクサナギってドーヨ? 廣木隆一
 監督だから見た「恋する日曜日」は意外な拾い物の青春四角関係シネマの小品だった。

 【裏ベスト】
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●機械じかけの小児病棟
     http://www.xanadeux.co.jp/kikaijikake/
  ●アルティメット
     http://www.xanadeux.co.jp/ultimate/

  「2番目~」は、邦題に騙されるな、のプロ野球ファンご用達映画。レッドソックス
 命の男とバリモアちゃんの恋のゆくえは、スワローズ・ファンのボクにはよく分かる。
 「メリーに首ったけ」などファレリー兄弟の異色ラブコメ・シリーズはハズレなし。
 “病院ホラー”として捨て難い味の「機械じかけ~」、男も女も肉体派のボクとしては
 「アルティメット」も一応押さえておきたい。

 【封切は終わったけれど…】
  「ポセイドン」はオリジナルには及ばずとも、“海の男”ペーターゼンならではのシ
 ビアなサバイバル・ゲーム映画だった。パニック大作で100分以下というのも“英断”
 (by長尺映画撲滅委員会)。それに引き換え、同じ“海難もの”でも封切りで見た「海
 猿2」はご都合主義の甘ちゃん映画で、見てる最中イライラしっぱなし。

★安藤智恵子さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●奇跡の夏
     http://www.kisekinatsu.jp/
  ●ディセント
     http://www.descent.jp

  子供+難病+韓流で「フン、お涙頂戴かよ」と色眼鏡で見始め、数十分後には号泣し
 ていた『奇跡の夏』。“天才”子役たちの存在感が光っているのは、さりげなく脇にい
 る大人の芝居がキッチリしているからこそなのね。リアリティとファンタジー、笑いと
 涙の配分が、いい塩梅でした。女だらけの血みどろ洞窟ホラー『ディセント』はホラー
 というより異常心理サスペンスとして面白かった。閉所・暗所恐怖症のある人は、見る
 前に心と体と薬の準備をお忘れなく。

 【裏ベスト】
  ●ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男
     http://brianjones.jp/
  ●おさるのジョージ
     http://www.cg-movie.jp/

  ローリング・ストーンズのメンバーの変死事件を描く『ブライアン~』は、マゾのホ
 モ(本人に自覚なし)による他殺説に興味津々だけど、せっかくいい男がいいモノを出
 しているのに見せてくれない映倫が憎い。今どきめずらしい2Dアニメ『おさるのジョー
 ジ』は、懐かしい原作絵本を思い出しながら、童心にかえって楽しみました。

【封切は終わったけれど…】
  人気ラッパー、50セントの自伝的ドラマ『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』
 は、その半生の凄まじさと彼自身の童顔とのギャップが何ともたまらない。格差とは実
 際どういうものであるのかを痛々しく見せつけてくれます。映画・音楽ファンのみなら
 ず、純ちゃんファンにもオススメ。「ラブ&ピースだYo!」とか言ってるお気楽Jラッ
 パーの皆様も是非ご覧下さい。

★宇田川幸洋さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●M:i:III
     http://www.mi-3.jp/top.html
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/

  『M:i:III』は、ほんとに息をつくヒマもないほど、手に汗にぎりっぱなしのスリ
 ラー・アクション。トム・クルーズも走りっぱなしだ。ベルリン、ヴァチカン、上海と
 いう背景の変化のつけかたもたのしい。『キスキス,バンバン』で注目したミシェル・
 モナハン、かわいい。文句なしである。
  『2番目のキス』は、ボストン・レッドソックスおたくの男とキャリア・ウーマン
 (どっちも30歳)の、どうってことない恋愛コメディーなのだが、ドルー・バリモアが
 出てると愛がホンモノになる。男のほうはどうでもよろしい。これを見ると、レッド
 ソックスにくわしくなった気になれる。
  以上2本とも、主演スターがプロデュースにくわわっている作品。こういう普通の映
 画を限度ギリギリまでおもしろくしていこうとする姿勢を尊敬する。

 【裏ベスト】
  ●ミッドナイト・ムービー
     http://www.cinemacafe.net/special/midnight-movie/

  『エル・トポ』から『イレイザー・ヘッド』まで、ああそうか、みんな'70年代のこ
 とだったんだなあ、とふりかえらせるドキュメンタリー。

 【封切は終わったけれど…】
  『アサルト13/要塞警察』。浅草中映で見て、あまり評判になっていなかった映画だ
 が、おもしろかった。このごろアクション映画は、よくできていても評価されない傾向
 があるんじゃないかと思った。
  浅草中映は、となりの浅草名画座といっしょの月間プログラムを印刷していて、作品
 解説の文章にただならぬ熱気があふれている。小さなコラムもたのしい。2、3ヶ月ま
 え、「任侠俳句」なんてものを紹介していた。任侠に関係のある内容を、五・七・五で
 なく、八・九・三でよむというもの。笑ったね。作例ものっていたが、「三」がむずか
 しい。いや「九」もか。

★内海陽子さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/

  キワモノとは一線を画する非常に洗練された母性愛の物語。主演のフェリシティ・ハ
 フマンはウィリアム・H・メイシー夫人で、この映画でゴールデングローブ賞を受賞。
 男の肉体を持つ女のぎこちなさ、屈辱感、それゆえの繊細な感受性を豊かに表現し、笑
 わせ、泣かせ、考えさせる。女のようにも男のようにも見えるヒロインを鑑賞している
 うち、その女心だけが身に沁みてくる快さ。女優の自我をみじんも感じさせないハフマ
 ンに目を見張る。

 【裏ベスト】
  ●笑う大天使(ミカエル)
     http://www.michael-movie.com/

  コメディエンヌとしてめざましい成長を見せる上野樹里主演のオトメチック・アク
 ション・コメディー。学園の制服はお嬢さま風というよりコスプレ風で、そのせいか三
 人娘以外の女たちはみなどこかいかがわしい。古風な“お嬢さま”をキャスティングす
 るのはもはや不可能なのだから、その方針は正解だ。明るいいかがわしさを満喫させる
 ことこそ、この映画の狙いどころだろう。上野の兄役の伊勢谷友介のわざとらしい伯爵
 ぶりも好ましい。

★浦崎浩實さん(激評家)――――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/
  ●幸せのポートレート
     http://www.foxjapan.com/movies/familystone/
  ●胡同のひまわり
     http://www.himawari-movie.com/

  「ゆれる」の香川照之が素晴らしい。長男の屈曲した人物がよく出ている。後の3作
 も主人公の役者が楽しく、かつ感服。「胡同~」のラスト、市川崑「雪之丞変化」を何
 となく連想した。

 【裏ベスト】
  ●ディセント
     http://www.descent.jp
  ●ジョルジュ・バタイユ ママン
     http://www.at-e.co.jp/maman/

  「ディセント」は舞台となる“洞窟”や生き物に意味づけできそうなところが、いい。
「ママン」はよくわからん、が、バタイユ“入門”くらいの消極的意義はあるかも。

 【封切は終わったけれど…】
  日本名と韓国名を持つ映画カメラマンのドキュメンタリー(タイトル失念、長田勇市
 撮影監督作品)がシネマアートン下北沢で上映されていたはずだが、見そびれて、残念
 な思いをしています。どこかで上映していたら、教えて!
 (編集部註 『2つの名前を持つ男』)

★江戸木純さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/
  ●ディセント
     http://www.descent.jp
  ●M:i:III
     http://www.mi-3.jp/top.html

  『2番目のキス』は女性向けの腑抜けた邦題とはまったく違う野球狂の恋を描いた男
 の映画で、サッカー狂を描いたオリジナル『ぼくのプレミアライフ』より断然面白い。
 ファレリー兄弟こそ、サム・ペキンパー、ロバート・アルドリッチ亡き後、アメリカの
 男を描く男性派映画の巨匠である。『トランスアメリカ』は女優フェリシティ・ハフマ
 ンが、性転換手術を受ける男性の切ない男心(?)を繊細に演じる見応えあるドラマ。
 『ディセント』は洞窟というシチュエーションだけで見せきる『脱出』に『食人族』を
 足したようなパワフルなホラー。ショック度、精神的疲労度共にこの夏1番。『M:
 i:III』はドラマとしての詰めは甘いがアクションは見応え満点、充分に劇場で観て損
 のない出来。

 【裏ベスト】
  ●ジダン 神が愛した男
     http://www.zidane.jp/

  サッカーのある一試合(レアル・マドリードVSビジャレアル)で、徹底してジダン
 だけをあるいみストーカー的視線で追った作品。引退間近のスーパースターがときに華
 麗に熟練の技を披露し、ときに自分のプレイに苛立つ姿はまさに筋書きのないドラマ。
 スポーツ観戦とは一瞬を待つことだと改めて痛感させられる。まったく万人向けではな
 いが分かる人には泣けてしびれる作品。『レアル・ザ・ムービー』『GOAL!』などの
 100倍素晴らしい。

 【封切は終わったけれど…】
  『ピンクパンサー』。試写を見逃して劇場で見たが、あまりの面白さに爆笑しっぱな
 しだった。近年のアメリカン・コメディでは断トツの出来で、ピーター・セラーズ版よ
 りも格段に笑える。
 ジャン・レノも『ダ・ヴィンチ・コード』より100倍素晴らしい。
  因みに先月入れ忘れたベストは『ココシリ』『猫目小僧』『インサイド・マン』『母
 たちの村』の4本。

★大森さわこさん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――

 【7月の映画】
  ●カーズ
     http://www.disney.co.jp/movies/cars/
  ●胡同(フートン)のひまわり
     http://www.himawari-movie.com/

  今は試写にほとんど行けないので、苦しい在庫の中から選出(すみません)。
  前者は(あえて)レースカーを使って描いた“スローライフ”のすすめなのかな?
 P・ニューマンが声優の車は、西部劇の伝説のヒーローですね。ナット・キング・コー
 ルの「ルート66」やジミ・ヘン版の国歌を聴いてから見ると、さらに楽しめる作品
 かも。
  後者は中国の父と息子の歴史が見える、叙情的な映画。まるでタイプが違う2本で
 すが、共通しているのは、失われたもの(時代)を慈しむ視点でしょうか。

【封切は終わったけれど…】
  「嫌われ松子の一生」と「プルートで朝食を」を劇場で見ましたが、どちらも、お
 もしろかったです。この2本の共通点にも思わずニンマリ。
  後者の主演男優(女優?)のキリアン・マーフィは、この後、ケン・ローチの新作
 (カンヌのパルムドール受賞!)もあるし、ダニー・ボイルとの再コンビ作もある
 し、英国の若手男優では、今、一番おもしろい!
  ジミに消えてしまった湾岸戦争映画「ジャーヘッド」だけど、サム・メンデス監督は
 男優を撮るのがうまい。主演のジェイクもいいけど、やっぱり、狂気と色気のピーター
 ・サースガードね(「アメリカン・ビューティー」の隣のオヤジを思い出す)。意外に
 ポップな音楽センスもいけてました。

★加藤久徳さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/
  ●2位)ディセント
     http://www.descent.jp
  ●3位)M:i:III
     http://www.mi-3.jp/top.html
  ●プラス1)怪談新耳袋 ノブヒロさん
     http://www.actcine.com/sinmimi/nobuhiro.html

  『M:i:III』。シリーズ3作目にして、やっと本物の『スパイ大作戦』になったよ
 うだ。これまでの2作は『トム・クルーズ大作戦』では? と思えるほど単体の活躍め
 いていた。なにしろ、トムの役名はおろか、仲間がいたことさえ記憶にない。テレビの
 方はあくまでもチームであり、ピーター・グレーヴス、マーティン・ランドー、バーバ
 ラ・ベイン、グレッグ・モリス、ピーター・ルーパス、レナード・ニモイ、(お早う、
 フェルプス君)等々、おじさんはすぐに名前が出てくる。そうでなければミッション・
 インポッシブルではない。
  今回はトムのスター賛美は変わらないものの、チーム・ワークというものを十分魅せ
 てくれる。いつもは濃いイメージの美形ジョナサン・リース=マイヤーズが、クルーズ
 のチームメイトとしてディフェンスに徹しているのが珍しく、かえって好感が持てる。
  そして抜群なのが音楽。オリジナルのラロ・シフリンのテーマ・ミュージックのアレ
 ンジが効いていて、思わず体が動いた。シフリンの曲が鳴りっぱなしであることこそ、
 『スパイ大作戦』の証であった。(※ホームページに『トランスアメリカ』『ディセン
 ト』のコメントを掲載)

 【裏ベスト】
  ●1位)リブ・フリーキー! ダイ・フリーキー!
     http://www.livefreaky.com/
  ●2位)2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●3位)バタリアン4
     http://www.batarian4.jp/
  ●プラス1)レイヤー・ケーキ
     http://SonyPictures.jp/movies/layercake/index.html

  ジョージ・A・ロメロが監督した『ゾンビ』の“バッタモン”という感じで始まった
 『バタリアン』シリーズだが、いつの間にやら4作目。D・オバノンによる1作目のパ
 ロディとはっきり分かるシーンが出てきて笑わせる。リアリティゼロ。哀れな犠牲者が
 頭を噛まれる度にクスッと微笑してしまう。ロメロ版の壮絶さはなく、ほのぼのとして
 おり、『東京ゾンビ』のそれに近いが、性的卑猥さが本作にはなく、いたって健康的 
 だ。とはいえ、マッドサイエンティストを演じるピーター・コヨーテの薄気味悪さが、
 この映画をまんまと“童話”の世界にしているのがいい。全編を通じてこの人のキモサ
 が抜きんでている。
  本作の売り物の一つはロケ地だろう。映画の出だし部分がウクライナにあるチェルノ
 ブイリである。原発事故後、劇映画に実際のチェルノブイリが登場するのは本作が最初
 らしい。『僕の大事なコレクション』など、ウクライナが舞台になる映画が最近多いが、
 チェルノブイリのチの字も出てこないのが普通だから、堂々と汚染地域として映画に使
 用するあたり、フィルムメイカーたちの意気込みは(不謹慎だが)買える。(※ホーム
ページに『2番目のキス』のコメントを掲載)

★河原晶子さん(映画・音楽評論家)―――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/

  「間宮兄弟」とは対極にある、残酷で厳しくて愛おしい兄と弟の絆の物語です。もち
 ろん、原点は聖書の“カインとアベル”、したがって「エデンの東」です。香川照之と
 オダギリジョー、そして32才(!)の西川美和監督、見事です。

 【裏ベスト】
  ●ジョルジュ・バタイユ ママン
     http://www.at-e.co.jp/maman/
  ●ブラウン夫人のひめごと
     http://www.ks-cinema.com/movie/festival.html

  前者はG・バタイユの「聖なる神」三部作の一部、後者はステファン・ツヴァイクの
 「女の二十四時間」の映画化です。ツヴァイクのこの小説には思い入れがあってうれし
 かったのですが、脚色のしすぎで原作の香りがなくなっていました。バタイユの世界は
 やっぱり文学で味わうべきでした。

★黒田邦雄さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●蟻の兵隊
     http://arinoheitai.com/
  ●チーズとうじ虫
     http://chee-uji.com/

  「ゆれる」は現代版『カインとアベル』の物語として秀逸。「蟻と兵隊」は<日本軍
 山西省残留問題>の何たるかを明快にするドキュメンタリー映画だが、語り口がこなれ
 ていて題材の硬さを感じさせない。「チーズとうじ虫」は若い女性監督がガンを宣告さ
 れた母親の最期の日々をカメラに収めたドキュメンタリー映画で、美大出身らしい映像
 センスと家族の死の捉え方が新鮮。

 【裏ベスト】
  ●トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/

  よく出来ているのだが、性同一性障害で性転換手術を受ける男性を女優が演じている
 ことにはやっぱり抵抗を感じた。ペニスを見せての立小便シーンなんて、いくらなんで
 もグロテスク。不思議なもので、女優が男性を演じるより、男優が女性を演じる方が自
 然(?)に見えるものですよね。

 【封切は終わったけれど…】
  1970年代の人気ロック・バンドが2004年に再結成してロンドンの音楽フェスティ
 バルに出演する様を描いた「ニューヨーク・ドール」。ベーシスト、アーサー・“キラ
 ー”・ケインの変身ぶりが感動もの。

★塩田時敏さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●神の左手 悪魔の右手
     http://www.kaminohidarite.com/

  「神の左手 悪魔の右手」で金子修介完全復活!! オダジョーに激しいツバ性交させ
 る「ゆれる」も堂々たる傑作だが、何より宿願のゴジラ以降、抜けガラ状態だった金子
 の復活が嬉しい。先輩・那須博之の弔い合戦である本作を期に、本気モードのネクスト
 Jホラーとでも呼ぶべき怪作だ。まさに“田口の左手 トモロヲの右手”な本作は、
 NHK「プロジェクトX」で封印されていたトモロヲ氏本来の怪演ぶりも再起動され嬉し
 い限り。

 【裏ベスト】
  ●男はソレを我慢できない
     http://otoko-sore.excite.co.jp/
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/

  「男はソレを我慢できない」はタイトルの方が面白いが(笑)、逆に軟弱な邦題にダ
 マされてはいけないのがファレリ-兄弟のクリーン・ヒット「2番目のキス」。“ソッ
 クス、セックス、ブリースィング”と台詞にもあるのだから、せめて「2番目“は”キ
 ス」ぐらいの邦題にしなくちゃね。オタク愛だぜ。

★品田雄吉さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/
  ●幸せのポートレート
     http://www.foxjapan.com/movies/familystone/

  「ゆれる」はすごい。人間はみんな人に明かせない心の闇を抱え込んで何食わぬ顔で
 生きている。「蛇イチゴ」の宮迫博之、今回の木村祐一と、西川美和監督がお笑い系の
 タレントをうまく使っているのにも感心した。半年ほど前、テレビのクイズ番組で木村
 祐一と一緒に出たことがあり、頭のいいタレントだと思った。「トランスアメリカ」と
 「幸せのポートレート」は、ともに肉親や家族の問題を取り上げている。それが今のア
 メリカ人にとってもっとも重要な問題なのだとわかる。

 【裏ベスト】
  ●ローズ・イン・タイドランド
     http://www.rosein.jp/
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●レイヤー・ケーキ
     http://SonyPictures.jp/movies/layercake/index.html

  テリー・ギリアムはもっと政治的な題材を取り上げた方がいいのでは。オタクがオタ
 ク的題材をやるのは破壊力が生まれない。「2番目のキス」は、ファレリー兄弟もおと
 なしくなった。「レイヤー・ケーキ」は次期ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ
 がなかなかいい。

 【封切は終わったけれど…】
  「ポセイドン」は実に単純なデザスター・スペクタクルだった。

★ジャンクハンター吉田さん(編集プロダクション代表)――――――――――――――

 【ベスト】
  ●リブ・フリーキー!ダイ・フリーキー!
     http://www.livefreaky.com/

  チャールズ・マンソンと彼に洗脳された一派が、ハリウッドでシャロン・テートを殺
 して捕まるまでの実際に起こった事件を、ストップモーションの人形劇でトレースして
 いるのが痛快。セックス&ドラッグに殺人と、毒々しい粘土人形たちが大暴れ。『チー
 ム☆アメリカ』よりもこちらの方が先に完成していたので、人形同士のセックス描写は
 全米で劇場公開されてたら世界初だったのになぁ。パンク好きにもオススメの傑作であ
 り怪作!!

 【裏ベスト】
  ●サイレントヒル
     http://silenthill.jp/main.html

  テレビゲームで現在パート4まで発売されている作品の実写映画化だが(パート5が
 鋭意製作中)、キャストを地味な配役にし、世界観をゲーム同様にコラージュした美術
 セットで観る者を押し迫らせる展開は本ゲームをプレイしたことのある者でないと、ゴ
 シック的な雰囲気を理解するには100%とは行かない。しかし、アドベンチャーゲーム
 っぽいストーリー展開は昨今のゲーム世代を意識した丁寧な作りで最後のオチもGood!

 【封切は終わったけれど…】
  『風雲児~長者番付に挑んだ男~』。ロス疑惑の三浦和義氏がプロデュースした映画
 という部分ばかりが目立っていた作品だったが、『必殺』シリーズのキャメラマンであ
 る石原興が監督したことを忘れてはならない。本作でも光の陰影を独特の手法で巧みに
 操り、近年はヤクザ物ばかりを多く撮っていたが、往年のファンならば綺麗な絵の撮り
 方が全く錆び付いていなかったところに注目して欲しい。

★高橋諭治さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)サイレントヒル
     http://silenthill.jp/main.html
  ●2位)ディセント
     http://www.descent.jp
  ●3位)ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●4位)2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●5位)トランスアメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/


  夏だ! ホラーで納涼だ! というわけで今月はハイレベルなホラー2本が上位にラ
 ンクイン。「サイレントヒル」は異様に映像のクオリティが高く、霧のゴーストタウン
 の美しい情景に思わずうっとり……。主演女優ラダ・ミッチェルの泥と血にまみれた熱
 演がまたすばらしい。洞窟ホラー「ディセント」は、6人の冒険ウーマンが引きずり込
 まれる地獄絵図の凄まじさに「そこまでやるか!」と唖然。この監督、筋金入りのサ
 ディストですな。続く3~5位もジャンルはバラバラながらどれも充実の仕上がりで、
 今月は豊作でした。

 【裏ベスト】
  ●1位)機械じかけの小児病棟
     http://www.xanadeux.co.jp/kikaijikake/
  ●2位)ハード キャンディ
     http://www.hardcandy.jp/

  おっと、裏ベスト1位もホラーになってしまった。「機械じかけの小児病棟」は、筆
 者がかねてから傑出した才能の持ち主とにらむスペインのホラー専門監督ジャウマ・バ
 ラゲロの長編第3作。「ネイムレス 無名恐怖」「ダークネス」という前2作よりは不
 条理感が薄まったものの、“機械じかけの怨霊”が猛威をふるうクライマックスにはた
 だならぬ迫力がある。「ハード キャンディ」は14歳のヒロインに扮した主演女優エレ
 ン・ペイジに一票。か弱い赤ずきんちゃんを装ったロリータなルックスと、抜群の演技
 力とのギャップに脱帽です。

 【封切は終わったけれど…】
  先月号で「ホラー&堀北真希の組み合わせが気になる」と書いた「着信アリ Final」
 をその後観賞。堀北真希が悪霊におののく話かと思いきやそうではなく、彼女は邪悪な
 ムードを漂わせてドスの利いた演技を披露していた。うむぅ……。

★高村英次さん(映画ライター)―――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)幸せのポートレート
     http://www.foxjapan.com/movies/familystone/
  ●2位)カーズ
     http://www.disney.co.jp/movies/cars/
  ●3位)ハイジ
     http://www.heidi-movie.jp/

  婚約者の家族とトラブる映画は山ほどあるが、『幸せのポートレート』は今まで最高
 の出来映え。マリッジブルーのドタバタで笑わせ、最愛の家族との別れで泣かせる。だ
 がアニメの『カーズ』も“泣き”じゃ負けてない。郷愁と友情がまさにラッシュ(押し
 寄せる)! また名作童話の『ハイジ』は、少女役と爺さん役がハマッて、清清しい山
 岳の風景にも心洗われる。『M:i:III』もいいけど小粒でピリリな上記3作をお勧め!

 【封切は終わったけれど…】
  『日本の青春』(1968)は、重厚壮大なタッチで鳴らした小林正樹監督が珍しくコ
 ミカルなタッチを交えて撮った反戦映画。高度成長の中、藤田まこと(中村主水を演じ
 るずっと前)扮する戦中派の中年弁護士が、家族や仕事、かつての恋人との間で辛酸を
 なめる。軍隊時代に自分を虐待した上官に対する藤田の怨念、彼の息子(黒沢年男)が
 発する再軍備批判が強烈で心に焼きつく。昨今の憲法改変論議は、この映画を見てから
 してもらいたい。

★暉峻創三さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●―保留―

  既に見たあらゆる知人、友人の評価、そしてデビュー作『蛇イチゴ』の破格の出来栄
 えからして、今月のベスト作品は『ゆれる』に決まり! と思っているのだが、肝心の
 自分は未だに見れてません。

 【裏ベスト】
  ●『グエムル 漢江の怪物』の特報 ※9月公開
     http://www.guemuru.com/

  9月2日公開、ポン・ジュノ監督(『殺人の追憶』)の最新作『グエムル~』公式サ
 イト(http://www.guemuru.com/)上で見れる特報。もちろん9月の【ベスト】もこの
 映画であることを、ここで予め予告しておきます。

 【封切は終わったけれど…】
  先月は参加しそびれましたが、『ココシリ』が一押しです。しかしこの映画の配給会
 社(ソニー・ピクチャーズ!)、同監督のデビュー作以来一貫して監督名を「ルー・
 チューアン」とし続けてるのは、あまりにもお恥ずかしい誤記。ところで今月は、重要
 な(?)お知らせが。HP上の「執筆者プロフィール」見てください。
 (※正しくはチュアンと、のばさないそうです。 編集部)

★西脇英夫さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)蟻の兵隊
     http://arinoheitai.com/
  ●2位)アルティメット
     http://www.xanadeux.co.jp/ultimate/
  ●3位)M:i:III
     http://www.mi-3.jp/top.html
  ●4位)胡同のひまわり
     http://www.himawari-movie.com/
  ●5位)ディセント
     http://www.descent.jp
  ●6位)ハード キャンディ
     http://www.hardcandy.jp/

  1位は今回のベストワン、「ゆきゆきて進軍」と並ぶ、戦争ドキュメントの傑作。2
 位はベッソン印アクションの快挙。無名俳優の驚異的な身体能力に舌を巻く。3位はシ
 リーズIIIにしてはまだまだよく出来ていて、安定感あり。4位のほのぼの感は懐かしく
 も感動的。古い日本映画を観ているようで泣ける。5位はホラーを超えたサスペンス。
 筆者のようなホラー嫌いも楽しめる。6位は脚本、演出、演技の全てがよく出来ている
 サスペンスの佳作。

 【裏ベスト】
  ●1位)サイレントヒル
     http://silenthill.jp/main.html
  ●2位)機械じかけの小児病棟
     http://www.xanadeux.co.jp/kikaijikake/
  ●3位)奇跡の夏
     http://www.kisekinatsu.jp/

  1位は内容から言えば大したことはないが、見せ方が巧い。つじつまのあわないとこ
 ろは目をつぶって観よう。2位はチープさがかえって気味悪さを感じさせ、ウリ(PR)
 ほど『痛さ』は伝わってこないが、発想のユニークさが買い。3位は涙と感動押し売り
 の、難病物映画の大嫌いな筆者にも、一応納得できる作品。それにしても、難病と子供
 を組み合わせるアザトさが気になるが。

 【封切は終わったけれど…】
  TVドラマシリーズの「プリズン・ブレイク」を13話まで(これで前半)観たが、
 「24」ほどではないにしても、さすがに観はじめたら止まらない。主人公を刑務所に閉
 じ込めたままで、13話も興味深く引きずっていく脚本に脱帽。主演の新人俳優がかなり
 いい。

★野村正昭さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●王と鳥
     http://www.ghibli.jp/outotori/

  昨年シナリオを読んだ時(当時の題名は「ゆれる架け橋」だった)には、これはむし
 ろ是枝裕和監督が撮った方がいいのではと不遜な感想を抱いたりもしたのですが、完成
 した作品を見て西川美和監督の実力には恐れ入りました。「王と鳥」を絶賛する高畑勲
 監督と宮崎駿監督は同じ誉めるにしても、全く異なる視点からなんだろうなあ。前者は
 主題と社会性で、後者は語り口と空間設計か!? ところで「やぶにらみの暴君」を現在
 見るのは不可能でしょうか。ぜひ見たいのですが。

 【裏ベスト】
  ●ラブ★コン
     http://www.lovecom-movie.com/
  ●ハチミツとクローバー
     http://www.hachikuro.jp/
  ●神の左手 悪魔の右手
     http://kaminohidarite.com/

  この3本も、既に公開された「海猿 LIMIT OF LOVE」も「デスノート・前編」も「テ
 ニスの王子様」も、夏に公開される「花田少年史」も結構楽しめたのですが、共通して
 いるのは全て漫画なり劇画の映画化。これは昨今、小生が漫画や劇画に疎く、無知なせ
 いなのか、それとも……。原作と映画のちがいに怒っている知人も多いのですが、原作
 は原作、映画は映画と寛大な心で臨むわけにはいかないものか。しかし、一本の映画と
 してみても「笑う大天使(ミカエル)」はヒドかったなあ。

★増當竜也さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●日本沈没
     http://nc06.jp/

  先月の『ポセイドン』ともども、特にベストというわけではないのですが、よくぞこ
 こまで健闘したという意味で。今『日本沈没』をリメイクする上で必要なポリシーがき
 ちんと入っているのが何よりも嬉しく、樋口真嗣監督の演出も確実に『ローレライ』か
 ら上手くなっている。多すぎるくらいの前作のオマージュも微笑ましく、そんなオリジ
 ナルの大ファンがあえてオリジナルと違うものを目指したという意味では『ポセイド
 ン』と真逆に位置する作品です。

 【裏ベスト】
  ●―なし―

  あまり新作を観られなかったことと、観た中でウヒョヒョ!と思えるものがなかった
 ので。逆に『M:i:III』みたいに、ワーストにするのも空しいくらいどうでもいいのは
 観ましたが……。まだ観られないアニメ『時をかける少女』が、実は『ゲド戦記』より
 も気になってはいます。

 【封切は終わったけれど…】
  3時間弱のTVムービー『ポセイドン・アドベンチャー』。テロ活動を描く最初の1時
 間は退屈だが、惨劇が始まってから脱出組が先手と後手の2組に分かれる展開がいい。
 神父役ルトガー・ハウアーがオリジナルと違い、どこか情けない風なのが意外な妙味。
 レスキュー部隊の動向なども興味深い。『ポセイドン』にがっかりしたオリジナルの
 ファンは、むしろこちらのほうに好印象を抱くかも。ただ、演出がもう少し達者だった
 らなあ……。

★まつかわゆまさん(シネマアナリスト)―――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ローズ・イン・タイドランド
     http://www.rosein.jp/

  見ている人の世界をひっくり返すという点で、ギリアムは今でも毎回違うものを考え
 ているのが偉いなと。
  彼は映画界一のラ・マンチャニスト(ドン・キホーテを愛する人々)だと思っている
 が、本作はそのいい例だと思う。
  さらに、子どもに対する信頼という点でも大いに共感する作品なので。


 【裏ベスト】
  ●カーズ
     http://www.disney.co.jp/movies/cars/
  ●ディセント
     http://www.descent.jp
  ●ミッドナイトムービー
     http://www.cinemacafe.net/special/midnight-movie/
  ●ハチミツとクローバー
     http://www.hachikuro.jp/
  ●トランス・アメリカ
     http://www.transamerica-movie.jp/
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/

  一般的にはこっちの方がベスト、という選び方になるのだろうけれど、今月でよく出
 来てたな、面白かったなという作品をあげる。
  見終わったときには満足しているのだけれど、さて、じっくりと考えて行くと「あ
 れ?!」と思うことがぽろぽろと出て来てしまう作品が今月は多かったような。
  たぶん作り手は思いのたけを語っているのだろうけれど、そこで抜け落ちてくる本人
 も気付かない視点があり、私にはそれこそが大事だったりするんだね、多分。
 「カーズ」にはマイノリティはいるのか、とか「ディセント」だとイギリス人はいまだ
 に“ヤバンジン”恐怖があるのか、とかなんで父親なんだ、とか。そんなときは、面白
 いと思った自分が悔しかったりします。

 【封切は終わったけれど…】
  「六ヶ所村ラプソディー」公開が決まりました。よろしく。
  テレビのCMで「トイレブラシに雑菌がイッパーイ」「カビの胞子を吸い込んで、コワ
 ーイ」なんてのを見ると、「でも放射能を帯びたチリや空気はこわくなーい」のかよ、
 と思う。「CO2を出さない原子力発電」とみると「でも放射能と核廃棄物は出す原子力
 発電」とつっこみたくなる今日この頃。

★皆川ちかさん(ライター)―――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/
  ●ハード キャンディ
     http://www.hardcandy.jp/
  ●ローズ・イン・タイドランド
     http://www.rosein.jp/

  「ゆれる」は兄弟ドラマであり家族ドラマであり法廷劇であり、上京・帰郷ものでも
 あります。兄弟の出身地は東京から遠く離れた地方都市、それも車がなければ生活でき
 ないような土地柄であるところが、私の小さな胸に強く刺さりました。田舎町を牧歌的
 な安息の地ではなく、息が詰まりそうに閉塞した場所として描いていて、特にヒロイン
 が焦燥感に駆られるくだりは、知ってる人でないと描けない感情だと思うよ。

 【裏ベスト】
  ●青春☆金属バット
     http://www.s-bat.com/

  主人公は27歳のコンビニバイト青年…。「やわらかい生活」同様に、これも私にとっ
 てはホラー映画です。まさかこの人も海に行きたがるとはなー。

 【封切は終わったけれど…】
  「インプリント~ぼっけえ、きょうてえ~」。怪物的な人物がどうして怪物的になっ
 たのかを共感をもって(観る人がこの人物に感情を注げるように)描くあたり、三池崇史
 は本当にいいね。「オーディション」時からさらに(『殺し屋1』を思い出させる部分
 もあり)更新した拷問シーンさえカットすれば、この夏休みに子供たちに観せたいくら
 いだよ。勿論お坊さんの説教をつけて。

★みのわあつおさん(ポップカルチャー評論家)――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●2番目のキス
     http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/
  ●ローズ・イン・タイドランド
     http://www.rosein.jp/
  ●ハーダー・ゼイ・カム ※リバイバル上映
     http://www.cinefil.co.jp/hardertheycome/html/index.html

  『2番目のキス』。ファレリー兄弟+サタデー・ナイト・ライブ組+ボストン・レッ
 ドソックスと、昔から大好きなアイテムが3つも揃っていれば、もうそれだけで合格で
 す。
  『ローズ・イン・タイドランド』。テリー・ギリアムがロウ・バジェット・ムービー
 でも完全復活したことの証明。
  『ハーダー・ゼイ・カム』のリバイバル上映。「いまどき」観ると、より良いでは。
 マカロニ+ブラックスプロイテーションのテイストですから。もう何度も何度も曲がリ
 ピートされ、プロモ効果の抜群の作品!

★宮城正樹さん(映画&音楽の批評&分析家)―――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●1位)ローズ・イン・タイドランド
     http://www.rosein.jp/
  ●2位)ゆれる
     http://www.yureru.com/

  『ブラザーズ・グリム』以上にテリー・ギリアム監督のハチャメチャ感が戻ってきた
 1位。『未来世紀ブラジル』のヒーローは少女に変身、セピア色をメインに斜めカット
 を多用しワケ分からん感を創造。スピルバーグ作品や『ナルニア国物語』のパロディ
 も。2位の邦画は'78年の裁判映画『事件』をコンパクトにした風な作り。最近『間宮
 兄弟』『雪に願うこと』など兄弟ものが多い中でも、抑揚を効かせたオダギリジョーと
 香川照之の演技VSが熾烈。

 【裏ベスト】
  ●1位)ハチミツとクローバー
     http://www.hachikuro.jp/
  ●2位)笑う大天使(ミカエル)
     http://www.michael-movie.com/

  共にコミック原作。『青い山脈』『ヒポクラテスたち』ほか映画で系譜を辿ろうとし
 たが…の1位。コレってTVのトレンディードラマへのリスペクトとちゃうか。『ふぞろ
 いの林檎たち』とか柴門ふみ原作『あすなろ白書』。地上波テレビっ子世代は観んとい
 かん。2位はVFXとアニメと実写の合成をメッチャやったナンセンス・コメ。ネイティヴ
 上野樹里の関西弁がハマり過ぎ! こっちは『桜の園』やなく『ベルサイユのバラ』や。
 ヅカ・ファン必見?

 【封切は終わったけれど…】
  本年のアカデミー賞は混戦だったが『クラッシュ』が作品賞をゲット。多種多彩な人
 間ドラマを交錯させた映画は、'32年『グランド・ホテル』以来2度目の受賞だ。これ
 まで『ナッシュビル』『パルプ・フィクション』『マグノリア』等が選から漏れた。LA
 を舞台に白人、黒人、中国人、ペルシャ人らが入り乱れ、それぞれの人間の感情と触れ
 合いがトータルとして泣ける感動作。VHS、DVDレンタルは7/14、セルDVDは税込
 \3,990で東宝より7/28発売。

★宮崎祐治さん(イラストレーター)―――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●ハイジ
     http://www.heidi-movie.jp/

  なぜか、観終わって不愉快になる映画(「笑う大天使」「男はソレを我慢できない」
 なんて映画と呼べないヒドさ)が続くと、こういうきちんと丁寧に作られた映画に、
 ホッとさせられます。

 【裏ベスト】
  ●M:i:III
     http://www.mi-3.jp/top.html
  ●ハチミツとクローバー
     http://www.hachikuro.jp/

  上と同じ理由でメジャー映画というだけで、あまり評価されないウェルメイド映画に
 「面白かった!」と単純に一票入れたくなるこの頃です。トム・クルーズのワクワクす
 るようなストレートな行動力と、まるで50年前の純朴な美大生を見るような懐かしさ
 で、この2本を。

★森直人さん(ライター)――――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●カーズ
     http://www.disney.co.jp/movies/cars/
  ●ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国
     http://tora-ten.com/pc/index.html
  ●ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男
     http://brianjones.jp/
  ●ハイジ
     http://www.heidi-movie.jp/
  ●ゆれる
     http://www.yureru.com/

  なにはともあれ『カーズ』! 観てソンなしです。音楽モノは本当に秀作が続く。
 『ハイジ』は、アニメシリーズ『アルプスの少女ハイジ』すりこみ世代として納得度の
 高い出来でした。

 【裏ベスト】
  ●笑う大天使(ミカエル)
     http://www.michael-movie.com/
  ●ハチミツとクローバー
     http://www.hachikuro.jp/

  キャストもかぶっているこの2本(笑)。熱心なマニアの多いマンガを、賛否両論承
 知で映画化した心意気に拍手です。

 【封切は終わったけれど…】
  気になってる未見作なら多々…。

★山田宏一さん(映画評論家)――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  とてもすべて見きれないので、せめてこの1本を……ということで、
  ●王と鳥
     http://www.ghibli.jp/outotori/

  ポール・グリモーのアニメーションの傑作『やぶにらみの暴君』(1952)をポール
 ・グリモー自身が1967年に修正・改作(!?)したもの。スタジオ・ジブリの心のふる
 さとを垣間見る感じ。

 【裏ベスト】
  不見点で
  ●ウルトラ・ヴァイオレット ※6月24日封切
     http://www.sonypictures.jp/movies/ultraviolet/index.html

  ミラ・ジョヴォヴィッチの新作なので、これから見るのがたのしみ。その他、ウスマ
 ン・センベーヌ監督『母たちの村』、ラッセ・ハルストレム監督『カサノバ』なども。

 【封切は終わったけれど…】
  『ダ・ヴィンチ・コード』も『嫌われ松子の一生』も、あわてて追いかけて見に行っ
 たのですが……。

★渡部実さん(映画評論家)―――――――――――――――――――――――――――

 【ベスト】
  ●チーズとうじ虫
     http://chee-uji.com/

  今年の日本映画は女性のドキュメンタリストによる作品が多く興味津々ですが、「チ
 ーズとうじ虫」という珍しい題名のドキュメンタリー映画もその一本です。一人の女性
 が肉親の死にいたるまでの生活を記録した内容で壮絶な闘病記とも思われがちですが、
 娘である監督の家族愛に満ちたプライベートな作品として印象に残りました。

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┣編集後記┫

◆読者の皆様、どうですか、このメルマガ? 本当に面白いですよね。年間ベストテンに顔
 を出す勢いの『ゆれる』や『トランスアメリカ』『ローズ・イン・タイドランド』なん
 かが人気作なのはもちろん。しかし『ディセント』が【表】【裏】共に、こんなに推薦
 を得るなんて、Fはもうゾクゾクしてしまいます。思えばプレ創刊号の【表】【裏】合
 わせた一番の人気作が『SPL 狼よ静かに死ね』でした。創刊号の人気作は『グッドナイ
 ト&グッドラック』はじめ真っ当なラインナップが並び、第二号は『ココシリ』がぶっ
 ちぎり(ぜひホームページのバックナンバー見てやってください。コメントがいっぱい
 並んで実に壮観です)! ご協力いただいているプロの皆様の実に多彩なベストに毎号感
 激が止まりません。今号では裏ベストの方に『ハチミツとクローバー』と『笑う大天使』
 の両方がけっこう選択されているってのもまたクスグられますよね。  (れがあるF)

◆ホームページまたまた大幅リニューアル! 最初に出てくる表紙のデザインを大人っぽ
 く変えてみました。僭越ながら自筆イラストを入れたので見てくださいネ。あまり似て
 ないけど(笑)モデルはブリジット・バルドーです。参考文献「SAM LEVIN PORTRAITS
 スター 映画の肖像」山田宏一編(平凡社)   (れがあるU)

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★今回もっとも人気のあったベスト作品は『ゆれる』★
★今回もっとも人気のあった裏ベスト作品は『2番目のキス』『ハチミツとクローバー』★
★ベスト、裏ベスト合わせてイチバン人気の作品は『ゆれる』でした★
★次号はいよいよ夏休み! 8月封切の話題作が続々登場します。お楽しみに!★
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■発行日:2006年6月30日
■発行者:れがある http://www.ne.jp/asahi/regard/best-urabest
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